Chapter 1 - いち
「いらっしゃい。今日もいつものでいいよね?」
太陽が照り返す熱いアスファルトの上から避難するように、開け放たれたドアの向こうを訪れる。
街の少しはずれにある女の子が1人でやっているカフェ。
彼女の問いに小さく頷いて、一番奥にあるいつもの特等席の角席に座る。
レトロな雰囲気の落ち着いた場所。初めて来た時は自分とは違う世界だなぁ、と文字通り見上げたものだった。
「お待たせ。今日は暑いからホットミルクにしてみました」
熱々のミルクを持って彼女はこちらへとやってくる。
どうやらこんなに暑いのにホットミルクを持って来てくれたようだ。
その皮肉が伝わったのか彼女は笑顔で目の前にゆらゆらと湯気が舞う熱そうなミルクをゆっくりと置いた。
「まぁまぁ、騙されたと思ってほら飲んでみなって〜」
口を付けるのを待つかのように、じっとこちらを見つめる彼女。
それに答えるようにひとつ、口を付けると案の定の塊が舌を焦がす。
「あっ、ごめんね。そんなに熱かった⁉︎ 今から冷ますのは……。うん、冷めるまで待って!」
こちらを心配してるのか遊んでるのか分からない対応につい、溜息が漏れる。
そんなのだからいつもこんなにお店の中ががらがらなのでは無いだろうか? その方が僕のようなのでもこうして入れるのだからありがたいのだけど……。すこし彼女の事が心配だ。
「そんな溜息なんてついてー。何か不満ですかぁ?」
不満がないわけじゃないけれど、それをわかっているくせに聞いてくる彼女の手のひらで踊るのがなんだか癪で、そんな彼女をちらりと一瞥しミルクに口を付ける。
そうしてまた口の中を軽く火傷して、しばらくはここにないと心に誓った。