今日は友でも明日には敵


因幡の白兎2020/07/18 12:42
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俺は幼少期に児童養護施設にいた。 表の顔は障がいの子供を世話をする施設だが、裏では多額の金で親から子供を買い取り、核兵器に変わる抑止力となる生物兵器……ウイルスの開発をしていた実験場。いわば、そこに入居した子供たちは、親から棄てられたあげく、新兵器となるウイルス開発の人体実験用のモルモットだったというわけだ。 はぁぁ……。 俺がまだ施設にいたとき、毎日友達が殺され……地面に埋められた。 衣食住は保証されているが、明日は自分が死ぬかもしれないと怯えて過ごす毎日。しかし、そんな恐怖も先に殺される友達を見ている内に、俺も早く死んで、死後の世界でもう1度友達と遊びたいと思い始めた。 俺も開発段階のウイルスが投与され、何て表現すればいいのか分からない苦痛に全身を支配されたが、これで俺も友達の所に逝けると思うと嬉しかったが……俺は先に殺された友達のように死ねなかった。 ウイルスを投与され意識を失い……目覚めた日の事は忘れもしない。 ウイルスの影響か背丈が成長した自分の姿。殺されて埋められたはずの友達に襲われ、涙ながらに……殺してと頼まれたこと……掴んだ頭から伝わってきた首の骨が折れる感触……ぜんぶ……憶えている。 化物を殺す度に……最期に振り絞る言葉には……毎回胸が引き裂かれそうになる。 開発段階でも人を苦しめ、ウイルス開発を成功させたのにも関わらず、無関係の人々を苦しめ続ける、あいつ等だけは絶対に俺の手で殺す。 それまでは、何があっても……どんな状況で、どんなに辛くても……俺は死ぬわけにはいかない。

悪夢の始まり

 何も見えない。

 死んだ後の世界って、真暗だったんだ。

 僕がどこに居て、どこに立っているのか分からない。死んだら先に殺された友達に会えると思っていたけど、こんな世界では友達を見つけるのは……あっ、光が見える! よく分からないけど、とりあえず光の所に行けば……あれ? まだ近づいていないのに、光の方から近づいてきている。いや、真白い球体がどんどん大きくなっているんだ! あの光に飲み込まれたら、どうなるんだろう!? も、もしかして……死ぬ? まだ友達に会っていないのに、それだけは絶対に嫌だ! とにかく逃げ――


「うわぁぁああ!! はぁ、はぁ、んっ、はぁぁぁ」


 ここは……どこだろう?

 ベッドにマクラ……さっきのは夢だったのかな?


「だれか~」


 僕の声が小さくなりながら、何度も響くだけで、他の人の声が聞こえない。ここには、僕の他に誰も……あれ? 僕の髪って、こんなに長かったっけ? 爪も……腕とか足も伸びているような気がする! と、とにかく! 自分の姿を確認できる物を探そう! この部屋には……僕が寝ていたベッド以外には何も置いてないから、ここには無さそうだな。あっ! そういえば、僕の部屋に行けば鏡があったはずだから、僕の部屋に……僕の部屋?


「うっ、うぅ」


『102番……来い』

『博士! ウイルスと細胞が結合しています!』

『血液を採取しろ』


「うぅぅぅ!!」


『これ以上は危険です!』

『もっと接種させるんだ!!』


 そうだ……僕はこの部屋で注射を打たれたんだ。

 この部屋に連れて行かれた友達は必ず死体で出てくるから、友達とは死の部屋って呼んでいたんだっけか。でも、もしここが死の部屋なら、僕は何で死んでないんだろう?



 なんだこれ? 全部屋の扉は開いているのに誰もいない。掃除は毎日やる事になっているはずだけど、僕の足跡がハッキリ分かるほど廊下に埃が溜まっている。それに、床や壁にある赤い手形とか伸び広がっているのは……血かな? 廊下だけじゃなくて、部屋も荒れて果てているから、どこが誰の部屋か見分けにくいなぁ。


「えっと、ベッドの隙間に……あ、ここが早苗ちゃんの――」


『早苗ちゃん! 前髪切りすぎだよー!』

『さなえぇぇ、俺の髪……あはは! お前その髪なんだよ!』

『早苗ちゃんに虐められたぁぁ』

『目に入らないくらい短くしてって言ったのは、○○じゃない!』

『そうだけど……でもさぁぁ』

『ははは、俺の前髪はパッツンじゃない方向で頼むよ』


 1人だと怖かったけど、みんなと一緒に居た時だけは、死の部屋に連れていかれるかもしれない恐怖を忘れられたし、本当に楽しかったなぁ。みんなは……ここを抜け出したのかな? 外の世界で夢を叶えられていると――


「だれ!?」


 あ、空瓶が風で転がっただけか。


「――!!」


 また空瓶が転がってきたけど、1個目の空瓶が転がらないって事は風じゃない! 誰かが廊下で空瓶を転がしているんだ! もし、白衣の人なら、また死の部屋に連れて行かれて注射を打たれる事になるかもだけど……勇気を出して確かめないといけない! そっと、そーっと、物音を立てずに、顔だけ少し出して……。


「う、うぅぅ」

「陸くん? 陸くんだよね!?」

「うぅっぅ、はぁぁ」

「陸くん、大丈夫? ここで何が――うぐぁぁぁ」

「ぐるぉぉおお」


 注射を打たれた時よりも痛くは……いっっつぅぅ!

 陸くんとは同じくらいの身長だったけど、目線を下げないと陸くんの顔が見えないから、僕の体は寝ている間に大人になったんだ。多分、陸くんは僕の事を白衣の人だと思ってる。死の部屋に連れて行かれたくないから、腕を噛んで抵抗――


「うわ!」

「ぐるぅ! がぁぁ!」

「陸くん! 僕だよ……大和だよ! 僕のこと忘れちゃったの?!」

「うがぁぁぁ!!」


 片腕を噛まれても、体格差があるから僕の方が有利なのに……凄い力だ! 肩を掴む腕を振り払うどころか……また、噛みつこうとしてくる、陸くんの顔を両手で抑えるだけでも精一杯だ。


「陸くん! 本当にどうしちゃったんだよ!? いつも僕が怪人役で、陸くんが仮面ライダー役だったじゃないか!」

「ぐるる、ぐがぁぁ!」

「これじゃ、陸くんが怪人じゃないか! 僕のことも、一緒に見てた仮面ライダーのことも忘れちゃったの!? ねえ! 陸くん!!」

「ぐぅ……ぅぅ」

「陸くん……そうだ! 怪人なんかに負けないで!」


 涙を流すってことは、陸くんは完全に僕との思い出を忘れたわけじゃない! 怪人に操られているだけなんだろうけど……どうすればいいんだ!?


「ころ、して」

「そんなこと、出来るわけないじゃん!」

「はや、く……ころ……うがぁぁ!」


 友達を殺すなんて出来るわけないよ! けど、陸くんを抑える腕の感覚がなくなってきた。このままだと、また肉を食い千切られちゃう。それで満足してくれるなら良いけど……最悪全身の肉を喰われるかもしれない。くそ、くそ、くそぉぉぉ!!


「はぁ、はぁ、はぁ」


 声を上げることも、暴れることもなくなった。

 僕が……殺したから……陸くんは死んだんだ。未だに耳に残る不協和音……首の骨が折った感触が残る手……気持ち悪い! こんな耳と手なんか――


「……やま……と……くん」

「陸くん!? あ、あぁぁ、ごめん! 本当にごめんなさい!」

「あ………り……が…………とう」

「無理に喋らないで! 今、首を元に戻してあげるからね! 痛かったよね? でも、これで痛くないよね?」

「……………」

「陸くん?」

「…………………………」

「陸くん……う、うぅ、うわぁぁ! ごめん! ごめんね!」


 このときは、陸が襲い掛かってきた理由が分からず、陸の死体を抱き締めながら、ただただ泣く事しか出来なかった。これも悪い夢だと思い、顔から感覚が無くなっても殴り続け、額から血が出るまで床に頭をぶつけ続けたりしていた。


 陸が襲ってきた理由を知るのは、荒れ果てた廃墟と化した施設から出た数日後だった。



=====


【おまけ・NGシーン】


1,大和が目覚めるシーン


「うわぁぁ、ごほ、ごほ! ちょ、ちょっと……ごほげほ!」

「カットー。だいじょうぶですか?」

「えほ、げほ、小虫が口の飛び込んできた」


2,髪の毛の回想シーン


「さなえぇぇ、俺の髪……ははは、お前……ぷっ!あははは!」

「はい、カット」

「あっはっはっは!マジかよ!」


 テイク2


「早苗ちゃん! 前髪切りすぎだよー」

「さなえぇぇ、ぷっ!俺の髪……ふふ、俺の髪……ふふふ」

「はい、カットー」

「次笑ったら、撮り終えた後に前髪パッツンね?」

「いや、いやぁぁ、笑うなっていう方が無理だろ」


3,陸が大和に襲いかかるシーン


「陸くん、大丈夫? ここで何が――どうした!?」

「ベロ……ベロ噛んじゃった」

「あっはっは、その勢いで次は頼むぞ」


4,陸と大和の戦闘アクションシーン


「陸くん! 僕だよ……大和だよ! 僕のこと忘れちゃったの?!」

「ころ、して」

「…………ぷっ! ああ、台本の方を忘れたのね」

「ごめんなさい」

「いいよ、いいよ、もう1回」


 終わり

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