絶世の美女が俺の恋人に!? 前世は王女様とその従僕。いや、全部マッチポンプだから!
Chapter 22 - 第二十一話「暴走族【闇夜叉】の受難(前編)」
ここはとあるシンジケートの一角。
「げほっ、げほっ! いてぇなぁ、くそぉお! 煙草も吸えやしねぇ!」
男が悪態をつき、加えていた煙草を地面に叩きつけた。
男の名は城島猛。暴走族【闇夜叉】を率いるボスだ。
城島の喉には、包帯がぐるぐるに巻いてある。
城島は、最近まで喉の怪我で入院していた。怪我がある程度治り退院したのだが、まだ十分に回復していない。煙草を吸うたびに、煙が喉を刺激し激痛を伴っているのだ。
愛煙家の城島にとって煙草を吸えないことは、地獄の苦しみに匹敵する。
許さねぇ。絶対に許さねぇ!
城島の顔には、火傷痕がある。そのかさぶたがついた顔を掻きむしりながら、城島はこれまでのことを思い出す。
最初は、運が向いてきたと思った。
敵対していたチーム【紅蓮】のボスが事故で入院。いち早く情報を入手した城島は、チームを率いて強襲をかけた。結果、縄張りを楽に分捕れた。【紅蓮】の幹部は軒並み再起不能にしてやったし、【紅蓮】のボスが退院して戻ったとしても後の祭りだ。
【紅蓮】は機能せず、既に瓦解している。
族時代の節目だ。関東に一大勢力を築いた【紅蓮】は滅び、【闇夜叉】の名が一気に全国区となった。
城島は、十五で族の世界に入り、数年で愚連隊の頭(ヘッド)に就任。その後着実に勢力を広げ、ついに関東の雄【紅蓮】まで滅ぼしたのだ。今や族の世界で【闇夜叉】の名を知らぬ者はいない。
城島は、肩で風を切って歩く。城島の前を遮る者はいない。
関東の新覇者となった城島であったが、その野望は留まることを知らない。
もっともっとでかくなってやる!
敵対勢力を次々と傘下に治めながら、組織を大きくしていく。そして、ついに総資産数十億といわれる天下の小金沢グループと縁を結べたのだ。
縁の相手は……小金沢グループの御曹司、小金沢 紫門(ゆりかど)。
城島にとって紫門(ゆりかど)は、最高の相棒であった。
紫門(ゆりかど)は、とにかく金払いがよい。些細な仕事でも成功すれば、気前よく金を払ってくれる。もちろんそれ相応の後ろ暗いことをやらされたが、問題なかった。なにせその後ろ暗い仕事が城島の趣味とマッチしていたからだ。
城島が好き勝手に暴れても、小金沢グループの権力で守ってくれる。
傷害、暴行、麻薬売買……。
やばめの犯罪に手を染めてもお咎めなしとくれば、利用せずにはおれない。
多少小間使いの真似をさせられようが、それがどうした?
それを差し引いたとしても旨味がある。
城島と紫門(ゆりかど)は、またたくまに蜜月の関係を築いた。
ケチがついたのは……一週間前。紫門(ゆりかど)が一般人のガキを襲えと命令した日だ。
チッ!!
城島は、大きく舌打ちをする。
嫌な予感はしていた。
今まで好き勝手にやれたのも、同じワルが相手だからだ。不良同士の抗争に警察はあまり干渉しない。
だが、一般人、それも中学生のガキを襲えば、さすがの警察も重い腰を上げずにはおれまい。
城島は、不安を隠しきれなかった。
本当に大丈夫なのか?
城島は、何度も紫門(ゆりかど)に確認した。
だが、紫門(ゆりかど)の返答は変わらない。警察の介入は、絶対に阻止するから思いっきりやれと言う。
一株の不安を覚えつつも、相棒の紫門(ゆりかど)がそこまで自信を持つならと、承諾した。
もともと弱い者虐めは嫌いでない城島だ。
警察が介入せずに中学生の女を襲えるのだ。スレた不良女ではない、青い果実を。
今まで我慢していた極上の獲物を襲える……その事実に城島は、歓喜した。
信頼のおける幹部を集め、計画を練った。
まずはターゲットの帰宅ルートを調べ、下校で独りになる時間を割り出し、襲った。
今回は楽でおいしい仕事、そう思っていた城島だったが……。
結果は、散々であった。
ターゲットを捕捉、車に連れ込もうとしたら何者かに襲撃された。
敵対チームの襲撃か!?
身構えていたら、襲撃者の正体はなんと小柄な少女であった。
それもツインテールをしたとびきりの美少女である。
カモにネギ。ターゲットが増えたと喜んだのもつかの間……そいつは、とんでもなく狂暴なカモであった。
精強で知られる【闇夜叉】の幹部達が、蹴られるわ燃やされるわ刺されるわ。
顔や手に火傷を負った者、喉に傷を負った者、被害は多数。
特に酷いのが、副総長のヤスだ。ヤスは脊髄に損傷を受け、全治三か月の重傷だ。
ヤスは幹部の中でも群を抜いて強い男だ。伊達に副総長に任命していない。ヤスは、敵に鉄パイプで殴られようが、ひるまずに殴り返すタフガイだぞ。それをいくら無防備な背中を蹴られたからって、あそこまで一方的にやり込められるのか?
ツイン女は格闘技を習っている、いや、あれはお上品なスポーツの動きではなかった。明らかに実践慣れした喧嘩の技だ。
とにかくツイン女のせいで、幹部全員が重傷だ。
まともに動ける者はいない。
うちの精鋭が根こそぎやられ、チーム【闇夜叉】は機能不全に陥いった。
幹部が不在なのだ。敵対チームから今まで奪ってきた縄張りは奪い返されるし、不審に思ったメンバーの脱退が相次いだ。
ちくしょうがぁああ!
さらにイラついたのが警察(サツ)だ。やっと退院できたと思ったら、次は警察(サツ)の取り調べである。
誰にやられたか?
開口一番、警察(サツ)の野郎が、つまらない質問を投げてきやがった。
もちろん正直に言えるもんじゃない。
関東に覇を唱えた天下の【闇夜叉】が、たかが女一人にやられたとでも言うのか?
しかもその女は、可愛らしい制服に身を包んだ中学生だぞ。
とんだお笑い種だ。
ばれたら他のチームにとことん馬鹿にされる。いや、馬鹿にされるだけならまだいい。【闇夜叉】は武闘派で成り上がったチームだ。その武力の信用を失えば、傘下のチームが離脱する。それどころか襲撃を受け、下剋上されることもありうるだろう。
城島は幹部共と口裏を合わせ、他チームとの抗争の結果ということにした。
あぁ、忌々しいぜ!
さんざんコケにしてくれたツイン女……。
ここまで舐められたらチームの沽券にかかわる。
ツイン女の名前も住所も知らない。
だが、その友達であろう女のヤサは掴んでいる。
白石真理香……。
この女の身辺を洗えば、ツイン女の正体が浮上するだろう。
浮上しなければしないで、それは構わない。やりようはいくらでもある。ツイン女にとって、白石真理香は大事な親友のようだ。白石真理香を人質におびき寄せればいい。
ツイン女は、多少喧嘩に強いかもしれない。それこそ喧嘩自慢の男よりもだ。だが、それがどうした!
ケンカは数だ。
たっぷり罠をしかけて迎えてやる。
そんで捕まえたら、とことん地獄を味わわせて、生きていることをひたすら後悔させてやる。
城島は暗い笑みを浮かべ、報復の手段を考える。
…………。
それにしても遅い。
退院祝いにと、景気づけに呼んだ女がこない。
「酒はまだか? 女はどうした!」
テーブルに置いてあった飲みかけの缶ビールを投げて、怒鳴り散らす。
返答がない。
おかしい。
チームが壊滅したといっても、まだまだ人はいる。
人っ子一人いないのは説明がつかない。
他チームの襲撃か?
今、幹部が軒なみやられている。
可能な限り情報を秘匿しているが、どこから漏れるかわからない。
あるいは傘下チームの下克上の線かも?
……どれもありうる話だ。
城島は懐に隠してある銃を手に取り、おそるおそる部屋を出る。
ん!?
部屋を出るや、城島は部下が倒れているのに気づいた。
「……襲撃を受けたか」
ぽつりとつぶやく。
「正解」
「だれだ?」
思わず漏れた独り言に反応した奴がいる。
「どこにいやが――ぐはっ!」
振り返ると同時に横殴りの衝撃が脳を揺らした。
意識が飛びそうになる。
殴られた?
誰に?
強烈な一撃だった。
頭の芯まで響くような痛みと吐き気に襲われた。
「……探すの、少しだけ骨だったわ」
「て、てめぇは!」
霞む目を見開き、襲撃者を見る。
あ、会いたかったぜ。
闘志がめらめらと燃えあがるのを実感する。
乱入してきたのは、今の今までどう殺してやろうか考えていたターゲットのツイン女であった。