Chapter 3 - 3.バニラトラックと生命粉とメテオストーム
よく見ると、バニラトラックは、日野の二トントラックだった。
トントン、トントンっヒノノの二トンてやつだな。
フロントガラスの上には四角い目のような形で前方用のセンサーがついていて、なかなかの最新装備ぶりだ。
ただ、フロント部分が木に突っ込んで凹んじゃってるので、動くかどうかはわからない。
シートに上がり、とりあえずキーを回してみるが、案の定、セルの音がするだけでエンジンはかからない。
バッテリーもガソリンも問題ない。
多分、どっか壊れたんだろうなー。
外に出てフロント部分にまわってみるが、エンジンルームをあけようにも、フロントを木に突っ込んでいる二トントラック動かす術がない。
歩いて行くしかないか…
カーレまでの道のりを思い、俺は頭をかかえた。
行くのやめよっかな。
すると、俺の頭からするりと降りたドラゴンが、シートに転がしておいた胡椒瓶をつついて、馬鹿にしたように俺を見上げた。
なるほど。おまえ、頭いいな。
おまえの頭が悪いだけだよと言いたげに、俺の頭に戻るドラゴン。
なんで常にこいつは挑戦的なのかね。
しかし、この粉どこにかければ良いのかね。
俺が蓋を開けたとたん、ドラゴンが胡椒瓶を奪って飛び上がる。
トラックの上を飛び回りながら器用に銀色の粉を振りかけた。
銀色の粉がキラキラと舞い、荷台からタイヤまで滑り落ちる。
「・・・」
何も起きない。
なんか、呪文がいるんじゃなかったっけ?
俺は戻ってきたドラゴンから小瓶を受け取ると、黄色紙のラベルをみてみる。
やはり、読めない。ルーン文字かぁ。英語だってままならないのに、ルーン文字はハードル高いわ。
すると、唐突、
「ウォー!トォー!ポォー!」
頭上のドラゴンが、頭を上に向け、勢いよく叫びだした。
こいつ、呪文が唱えられるの!?
目映い光につつまれるバニラカスタム日野の二トン。
ドルンッ!
エンジンが勢いよく回り出し、
「バニラ、バニラ、バッニラ、求人♫」
こちらも元気に歌い出した。
おお、やった。これで歩かずに済む。
俺の頭の上でどや顔しているドラゴンにうなずいてみせる。
なんか少し照れたような顔をしたのは気のせいか。
俺は、運転席に登るとギアをバックに入れて、アクセルを踏んでみた。
動かん…
『誰だ…』
!?なんだ、誰が喋った?!
社内全体に響く重低音。キョロキョロと辺りを見回すが、
『聞こえているのか?お前のことだ』
俺のことか?
車内に向けて設置されているカメラが一台。
たぶん運転者の様子をモニタリングするようにつけられたのだろう。
そのカメラが俺のことをじっと見ている気がする。
「俺のこと…かな?」
「そうだ。お前のことだ」
そうか、あの粉で喋られるようになるんだっけな。喋るトラック…って、コンボイかよ!
「お前は、私の創造主か?」
創造主?確か、粉を振りかけられた「かかしのジャック」は主人公のことを「お母さん」とか言ってたな。それなら…
「創造主。まあ、そういうことになるかな。俺のことは、スパイクと呼べ」
調子に乗ってみる俺。ドラゴンが頭の上で嫌な顔をする。は虫類なのに器用な奴。
「なるほど。我が創造主たる、スパイクよ。して、私の名は?」
名前ねぇ。どうしよ。いくつか思い浮かんじゃったよ。
キッド。
コンボイ。
バニラ。
ヒノノニトン。
あの黒光りする「ポンティアック・トランザム」で、フロント部分で赤いライトが行ったり来たり光っていたなら、俺のことは「マイケル」と呼ばせて、ヒノノニトンは”キッド”と呼ぶんだけどな。
変形できないから、コンボイはないかなぁ。できないかなぁ…変形。変形ロボは男の憧れ。できればトムキャットで変形したいね。
バニラとヒノノニトンは、そのまんまだね。
よし、じゃあ、組み合わせよう。
「キッド。お前はこれから、キッド・ヒノバニラカスタムと名乗れ。人型に変形出来るようなったら、コンボイのミドルネームを与えよう」
「承知した、我が主よ」
バニラトラックはゆっくりとバックを開始した。フロント部分をのぞいてみると、綺麗に修復されている。魔法の粉、便利だなー。
「とりあえず、北に向かってくれるかな」
「承知」
器用に自分でギアを入れ替えると、軽快に走り出した。
すげー。自動運転なんて目じゃないぜ。これぞ、理想的な全自動運転。
「ところで、スパイク」
ん?今度は何だ?
「後ろからついてきている者は乗せなくて良いのか?」
後ろから着いてきている?誰だそれ。
バックモニターに切り替えてみる。
何か、黒い人影が走って追っかけてきているような…
サイドウィンドウから顔を出してのぞいてみると、黄色い道を疾走しながら追いかけてくる黒い影が一つ。
とりあえず、キッドにスピードを緩めるように言ってみる。
影はスピーけっこうなドでこちらに向かってきた。
煌々と赤い目が尋常無く光っている。
それと、なんか、叫んでるな。
『マテ…ワタシノブーツヲカエセ…』
腹の底に響くような声が耳もとに届く。
頭の上のドラゴンが低くうなった。
こ、怖い。マジ怖い!
こちらに向かってまっすぐに走ってくるその姿は、昭和なら口裂け女、平成ならT-2000って感じ。
東の魔女の亡霊か、それとも復活したのか。
俺は慌てて、
「キ、キッド、ターボだ!」
「承知した」
あ、通じた。
キッドはギアを入れ替えると、黄色い道を猛然と走り出した。
流石に追ってくる黒い影が小さくなっていく。
しばらく走って立ち止まると、こちらに赤い目を向けたまま、両手を振り上げた。
そのまま暫く静止する。
耳元にしわがれた女の声が聞こえはじめた。
「テ、テンクウの使者…ホし星の子らよ。我らマ道の者トの契約ニシタがい、そのミを天より地へと移さん…」
これってあれ、魔法詠唱だよな。
腹の底に響くような重量のある言葉の羅列。
嫌な予感がして見上げると、これまで青く晴れ渡っていた空が急激に暗く、そして赤黒く染まり、星のような光点がいくつか現れる。
すると、その光点は徐々に大きさを増して近づいてきた。
いきなり、衝撃波と共に、キッドの目の前の道に巨大な穴が空いた。
すると、それを皮切りに連続したすさまじい擦過音。
トラックの行く手を続けざまに大小の飛礫が空間を切り裂き、地面に強大な穴を穿つ。
「め、メテオストームかよ!!」
ちょっとした悪魔でもしっかり撃退できそうな隕石招来魔法。実際に目の当たりにすると、その凄まじいことこの上ない。
宇宙から飛来した拳大の隕石群は、ものすごいエネルギー量で空間を切り裂いて、地面を削っていく。
キッドはというとそんな凄まじい落下物の嵐の中を、冷静に縫うようにして走り抜ける。
映画でよく見るカーチェイスさながらのドライビングテクニックで走り抜けるキッド。
ドカンッドカンッと落ちてくる隕石。
陽気に歌い続けるバニラトラック。
隕石をギリギリで避ける度に、やけくそでウェイブしてみる俺とドラゴン。
オフスプかなんかかけてくんねーかな。
思わずつぶやくと、ステレオから「All I want」が流れ出す。
気が利くねー。
ギリギリで隕石を避け、穴を避けて、時には軽くジャンプして走り続けるバニラトラック内で、俺たちは、車がはねる度に両手を振り上げ、半ばやけくその歓声を上げ続けた。
後ろから追ってきていた影、たぶん、東の魔女?が小さくなり、やがて視界から消えると、空が徐々に晴れ渡り、最後に小石程度の隕石がコツンと運転席の上の屋根にはねて、メテオストームも終わった。
やれやれ。