Chapter 9 - 時給300円の死神/藤まる
この世界は残酷だ。
これだけの思いを奪ってゆくのだから。
生きろと、前へ進めと、俺の背を強く押す。
大切な記憶と引き換えに、何よりも大きな強さを授けて。
だから、俺は勇気を振り絞った。
あらゆる希望を、消えゆく命に託すと決めたから。(本文より)
死者を通して絶望から希望に続く道のりを探す人情物語。
まず、なんといってもタイトルがパワーワード。
時給300円。やっすい。きっと、同じことを思った人が多いに違いない。
金欠でとある目的のために五万円貯める目標を抱いた佐倉と、佐倉に時給300円のアルバイトを持ちかけた花森。この物語は、佐倉の彼女である朝月の悩みを解決することから始まる。
ロスタイムを迎える死者は、必ずしも善人ばかりではない。こちらの願いと本人の願いが食い違ったとき、やるせない思いを抱えてしまうのは、何も生者と死者に限った話ではない。現代であれ場誰しもに起こりえる事態だ。死者に関わる仕事の全てがハッピーエンドばかりではない。様々なかかわりの中で絶望を見て、その最後に『希望を申請する』のは、現実世界でも同じだからではないだろうか。どんなに胸を痛めて、身が裂かれる思いをしようとも、誰にだって等しく希望はあるのだと。希望を持ち、未来を夢見ていいのだと。
どれだけの困難がやってきても、前を向く勇気を持ち続けるのだと。そう、教わった気がした。