Chapter 1 - いつまでもショパン/中山七里
あのどこか飄々とした穏やかさなどどこにもない。自分の縄張りに進む獅子のように悠然とした歩き方だ。
ワジェンキ公園でマリーの相手をしていた岬は仮の姿に過ぎない。今、ピアノに向かう姿こそが本当の岬なのだ。(本文より)
ピアノを通して思い悩み、原因でもあるピアノを武器としてショパンコンクールに臨む、若きピアニストたちのミステリー。
難聴のピアニスト、岬洋介の活躍が描かれたミステリー。本編としては三作目。ショパンコンクールに関わる登場人物たちの葛藤や繊細さ、また周囲で起こるテロへの不安、心の移り変わり、人間らしさがピアノの表現と併せて書かれた一冊。同時に描かれていた別の場面がどこに集約されるのか、最後の最後で繋がるその手腕が凄い。
ミステリーの醍醐味として、誰が犯人なのか予想しながら読んでいくと面白い。
シリーズもののお楽しみといえば、他の巻数での登場人物たちの再登場だ。級友に再会するような、懐かしさに出会える。
このシリーズは、主人公の岬洋介の視点ではなく、それぞれの話の主人公(今作ではヤン)から見た「岬洋介」という人物の物語だ。そういった書き方や、音楽が題材とされている部分が、このシリーズの面白い表現方法ではないだろうか。
惜しむらくは作中に演奏されているショパン曲をちゃんと知らないこと、この作品を語るにあたって、適切な語彙力を備えていないことか。