最弱冒険者と死神さん


時雨パーカー2020/06/06 14:44
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最弱の冒険者、冒険者の面汚し そんな風に周りから呼ばれている冒険者の少女 ナミネはある日パーティーを組んだ冒険者に裏切られ ダンジョンの奥へと置き去りにされる。 モンスターによって死の危機を迎えた彼女がすべてをあきらめかけた その時、一人の少女がその場へと現れナミネを救った。 これは死神と呼ばれる少女と最弱の冒険者の物語である。

プロローグ

誰も居ないダンジョンの中で少女が一人座り込んでいた。

その少女の姿は酷いもので片腕はなく、両目からは血が流れ

それにより今少女が頼れるのは、音だけだった。

しかし、唯一聞こえる音に関してもそれは少女へと

絶望を感じさせるだけだった。

何故ならばすぐ前から獣のような唸り声がゆっくりと

少女の方へと近づいてきているからだ。

(シャドウウルフ・・・追いつかれちゃったか)

少女は冷静にそう考えた。

実際少女の片腕や目に致命的なダメージを負わせたのは

このモンスターだからだ。

しかし少女の今の状態では逃げることは出来ないだろう

何故ならば、少女の後ろには壁があり

少女は壁際へと追い詰められてしまっている状況だからだ

「・・・馬鹿だなぁ私あの人たちはこうするって分かっていたはずなのに」

そういって少女は今朝の事を思い返してみる。

「はい、薬草の納品確かに確認しましたこちらが報酬となります」

「はい、ありがとうございます」

受付の女性からローブを纏った少女ナミネは報酬を受け取る。

報酬として少女に渡されたのは数枚の銅貨と一枚の銀貨だった。

少女はそれを袋に仕舞うとそのまま酒場の入口へと歩き出す。

「おい、見ろよナミネだ」

「ナミネってあのナミネか?」

「ああ、モンスターすらろくに倒せなくて採取クエストで

その日の食い扶持を稼いでいる奴だよ」

「っは、冒険者の恥だなありゃ」

そんな陰口を聞きつつもナミネはそのまま酒場を後にする。

少女は宿屋へと着くなり

そのまま部屋のベッドに体を預ける。

天井を見上げつつ少女は酒場での他の冒険者の言葉を思い返す。

「私だって・・・好きでこんな生き方をしているんじゃない」

そんなことを呟いて、少女はそのまま意識を手放そうとする。

しかし後数秒で意識を手放そうとしたときにコンコンというノックの音で

目が覚めてしまった。

ナミネが扉を開けると一人の女性がそこには立っていた。

「こんにちはナミネさん私は今パーティーメンバーを募集しているのだけど」

「他を当たることを進めますよ」

そう言ってナミネが扉を閉めようとすると

女性はドアの隙間へと手を差し込んで一気にドアを開け放つ。

「貴方、お金が必要だと聞いてきたのだけれども」

「誰にですか?」

「マリアさんによ」

女性の口から出た言葉にナミネは面倒そうな顔をする。

マリアというのはギルドの受付嬢の名前であり彼女がナミネの為を考え

薦めてきたクエストではどれも最悪な思い出しかないからだ。

どうせ今回もロクな目には合わないだろうと思ったナミネは

溜息をはいて

「申し訳ありませんが私なんかを連れて行っても特に何もできませんが」

「あら?貴方は回復魔法が使えると聞いてきたのだけれど」

「使えるには使えますが初級魔法ですよ?」

そうナミネは残念そうな表情で呟く。

本来ならば冒険者には得意不得意があるのだが

どの冒険者も初級魔法全般を使えることが当たり前なのだ。

しかし、ナミネにはそれが出来ない

ナミネも一応は初級魔法を扱うことは出来る

しかし他の冒険者が魔物に決定的なダメージを与えられるのに対して

ナミネの魔法は全体的に言うと弱いのだ。

どの魔法もせいぜいスライムを倒せるか程度の弱さなのだ

それゆえにナミネは周りから最弱の冒険者と呼ばれているのだ。

「それに、私がなぜ最弱の冒険者と呼ばれているか知らないわけじゃないですよね?」

「それについては、ちゃんとわかっているつもりですよ」

「なら、何故でしょうか?」

「貴方が先ほど申していた通り荷物もちですよ」

ナミネは少しだけ考えると仕方なく女性の提案を受けることにした。

そして、次の日にナミネは女性の仲間たちと共に

ダンジョンへと潜ったのだが、シャドウウルフの群れに襲われた際に

突き飛ばされ囮にされ今の状況に至るのだった。

「っふふ、本当に私ってバカですよね普通考えればわかるはずなのに」

自嘲気味に笑うナミネの顔にシャドウウルフの吐息が掛かる。

もうすぐ、もうすぐで死んでしまうだろう

それがわかっていながらもナミネの口元には笑みが浮かんだままだ。

ナミネは見えていない目でシャドウウルフを見据える。

「さて、人生の後悔も終わりましたからだからさっさとどうぞですよ」

ナミネの言葉に頷くかのようにシャドウウルフの牙がナミネの口元へと

立てられる。

しかし、それがナミネの喉を食い破ることは無く

代わりにナミネの顔に液体が掛かる感触が走った。

ナミネが疑問を覚えると同時に聞き覚えの無い声が聞こえる。

「まったく、命を粗末にしてはいけませんよ?」

「え?」

「なんですか?」

「えっと、ありがとうございます?」

声だけ聞こえる中でナミネはお礼を告げる。

相手は少しの間だけ黙っていたが不意に声を掛けてくる。

「立たないんですか?」

「えっと、ごめんなさい今立ちますから」

そう言ってナミネは立とうとするも

ダンジョンの床の液体で足を滑らせて

そのまましりもちをついてしまう

「大丈夫ですか?ホラ」

「えっと、」

「もしかして目が見えないのですか?」

「ええ、ちょっと、片腕と一緒に両目を・・・」

ナミネがそう呟くと声の主は何かを取り出したのか

突然ナミネに液体が掛けられる。

「え、これは」

「動かないでください」

「は、はい」

反射的にそう答えてナミネが少しだけ待つと

唐突に視界が開け眩しい光が差し込んだ。

更には先ほどまでは無かった腕も何事もなかったかのように

元に戻っていた。

「ッ・・・」

「ああ、ごめんなさい大丈夫ですか?」

「はい、何とかえっと一体何が」

「ちょっと高価な薬を使っただけですよ」

だんだんと光に目が慣れナミネが声の主を確認すると

そこに立っていたのは銀色の髪と黄色い瞳のフードを被った少女だった。

自然と胸が高鳴る感覚にナミネは目線を逸らす。

そんなナミネに対して少女は話しかける。

「大丈夫ですか?なぜあんな怪我を?」

「えっと、私弱いので囮にされたんですよね」

「そうなんですか?」

「別にいいんです、私は弱いですしだから最弱の冒険者なんて

呼ばれてるのですよそんな私だから囮にされたんですきっと」

「・・・・決めました」

「・・・・?」

ナミネが首を傾げると少女は

ナミネの手を取る。

「私の名はナギサと言います」

「ナギサさん?」

「ええ、ナミネさん私とパーティーを組みましょう!」

「え、ええええええ!?」

静かなダンジョンの中にそんなナミネの声が響き渡った。

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