Chapter 22 - 閑話 その一
注意
・本編とは何の関係もない思い付きだけのトンデモ設定
・キャラ完全崩壊のギャグ回
・世界観を壊されたくない方は読み飛ばして大丈夫です
~もしアルベルト王子の家名がシュワルツェネッガーだったら~
「……かつてこの大陸は、いくつもの小国家に分かれていた」
塔での暮らしにまだ慣れず心細いので、寝るまで何か話をして欲しいというラプンツェルを相手に、私はこの塔の建っている森を領土に含む国の歴史を語っていた。
「そんな中、圧倒的な筋肉で周辺諸国を制圧し、大国家設立の礎にしたという……人類最強の王族、名をシュワルツェネッガー」
十二歳相応のあどけない笑顔でベッドで横になるラプンツェルが、青い目をキラキラと輝かせながら続きをせがむ。この物騒な国家統一の話の、一体どこが気に入ったというのだろうか。
大層なことを書いてはいるが結局は、むさ苦しい男達の暑苦しい建国記だ。男と出会ったことのないラプンツェルが変なところで拗らせてしまったのかもしれない。
「ただでさえ強靭な身体を鋼鉄魔法で覆い、敵の攻撃をものともせず着実に殲滅していく戦闘スタイル」
そう、極限まで鍛え上げた肉体を、更に輝かせるべく金属で覆って、どんなに攻撃されても怯まず止まらず近付いてくる……自分で言っておいてあれだが、何だこの化け物は。色んな意味で凶悪過ぎるだろう。
「そうして一族に付いた二つ名は『迫りくる終焉』、最早人間兵器だな」
勿論相手などしたくないし、出来れば出会いたくもないものだ。……旗がどうしたって?
いつの間にかラプンツェルは眠っていた。これが子守歌の代わりになっているのだろうか、少し彼女の感性が心配である。
~
「ふーん、これが打楽器って言うんだ」
次の日、ラプンツェルが楽器に興味を示したので、塔に色々な楽器を持ってきた。
「それでこの棒で、太鼓? の真ん中を叩くんだよね」
しばらくの間楽譜とにらめっこをしていたラプンツェルは、叩くためのバチを持って太鼓に向かって振り下ろした。
ドドン、ドン、ドドン。
――ゾワッ!!
ラプンツェルが太鼓を叩いた途端、急激な寒気に襲われる。
このリズムは叩いてはいけない。生物としての本能が私にそう教えている。
「で、これをもう一回繰り返すんだね」
「おい待て――」
ドドン、ドン、ドドン。
私の咄嗟の制止も叶わず、彼女は再び同じリズムを叩いてしまった。
すると森の生き物達が騒がしく叫び始めた――直後に、急激かつ不自然なほどの静寂が訪れた。そして塔へと近付いてくる気配が段々と膨らんできて……。
――来る!
タララ~ラ~ラ~ラ~♪
恐ろしい気配の訪れと同時に、どこからともなく聞こえてくる緊迫感のある曲。一体誰が奏でてるんだ……と思ったら、ラプンツェルのために用意してあった楽器達が独りでに音色を奏でている。
魔法? 幽霊? 何が起こっているかさっぱり分からないが、今は迫りくる強大な何かから意識を逸らす訳にはいかない。
「……『迫りくる終焉』の血は今なお王族に色濃く残っている」
「ソルマお前どこから入ってきたんだ、結界内だぞここ」
突然解説を始めたのは、いつの間にか部屋の中にいた赤き悪魔ソルマ。低い声でのナレーションが無駄に心地よくて少しむかつく。
「その中でも特に危険視されているのが、現国王の三男坊――」
そして、それは現れた。
それは人間の男とは思えないような形をしていた。
人間離れした過剰な筋肉、吸い込まれるような漆黒の髪。
だが、何人たりとも寄せ付けない銀色の皮膚が、それがただの人間ではないことを主張している。
そして身体を覆う銀の正体は、鋼のように硬質な金属魔法。
そう、その光輝く肉体こそ王族の象徴。
「――アルベルト=シュワルツェネッガー」
このアルベルトという男は、結界に守られ高度もあるこの塔を、梯子もなくその身一つで登ってきた。冗談のように盛り上がった筋肉を惜しげもなく見せつけ、窓から部屋の中へと侵入してくる。
まず何故この男は上の服を着ていないんだ。仮にも一国の王子なら素っ裸で出歩くなと言いたい。
「奴も一族の例に漏れず、鋼のような肉体とそれを補助する鋼鉄魔法を受け継いでいる……まさしく人間兵器だな」
それ昨日私も言った。というかソルマは本当にどこから入ってきたんだ、ラプンツェルの部屋にずっと潜んでたなら流石に通報するぞ。
タララ~ラ~ラ~ラ~♪
並べられた楽器たちが勝手にメロディーを奏で続ける。そしてラプンツェルは曲を聞いてで楽しくなったのか、太鼓をリズムよくドンドンと叩いている。迫りくる屈強な男や、理屈も分からず動く楽器のことなど気にもしていない。彼女の精神力は一体どうなってるんだ。
「そして彼ら一族は、どんな激しい戦場でも的確に指揮を聞けるよう、とある音に反応し駆けつけるようにインプットされてるらしい」
違う、この男がここに来た理由は聞いてない。
当のアルベルトはその筋肉を見せつけながら、楽しそうに演奏を続けるラプンツェルに向かって歩いてくる。
しかも度々立ち止まっては不可思議なポーズを取って筋肉を膨らませている。今は横向きに構えて腕を腹の前に構え、胸板を強調するように力を入れている。どこからともなく「サイドチェストぉ!」「仕上がってるよぉ!」などと野太い声が聞こえてくるが、一体これは何なのか誰か教えてくれ。
「とにかく、コイツをラプンツェルに近付けるな!」
「フハハ! これほどの強敵は久々だ!」
ドドン、ドン、ドドン!
ラプンツェルの奏でる太鼓の音が室内に響き、火蓋は切られた。
「我から行くぞっ!」
ソルマが炎の魔法をアルベルトにぶつける。だがアルベルトは炎などものともせずこちらへと歩み寄ってくる。
いやまず室内で炎をまき散らすのをやめてくれ。本とか色々危ないから。
「……仕方ない、あの技を使う」
そう言って身体に凄まじい高熱の溶岩を纏ったソルマは、アルベルトに向かって突っ込んでいった。
おい、いきなり切り札を使うな。本編だとその技使うの三年後だろうが、ラプンツェルまだ十二歳だぞ。
そもそも室内で使う技じゃない、ああもう滴った溶岩で絨毯が燃えてる!
「む……表面だけ熱しても大して効果がないのか」
しかしそんな攻撃を意にも介さず、アルベルトは奇妙なポーズをしている。「キレてるよぉ!」などと野太い声も相変わらずだ。というかキレたいのは私だ。
だがそんな彼の魔法も完璧ではないのだろう、高熱により銀色の肌の表面が僅かにどろりと溶けているのを発見した。
「ソルマ! 穴の中に溶岩を溜めて、そこにその男を誘導するぞ!」
これ以上部屋の中にいられてはたまったものではない。おもにソルマのせいだが。
太鼓を抱えたままのラプンツェルを脇に抱え塔から飛び降りる。するとアルベルトはこちらを追いかけようとして塔の窓から落ちた。足を滑らせたのだろうか、だが落下地点の砂煙の中からは、未だ圧倒的な存在感が感じられる。
「我はこの穴に溶岩を満たせばいいんだな」
いつの間にか横にいたソルマが、用意されていたかのような大きめの穴に溶岩を満たしていく。
ソルマはどうやって移動したのか、そのようなことも考える暇はない。『迫りくる終焉』が止まることはないのだ。
ドドン、ドン、ドドン!
ラプンツェルは私の脇に挟まれながら太鼓を叩いている。どんな執念だ。その太鼓に思い入れも何もないだろう、一体何が彼女を掻き立てるのか。そう思うが笑顔で太鼓を叩く彼女を見て何も言えなかった。
「ゴテルお前……甘すぎるだろう」
ソルマが呆れたように呟くが、そんなこと本編で十二分に分かってるだろう。ともかく奴がすぐそこまで来ている。
私は素早くアルベルトの後ろに回り込むと、懐から取り出した種をばら撒き急成長させた。すぐに生えた黄色いつぼみから高圧の水を一斉に噴射させ、アルベルトを穴の方へと押しこむ。
「落ちろ!」
多量の水に押し込まれたアルベルトはしばらく踏ん張っていたが、足元に出来た水たまりによって足を滑らせ、溶岩で満ちた穴へと落ちた。鋼鉄の身体は左半身から順に、高熱の海の中に溶けていく。
「I'll be back.」
アルベルトは右手の親指を立てながら、ソルマの溶岩魔法の中に沈んでいった。
~
「ふう……今日は色々と災難だったな」
戦闘の後、後片付けなど諸々を終え城へと戻ってきた私は、書斎の椅子に腰かけ一息吐いた。
余りにも色んな出来事が起こり過ぎた。お陰で処理出来ていないこともある。とりあえず、勝手に塔に入り込んだ挙句部屋の中を滅茶苦茶にしたソルマは後でぶん殴る。
本棚から本を取ろうとした時、疲れからか不覚にも取り損ねて落としてしまう。
ガタン、ドン、バタン。
本が机に当たって地面へ落ち、最後に倒れるその音が、偶然にも一定のリズムを取っているように聞こえた。
思わずビクッ、と本を拾おうとした身体が止まる。
「いや、いやいや……まさか、まさか」
思わず一歩引くと、そこには偶然にも立てかけてあった大きな木の板が。
ゴトン、ガン、ドカン。
「………………」
タララ~ラ~ラ~ラ~♪
どこからともなく流れてくるメロディーと共に、後ろから何かの気配が近付いてくる。
ゆっくりと振り返ると、そこにいたのは……。
「I'm back!」