俺の通っている高校は平々凡々を地で行くような、どこにでもある普通の公立高校である。
しかし、一つだけ違うことがあった。それは、
「爆風少女?」
俺は間抜けな声を上げて、聞き返す。
昼休み、いつものように机を合わせて友人たちと昼食をとっていたところ、友人の一人である唐沢が、部活の先輩に聞いたというこの高校で囁かれている噂話をし始めたのだ。
「そう、爆風少女! 気になるだろ⁉」
唐沢は興奮した様子で話を続ける。おい、箸を向けて話すな。みっともない。
なんでも、この高校には喧嘩がめちゃくちゃ強い女の先輩がいるらしい。
唐沢曰く、その女生徒は相手がどんな大男であっても、まるで巨人がミジンコの赤子の手をひねるように簡単に倒してしまうようだ。(ミジンコに手はあるのかと思ったが、スルーした。)
ある時、噂を聞きつけた近隣の高校一体を支配していると恐れられている不良のボスがその女生徒に勝負を挑んだらしい。さすがの女生徒も分が悪いと思われていたらしい。だが、勝負は一瞬にしてつき、ボスがたったの一撃で倒されてしまい、女生徒側の勝利となったそうだ。その時の勝ち方が、相手がまるで爆風に吹かれて飛んでいったように見えたことから、”爆風少女”との異名がついた、とのことである。
「武内、お前もそう思うだろ⁉」
武内は唐沢とは違い、あまり無駄に話すのは好きではない方だ。なのに、一緒にいるのはなんだか不思議な感じがしてしまう。
「――別に俺は興味ない」
武内は微塵も関心がないのか、弁当を食べ続ける。武内は育ちがいいのか、食事をとるときの所作がとても綺麗だ。
「そんなつれないこと言わずにさー、一緒に見に行こうぜ!」
尚もしつこく誘い続ける唐沢。だから、箸を振り回すなって、バカ!
そんなこんなで爆風少女と恐れられている女がいるという話を聞いた俺たちは、特に用事もないため放課後さっそく三人で見に行こうという話になった。(唐沢からの誘いに武内も根負けしてOKを出した。なんだかんだで武内も人がいいのか、付き合いがいい)
しかし、その約束が果たされることはなかった。
「――ったく! 唐沢の野郎!」
そう怒り気味に言ったのは隣を歩く武内である。怒りのあまり、大股で早歩き気味に廊下を進んでいく。
唐沢はこの間受けたテストの成績が壊滅的だったため、担任から呼び出しを受けたのだ。その際に、唐沢が「ごめりんこ! 二人だけで見に行ってきてちょ!」と言ったのがさらに火に油を注いだことは言うまでもない。
「あの野郎、いつかぶっ飛ばしてやる」
武内、その時は俺もお前に加勢するからな。心の内でそう思っていると、
「――ここだ」
武内が歩みを止めて、呟いた。ここが件の女生徒――爆風少女がいるクラスか。そう思うと何だか緊張してしまう。
そんな俺の思いを知ってか知らずか、武内は勢いよく教室のドアを開いたのだった。
「――頼もう!」