指を折ってと指折り待つ彼女

Chapter 12 - 竜宮之葉の独白エピローグ

中田祐三2021/05/23 17:48
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強い痛みで一気に目が覚めた。  

 

 窓のカーテン越しから光の筋が漏れ、雀達の声が聞こえる。

 また痛みが走った。

 痛み止めを飲んでいたことで今日は少しだけ寝ることが出来たみたい。

 とはいえそれも効果が切れたようで、あのときほどではないけれど強い痛みで私は嬉しくなる。

 誕生日から数日が立っていて、初日や二日目は医者から貰った痛み止めでさえ抑えきれなくて寝ることさえ出来なかった。

 でもそれがまるで隆司君と一緒にいるようで心が温かくなった。

 けれど寝れないのはさすがにマズイので、嬉しさ半分、残念半分といった感じ。

 すぐにベッドから起きて、コップに水を注いで痛み止めを飲めばほんの少しの時間で痛みは大分マシになってきた。 

 今日は大学の講義があるから仕方ないとはいえ、隆司君のことを思って「ごめんね」とだけ呟く。

 大学にいけば友人達から「どうしたの?」と聞かれたので「階段から落ちた」とだけ答えた。

 当然のことだけれど、真実を言うわけにはいかない。 

 知っているのは私と隆司君だけ。

 霧子にはまだ会えてないからいまのところは知っているのは二人だけなのだ。

 もっとも霧子はすでに感づいているだろうけれど。

 午前の講義を終了して構内のカフェテラスへと足を進めながらバッグの中を確認しているとスマホが光った。

 メールだ。 画面を見れば霧子からで、ちょうど隆司君と一緒にいるという内容だった。

 

 そして最後に『おめでとう』とだけ書かれている。

 ああやっぱり気づかれていたんだな~。

 あっ、そういえば…。

 ふと霧子との約束を思い出して、もう一度バッグの中をまさぐると『約束のモノ』はちゃんと入っていた。

 誕生日のお泊りの後にちゃんと確認しているからきっと霧子も喜んでくれるね。

 ただ少し恥ずかしいかも。

 それに隆司君には悪いけれど親友との約束だしね。

 なのでもういちど私は口を開いて「ごめんね」と呟く。

 とたんにまるで咎めるように薬指が痛んだ。

 痛み止めの効果が切れるまでにはまだ時間があるはずなので、これは罰でもあるかもしれないと勝手に理解する。

 ふと向こう側から霧子が歩いてくる。 

「おはよう…元気だった?」

「あんたよりは…ね、そこにしてもらったのね」

 霧子の視線を左手に感じる。 私はそれを誇るように彼女の目の前に掲げた。

「惚気話にはいい加減うんざりはしているけれど、次は之葉から聞かせてよ、時間はそれなりにあるときだけどね」

「うん、了解~!あっ、それとこれ渡しておくね」

 バッグから約束のモノを手渡すと霧子は「ありがと」と素っ気無く受け取ってまた歩いていった。 

 目的地のカフェテラスの屋外席には隆司君が座って私を待ってくれている。 

 瞬間、『愛の証』にまた痛みが走った。 

 包帯で何重にも巻かれて二回りは太くなったそれをさすりながら私は密かに歓喜する。

 これは私達の愛の証。 指輪みたいに慣れてしまえば忘れてしまうことの決して無い、強く強固な。

 

 目には見えないけれど確実に私が刻み込まれた愛。 

 痛みによって絶えず消えることの無いその思い出が私を幸福にしてくれる。

 誰にもいえないその喜びをアピールするように私は恋人に大きく左手を振りながら彼の元へと小走りをしていった。