Chapter 55 - 第五十五話 隊長
スパッと縦に切りつけられる石のゾムビー。体の断面から例の石が顔を覗かせている。
「! サケル!」
「だい!」
身体の呼びかけに、答える逃隠。逃隠は刀の剣先でピッと石をゾムビーの体から取り出した。
『今だ! 掛かれ!!』
『ラジャー』
hunter.T州支部の隊員に指示を出す身体と、それに答えるT州支部の隊員。特殊素材の袋を、二人がかりで石を無くしたゾムビーに被せる。石が無くなってしまえばこっちのモノと、手早く捕獲を行う隊員。紐で括り付け、捕獲は完了した。
『あと1体だ』
意気揚々と最後のゾムビーに向かって行くT州支部の隊員。
『待て! 石のゾムビーの可能性もあるぞ!』
冷静な身体。T州支部の隊員へ注意を呼び掛ける。
『へ……?』
「ゾゾォ!!」
突然巨大化したゾムビーは体液を吐いて来た。バシャバシャっと、一名また一名と体液の餌食になる隊員達。
「ゾ……」
「ゾム……」
「まさか……」
身体は一抹の不安を持って例の石をかざす。カッと輝くゾムビーの体。身体の不安は的中する。光った個所は2カ所。このゾムビーは壁のゾムビーだった。
「ゾ……ゾム……」
不気味な呻き声を上げるゾムビー。
「副隊長! どうすれば!?」
必死になって身体に指示を仰ぐ主人公。
「! ……まずはゾムビー化した奴らの処理だ。狙撃用意!」
カチャっと銃器を構える狩人部隊。
「……撃てぇえ!!!!」
「タタタタタタタタ」
身体の号令でゾムビー化した元、hunter.T州支部の隊員を狙撃する狩人部隊。
(さて、どうしたのもか……)
身体は次の指示を冷静に考える。すると、またもや爆破の言葉が脳裏を過ぎる。
(回想)
「私にもしもの事があれば、この部隊を仕切ってくれるのはお前だ。宜しく頼むぞ」
(回想終了)
暫くの間だんまりだった身体、遂に口を開く。
「ツトム! あの壁のゾムビーを倒すぞ!!」
「いいんですか!?」
主人公は不安な表情で問う。
「今、ゾムビー達と和解の道を歩もうとしているのに、倒してしまって。本当にいいのですか!?」
数秒だけ間を置いた身体は主人公に語り掛ける。
「……構わん。全責任は俺が取る。グングニルでアイツを倒すんだ!!」
「! 分かりました!!」
壁のゾムビーの前に立ち塞がる主人公。両手を構える。
「グングニル!! ハッ!!!」
主人公の両手は虹色に輝き、周囲を光で包み込んだ。更に両手から虹色の矢が出て来て、それは壁のゾムビーに向かって行った。
「ゾゾォ……」
矢はゾムビーに襲い掛かる。すると、ブワッとゾムビー自身も虹色に輝き始め、その体はどんどん小さくなっていった。
「ゾォオ……」
壁のゾムビーは更に小さくなっていき、遂にはその姿は消え去ってしまった。
「ポチャン」
壁のゾムビーから出て来た石2つは湿った地面に落ちていった。
「やりましたね」
そう言って主人公は地面に落ちていた石3つを拾い上げた。
「ああ、やったな。ツトム」
身体は主人公に労いの言葉を掛ける。
「昨日の1つと合わせて、コレで全部だい!」
逃隠は石のゾムビーから奪った石を見せびらかしながら元気よく言った。
「でも、本当に良かったのですか? 壁のゾムビーは元々ゾムビーだった個体で、それを倒してしまった。これで和解と言えるのでしょうか?」
主人公は顔をしかめながら身体に問う。身体は堂々と答える。
「なぁに、もしもの事があっても俺が全責任を取る。どんな罰でも受け入れよう」
その時――、
『……ァ……ヤァ人間達』
「!」
「!?」
「!!」
例の“声”が聞こえて来た。
『石ヲ良クゾ集メテクレタ。感謝スル……』
「……ひとつ、いいか?」
身体が神妙な面持ち、でゾムビーの親玉の声を遮る様に言う。
「さっき、ゾムビーを一体、葬ってしまった。和解と言っておきながら、悪かった」
ゾムビーの親玉は返す。
『制御ノ効カナクナッタゾムビーダナ。謝ルノハコチラノ方ダ。ゾムビーニ攻撃シナイヨウ、命令シタガ届カナカッタ。始メハ月ノ軌道上ニ居タ為、距離ガ足リナカッタノダ。今ハ月ノ軌道上ヨリモ地球寄リニ移動シタ』
「成程。だから、今は声も届くのだな?」
『ソウダ。ソシテ、コレデ全テノ石ガ揃ッタトイウ訳ダ。期限ヨリ大幅ニ早ク、石ヲ集メテクレタナ、礼ヲ言ウ』
「では、後は石とゾムビー達を宇宙に飛ばすだけだな?」
『ソウダ。宜シク頼ム。デハ、サラバダ』
身体とゾムビーの親玉との会話は終わった。
(ふう……一山超えたな。…………爆破スマシ隊長……俺は貴女の様な働きができましたか? 貴女に少しでも近付く事ができましたか?)
身体が物思いにふけっているそんな中、主人公が話し掛けて来た。
「やりましたね! 身体……隊長!」
「! 隊長だ……と……?」
思ってもみない言葉に動揺する身体。
「だい!」
逃隠も、身体の事を改めて認め、声を掛けた。主人公は続けて言う。
「そうですよ! 的確な指示があったから、狩人部隊は一人としてケガ人すら居ませんよ?」
「……そう……だな」
暫く間を置いて、身体は口を開く。
「向こう側には悪いが、ゾムビー化したのはhunterの隊員達だけだからな」
「流石は身体隊長だい!」
「よせ、サケル」
逃隠は大喜びの様子だった。身体は少しだけはにかんだ様子だ。
「隊長!」
「!」
再び主人公が身体に話し掛ける。
「この後は、どうするのですか?」
身体は答える。
「恐らくだが、これからN州支部まで石とゾムビーを運ぶ。その後、そいつらをロケットに乗せて発射させる。それで、完全にゾムビー達との戦いが終わる」
「成程、どうして恐らく、なのでしょうか?」
「まだあちらには連絡をしていないからな。これから連絡だ」
そう主人公に言った身体はおもむろに通信器を持ち出した。英語で話し始める身体。
『もしもし、俺だ。石とゾムビーの回収が終わった。そちらで宇宙に飛ばしてもらうが良いか?』
『……』
『……分かった』
通信を切る身体。主人公が問い掛ける。
「どうでしたか?」
「GOサインが出た。明日はhunter.N州支部にもう一度行くぞ!」
hunte.N州支部でロケットを発射する予定が決定した。
「これからロッジに戻って一晩過ごすぞ、皆」
「はい!」
「だい!」
(ん?)
主人公はとある事実に気が付いた。
(一晩泊まるんなら……ゾムビーを一晩寝かせるコトになる――!!)
ロッジに戻り、一晩過ごす一行。ゾムビーも、ロッジの外で一晩過ごした。
翌日――、
クイアバへ向けて、早朝からバスで移動する一行。約四時間後、クイアバに着いたら、空港で飛行機に乗る。ラスベガスへの長旅である。この一年で何度も飛行機に乗ることとなった主人公は、慣れた様子で飛行機の窓から空を少しの間眺めて、すぐに眠りについた。一方の逃隠はやや興奮気味に窓の外を見て雲の様子を観察し、写真を撮っていた。身体は落ち着いた様子で、一睡もせずに只々、飛行機の椅子に座っていた。何か思う事がある様だった。ラスベガスへ着いた頃には夕暮れ時になっていた。
「皆居るか!? 点呼をとるぞ!」
身体が点呼をとり、人数が確認された。ラスベガスから軍用車両で二時間半ほど走った先に、hunter.N州支部が存在している。