Chapter 37 - 第三十七話 宇宙の逃げ場
「さあ、話の続きだ」
爆破の話はまだ続くようだ。
「強さと自己中心さとは表裏一体だ。甘やかしと優しさとも――な。要はバランスが問題なのだ。これについてどう思うツトム、サケル」
爆破の問いに、まずは主人公が答える。
「そ……その通りだと思います。(強さと自己中心さについて、まるでスマシさんみたいだなんて口が裂けても言えない……)」
「そうか、それは嬉しい限りだ。サケルはどうだ?」
「……」
爆破は問うが、うつむいたままの逃隠。
「どうした? 具合でも悪いのか?」
「……表裏一体とは何だい……?」
ずっこける爆破。
「お、……お母さんにでも聞いてくれ。きっと優しく答えてくれるだろう」
「分かったんだい……」
涙目の逃隠。
少し間を置いて、爆破が口を開く。
「そうだ、優しさと言えば、あの看護師の女性のお陰でと研究の成果で、ゾムビーの動きを鈍らせる電波が完成したんだ。このロケットにも搭載しているだろう」
「!!」
驚愕する主人公。
「どうした? ツトム」
「はい……ちゃんと、研究の成果が出たんだと……尾坦子さんのしてきたことは意味があったのかと思うと、嬉しくて……」
爆破の問いに答える主人公。涙腺を刺激するものがあったようだ。爆破は口を開く。
「そう言えばツトムも他の生体実験に参加させられたのだったな。辛かったろう?」
「はい……まぁ、いい気分ではなありませんでした」
主人公は少しうつむいて答える。フーと溜息をつき、爆破は返した。
「そうだろう? しかし上は命令してばかりだ。自分達の身の安全を確保し、常に安全地帯に居る。例えるならこれが今の日本の縮図(風刺画)だ。現場を体験すらしたことない連中が全ての決め事を扱う世の中なのだ」
「はい……」
下を向く主人公。
「暗い話ばかりしてすまない。しかし、これが現実なんだ。社会に出ていきなりそれを体験するよりは、始めから知っておいた方が対処できるだろう?」
「……そうですね」
「さて、……生きるとは苦難に満ちている。飢え、老い、病気と様々な苦難がある。しかし、生きているからこそ私達は巡り合えた。生きてきた結果だ。この縁を大事に、これからも生きて行こうと思う。そして、皆もそう生きていってくれ」
「はい!」
「合点だい!」
爆破の投げ掛けた言葉に、元気良く答える主人公と逃隠。
「午前中の話は、これで終わりだ! 昼食を食べよう」
爆破の一声でランチタイムが始まった。
(今日はカレーか……。宇宙でカレーを食べるなんて、想像もしなかった)
「美味いんだい」
主人公はそっと思い、逃隠は明るく言った。
ランチタイムは手短に終わったようだった。
「皆、ご飯を食べたら、これから筋力トレーニングをする!」
「!」
「!?」
爆破の言葉に、反応する主人公と逃隠。
「部屋を移動するぞ。こっちだ」
促されるままに機内のほとんどのパイロットが部屋を移動した。
(確か聞いたコトがある。宇宙飛行士は無重力空間で筋力が落ちていってしまうって……)
想いを巡らせる主人公に、逃隠が話し掛ける。
「何で宇宙で筋力トレーニングするんだい!?」
「……」
「無視すんナ!」
余りにも無知な逃隠に対して、相手をしていられない主人公だった。爆破は部屋に移ってから口を開く。
「皆居るな? まずは上半身からだ」
特製の機器を使いトレーニングしていく。
「かはっ……つ、辛い……」
「じょ、上半身は苦手だい……」
主人公、逃隠ともに音を上げていた。
「地球へ帰還した時に体調不良になってはいけないからな、しっかり鍛えるんだ!」
爆破は強く言う。
「次、下半身!!」
下半身のトレーニングも、特殊な機器を使って行った。
「つ……辛い……」
「下半身は得意だい!」
相変わらず音を上げている主人公と、一転して得意気になっている逃隠。
「よし! ココで休憩を挟むぞ」
「はい……」
「合点だい!」
爆破の一声で休憩時間になった。
「ここでも少々話をするとしよう」
(なるべく長い話になりますように)
精魂尽き果てそうな主人公は、少しでも長く休憩が欲しいようだ。
「今はロケットに乗って移動しているが、移動手段についてだ。一番金が掛からない移動手段は何か……分かるか? ツトム」
爆破が問い掛ける。
「徒歩……ですかね?」
主人公は答えた。
「正解だ。徒歩で歩いているとよっぽどの事が無い限り、事故にも遭わない、地面に立っているのだからな」
「?」
爆破の説明が何の意味を持つのか、分かり兼ねる主人公。
「次に金が掛からないのは、自転車だ。しかしこれは、足が地面から浮いていて、こける可能性がある」
「ああ、はい……」
話は飛躍していく。
「次が自動車。起こり得る危険として、アクセルの踏み過ぎ等による事故が考えられるな」
(……何の話なのだろう?)
爆破の話は続くが、余り話の意味が理解できていない様子の主人公。
「次は……そうだな、船についてだ。これは地面から離れ、水上に居る。自転車や自動車と違い、転覆する可能性があるな」
(! 確かに。移動手段とそれによるリスクについての話かな?)
「転覆した時、事故現場が陸に近ければ、泳いで陸を目指せる。助かる見込みはあるんだ」
「なるほど!」
「だい!」
「その次は飛行機だ。離陸中に事故が起きれば大惨事だな。緊急脱出は一般人には難しいだろう……海に不時着すれば助かるかも知れないがな。どうだ? 金をかける移動手段になるにつれて、どんどんリスクが増えていくぞ、まだここまでなら安全圏もあるがな」
「な、何が言いたいんですか……?」
ついに質問する主人公。右手を上げてそれを制止する爆破
「今はロケットの中に居る、つまり……宇宙に逃げ場は、無い」
「!!!!!?」
場面は移り、地上――。
hunter.N州支部の宇宙通信所。
『こちら宇宙通信所、こちら宇宙通信所……打ち上げられたロケットの現在の状況を近辺の人工衛星から確認中。! これは……!?』
舞台は再び宇宙空間のロケット内へ戻る。
「な、何言ってるんですかぁ? 物騒な」
主人公は爆破の先程の言葉に怯えていた。
「いやぁ、すまんすまん。まぁ、それだけ覚悟して緊張感を保っておけという事だ」
「もうー」
爆破は主人公を宥めながら思った。
(何故だ……何故私は、いたずらにツトムや隊員達を不安にさせる言葉を……妙だな、胸騒ぎがする……)
「warning!! warning!!」
瞬間――、
警報が鳴った。
『パイロットは全員、コックピットへ集合せよ!!!!』
英語で緊急連絡が入る。
(!? 今コックピットって言ったような……)
主人公達は動揺していた。
「!! ……全員に告ぐ、筋力トレーニングは中止だ、今からコックピットへ戻るぞ!!」
「ラジャー!!」
爆破の命令に応じる隊員達。隊員を含むパイロット達はコックピットへ移動した。
『何があった?』
爆破は英語でフライトデッキに居るパイロットに聞いた。パイロットは答える。
『宇宙通信所からの情報によると、こちらへ向かって来る謎の紫色の物体が確認された、という事です』
『何? ……紫色だと……?』