回避とサイコとツトム外伝~ゾムビー~

Chapter 31 - 第三十一話 残る一人

いぶさん2021/03/18 13:00
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『ぐ……』

ワープが放ったゾムビーの体液は、ボディアーマーの顔面に降りかかった。



『おい!』



fireはボディアーマーに駆け寄る。

「ゾ……」

ワープの、最後の一撃だったらしい。ワープは力尽きた。

『お前!!』

『何も言うな。迷わず俺を殺せ……ゾ……』



『……』



「ボワッ!」

fireはボディアーマーを焼き払った。



『……!!!!』



怒りのエネルギーは一番生命力のそれと比例しやすい。

超能力とて、それは同じだ。精神面が超能力の威力、精度を司る。fireは今ある現状を怒り、怒り、怒り抜いた。その怒りのエネルギーは今までにない威力で、ゾムビー達に襲い掛かる。

『テメェ等……許さねぇ……! オラァ!!』





「ボッガァアアアアア!!」





炎が、ゾムビーの大群を襲う。



「ゾゾォ!!」

「ゾ!!」



その炎は、ゾムビーの大群の9割以上を一瞬にして焼き払った。

『ボディアーマー……皆……』

fireは力を使い過ぎ、気絶した。



――、

それは、見知らぬ天井だった。



「ガバッ」



『ゾムビー達は!!』

fireが目を覚ますと、そこはベッドの上で、医療施設の様だった。

『漸く気が付いたのかね?』

『! 誰だ?』

『ここの医者だよ。君が目覚めるまで、3日掛かった……』

『俺がそんなにくたびれていたのか……! ゾムビーは!?』

ハッとしたfireは医者に問う。フーと息を吐いて、医者は口を開いた。

『全滅したよ。hunterの連中も4割もやられたがね』

『……(アイツら……)』

『上の連中は焦り始めたと聞いた』

『!』

『有能なサイキッカーを、3人も失ったのだ。無理もない……』

『……これから、どうなると思う?』

『他国から優秀な人材を引き抜く……かな? 今の戦力で、再びゾムビー達が攻めてきたら、とてもじゃないが太刀打ちできない』

『そうか……』



hunter及び、アメリカ政府はサイキッカー2名と、優秀な戦闘力を誇る狩人隊員をもつ日本に、救護要請を告げる。



日本、狩人関東支部――、

その日は大嵐だった。

ゴウ――と、吹き荒れる風。ザ――と、流れ込むような雨。

そんな中、狩人ラボの一室に、腕を組み座る者が一人。爆破スマシである。

(あのアメリカ視察から二カ月程経っている。そろそろヤツらも、動き出す頃か……)

一室には大型のテレビも備わっていた。

「次のニュースです。この前の日曜日に起きた事件で……」

殺人事件のニュース等、人的災害についてのニュースが流れていた。

(なぜ人は人を傷つけ合い、殺し合ってしまうのか……)

爆破は一人、考える。

「――以上、本日のニュースでした」

ふと、チャンネルを変えてみる。自然災害についての特集だった。

(ゾムビーだけではなく災害だらけだな、この国は)

更にチャンネルを変える。動物が他の動物を殺して、生きながらえている番組だった。



「ふー」



溜息をつく。

(人間だけではなく、生物が汚らわしいとまで思ってしまうな。どんな生物でも殺し合い、憎しみ合うのか……)



「しかし!」



爆破は思わず声を漏らす。

(私とて同じだ。ゾムビー達を、人間だった者達と殺し合い、死なせている……悪を倒している自分がカッコいいとでも思っていたのか……?)

すると、



「プルルルル! プルルルル!」



机にある電話機が鳴った。電話に出る爆破。

「もしもし、狩人関東支部ですが……」

「hey! Jap!!」

電話主は英語で話し掛けてきた。

(やはり……か)

爆破も英語で対応する。

『こんばんは、hunter.N州支部の方だろうか?』

『そうだ! そちらで言うところの、副隊長を務めさせてもらっている者だ。何だあの石は!? アレの所為でこちらの支部の基地はゾムビーだらけだ! 隊員達も数十名やられた。どうしてくれるんだ!!』

電話主の男は叫ぶように話してくる。

『と、言いましても』

『!』

『そちらの支部にも、以前あの石はあったと聞いております。更に今回、研究材料になると、そちらも同意の上で石の所有権を移したのですが?』

淡々と話す爆破。それに対し、怒った様に男は言う。

『くっ、この敗戦国の軍隊風情が!! 石の数が増えて、ゾムビー発生率も増えたと言っているのだ!!!』

『なら、我々にどうしろ、と?』



『…………』



『成程、心得ました』

(さて、時は満ちた……やるしか、無いようだな)



数日後――、

ラボ内の廊下を携帯電話で話しながら歩く爆破。

「ああ、それで今回の部隊はおよそ20人だ。……分かった。チャーターは必要ないと伝えてくれ!」



「ピッ」



携帯電話を切る爆破。少し顔を上げる。

(次なる決戦の地は、始まりの地……か……)



その数時間後――、

主人公の教室。朝礼が始まった。

「起立! 気を付け! れ……」





「ガラガラッ!! ダン!!!!」





「!?」



教室の戸を開ける者が! 爆破スマシだった。





「ツトム! 私だ!! アメリカへ飛ぶぞ!!!!」





この爆破の一声で、主人公、逃隠、身体並びに狩人隊員数名のアメリカ行きが決まった。ちなみに、断ると日米安全保障条約に関わる。その為か、校長の承諾は手早く済んだ。

逃隠は父親に電話一本でGOサインが出たが、主人公は直接、顔を合わせて家族の承諾を得ようとする事となる。主人公、逃隠、そして爆破の3人は主人公宅に立ち寄るコトとなる。インターフォンを押す主人公。

「ピンポーン」

中からドタドタと歩く音が聞こえる。

「はーい。あら、ツトム。学校はどうしたの? この人達は?」

「……母さん……」

玄関から出て来た母に何か伝えたそうな主人公。少し沈黙の時間が続く。

「お母さん……」

爆破が口を開く。

「! 待って下さい!! 自分で……自分の言葉で伝えたいんです」

「……」

主人公の発言に、少し黙り込む爆破。

「……そうか、なら良い。自分の口で、伝えろ。しかし、後悔したり、お母さんを心配させてはいけないからな」

そして、少しだけ釘をさしておく。

「はい……」

「? どうしたの、ツトム。改まっちゃって。それにこの人達は……?」

かしこまる様子の三人に、はてな顔の母。

「母さん、僕……また家を留守にします……」



「!」



「場所は……言えない。心配……かけるから。でも! 絶対生きて帰るし、ケガもしないように、母さんからもらったこの身体、傷つけないようにするから……だから……!」



「もういいわ」



主人公の言葉を遮る母。

「やって来なさい、……お母さんも今は応援してるよ」

「母さん……!!」

母からの意外な言葉に感動する主人公。

「……分かったよ、母さん。じゃあ行ってくる」

右手を上げ、軽く振る母。

「決まり、だな」

爆破は呟く。

「何かあったら、スマシさんに助けてもらうから! じゃあね! 母さん!!」

母は主人公が小さくなるまで手を振って見送った。その後、一同は身体運転の下、移送者で羽田空港へ移動した。爆破は口を開く。

「事は急を要すると言ったが、ツトム達の負担を考えて余裕を持ったスケジュールを組んである。本日は一旦、サンフランシスコで宿をとる事とする! これから二日かけて目的地に向かう! そうだな、今回はあちらの時間で深夜2時くらいにホテルに着くことになるだろう」