Chapter 31 - 第三十一話 残る一人
『ぐ……』
ワープが放ったゾムビーの体液は、ボディアーマーの顔面に降りかかった。
『おい!』
fireはボディアーマーに駆け寄る。
「ゾ……」
ワープの、最後の一撃だったらしい。ワープは力尽きた。
『お前!!』
『何も言うな。迷わず俺を殺せ……ゾ……』
『……』
「ボワッ!」
fireはボディアーマーを焼き払った。
『……!!!!』
怒りのエネルギーは一番生命力のそれと比例しやすい。
超能力とて、それは同じだ。精神面が超能力の威力、精度を司る。fireは今ある現状を怒り、怒り、怒り抜いた。その怒りのエネルギーは今までにない威力で、ゾムビー達に襲い掛かる。
『テメェ等……許さねぇ……! オラァ!!』
「ボッガァアアアアア!!」
炎が、ゾムビーの大群を襲う。
「ゾゾォ!!」
「ゾ!!」
その炎は、ゾムビーの大群の9割以上を一瞬にして焼き払った。
『ボディアーマー……皆……』
fireは力を使い過ぎ、気絶した。
――、
それは、見知らぬ天井だった。
「ガバッ」
『ゾムビー達は!!』
fireが目を覚ますと、そこはベッドの上で、医療施設の様だった。
『漸く気が付いたのかね?』
『! 誰だ?』
『ここの医者だよ。君が目覚めるまで、3日掛かった……』
『俺がそんなにくたびれていたのか……! ゾムビーは!?』
ハッとしたfireは医者に問う。フーと息を吐いて、医者は口を開いた。
『全滅したよ。hunterの連中も4割もやられたがね』
『……(アイツら……)』
『上の連中は焦り始めたと聞いた』
『!』
『有能なサイキッカーを、3人も失ったのだ。無理もない……』
『……これから、どうなると思う?』
『他国から優秀な人材を引き抜く……かな? 今の戦力で、再びゾムビー達が攻めてきたら、とてもじゃないが太刀打ちできない』
『そうか……』
hunter及び、アメリカ政府はサイキッカー2名と、優秀な戦闘力を誇る狩人隊員をもつ日本に、救護要請を告げる。
日本、狩人関東支部――、
その日は大嵐だった。
ゴウ――と、吹き荒れる風。ザ――と、流れ込むような雨。
そんな中、狩人ラボの一室に、腕を組み座る者が一人。爆破スマシである。
(あのアメリカ視察から二カ月程経っている。そろそろヤツらも、動き出す頃か……)
一室には大型のテレビも備わっていた。
「次のニュースです。この前の日曜日に起きた事件で……」
殺人事件のニュース等、人的災害についてのニュースが流れていた。
(なぜ人は人を傷つけ合い、殺し合ってしまうのか……)
爆破は一人、考える。
「――以上、本日のニュースでした」
ふと、チャンネルを変えてみる。自然災害についての特集だった。
(ゾムビーだけではなく災害だらけだな、この国は)
更にチャンネルを変える。動物が他の動物を殺して、生きながらえている番組だった。
「ふー」
溜息をつく。
(人間だけではなく、生物が汚らわしいとまで思ってしまうな。どんな生物でも殺し合い、憎しみ合うのか……)
「しかし!」
爆破は思わず声を漏らす。
(私とて同じだ。ゾムビー達を、人間だった者達と殺し合い、死なせている……悪を倒している自分がカッコいいとでも思っていたのか……?)
すると、
「プルルルル! プルルルル!」
机にある電話機が鳴った。電話に出る爆破。
「もしもし、狩人関東支部ですが……」
「hey! Jap!!」
電話主は英語で話し掛けてきた。
(やはり……か)
爆破も英語で対応する。
『こんばんは、hunter.N州支部の方だろうか?』
『そうだ! そちらで言うところの、副隊長を務めさせてもらっている者だ。何だあの石は!? アレの所為でこちらの支部の基地はゾムビーだらけだ! 隊員達も数十名やられた。どうしてくれるんだ!!』
電話主の男は叫ぶように話してくる。
『と、言いましても』
『!』
『そちらの支部にも、以前あの石はあったと聞いております。更に今回、研究材料になると、そちらも同意の上で石の所有権を移したのですが?』
淡々と話す爆破。それに対し、怒った様に男は言う。
『くっ、この敗戦国の軍隊風情が!! 石の数が増えて、ゾムビー発生率も増えたと言っているのだ!!!』
『なら、我々にどうしろ、と?』
『…………』
『成程、心得ました』
(さて、時は満ちた……やるしか、無いようだな)
数日後――、
ラボ内の廊下を携帯電話で話しながら歩く爆破。
「ああ、それで今回の部隊はおよそ20人だ。……分かった。チャーターは必要ないと伝えてくれ!」
「ピッ」
携帯電話を切る爆破。少し顔を上げる。
(次なる決戦の地は、始まりの地……か……)
その数時間後――、
主人公の教室。朝礼が始まった。
「起立! 気を付け! れ……」
「ガラガラッ!! ダン!!!!」
「!?」
教室の戸を開ける者が! 爆破スマシだった。
「ツトム! 私だ!! アメリカへ飛ぶぞ!!!!」
この爆破の一声で、主人公、逃隠、身体並びに狩人隊員数名のアメリカ行きが決まった。ちなみに、断ると日米安全保障条約に関わる。その為か、校長の承諾は手早く済んだ。
逃隠は父親に電話一本でGOサインが出たが、主人公は直接、顔を合わせて家族の承諾を得ようとする事となる。主人公、逃隠、そして爆破の3人は主人公宅に立ち寄るコトとなる。インターフォンを押す主人公。
「ピンポーン」
中からドタドタと歩く音が聞こえる。
「はーい。あら、ツトム。学校はどうしたの? この人達は?」
「……母さん……」
玄関から出て来た母に何か伝えたそうな主人公。少し沈黙の時間が続く。
「お母さん……」
爆破が口を開く。
「! 待って下さい!! 自分で……自分の言葉で伝えたいんです」
「……」
主人公の発言に、少し黙り込む爆破。
「……そうか、なら良い。自分の口で、伝えろ。しかし、後悔したり、お母さんを心配させてはいけないからな」
そして、少しだけ釘をさしておく。
「はい……」
「? どうしたの、ツトム。改まっちゃって。それにこの人達は……?」
かしこまる様子の三人に、はてな顔の母。
「母さん、僕……また家を留守にします……」
「!」
「場所は……言えない。心配……かけるから。でも! 絶対生きて帰るし、ケガもしないように、母さんからもらったこの身体、傷つけないようにするから……だから……!」
「もういいわ」
主人公の言葉を遮る母。
「やって来なさい、……お母さんも今は応援してるよ」
「母さん……!!」
母からの意外な言葉に感動する主人公。
「……分かったよ、母さん。じゃあ行ってくる」
右手を上げ、軽く振る母。
「決まり、だな」
爆破は呟く。
「何かあったら、スマシさんに助けてもらうから! じゃあね! 母さん!!」
母は主人公が小さくなるまで手を振って見送った。その後、一同は身体運転の下、移送者で羽田空港へ移動した。爆破は口を開く。
「事は急を要すると言ったが、ツトム達の負担を考えて余裕を持ったスケジュールを組んである。本日は一旦、サンフランシスコで宿をとる事とする! これから二日かけて目的地に向かう! そうだな、今回はあちらの時間で深夜2時くらいにホテルに着くことになるだろう」