Chapter 26 - 第二十六話 最期の一振り
十数体のゾムビーが現れ、抜刀を囲った。
「! ハハ! 本当に何体も出て来やがった(っと、余裕ぶっこいてる場合じゃねえか。全部石か? いや、ノーマルも含んでいる)」
抜刀は冷静だった。今回ここに現れた時に奪った石をかざしてみる。石に反応し、体が光ったのは7体のゾムビーだった。
「なん……だと……!」
一瞬、顔がこわばる抜刀。しかし、すぐにその顔はニヤリと笑みを浮かべる。
「フフ! はははははは!! コイツぁおもしれぇや!! 四面楚歌ってのはこの事を言うんだな。良いぜぇ、最近フラストレーションも溜まっていた頃だ。全員まとめて叩き切ってやる」
抜刀は光の剣を帯刀した構えをとる。
(くたびれてんなよ、俺)
「ゾムゥ(ころすぅ)」
「ゾゾ(てき)」
「ゾムバァ(にんげんゆるさない)」
ゾムビー達が抜刀に近付き始めた。
「行くぜ! 俺のホンキ! 神速の刃!!!!」
正にその刹那だった。
取り囲んできたゾムビー達を一太刀の抜刀で切り抜いた。
「スパッ…………バシャシャアア!!」
刃はゾムビー達を一気に切り裂く。更には体内にあった『石』は同時に刃で弾き飛ばした。
「カランカラン」
石は地面に落ちる。
「ブハッ! はぁ……! はぁ……! 今のは流石に堪えたぞ」
抜刀は体力をだいぶ消耗した様子で座り込んだ。
「抜刀隊員!!」
狩人隊員の一人が叫ぶ。
「あん?」
抜刀はその声を聞き、振り向いた。
「――――」
抜刀を絶望感が襲い、血の気が引いていくのが分かった。新手のゾムビーが姿を現してきたのだった。
「うっとおしいコト、この上無し! さて、やっちまうか」
気力を振り絞り抜刀は立つ。
(…………また吞みてぇな、この戦いが終わったら――。大阪ん時みてえに)
一縷の望みを持って抜刀は走り出す。
「ああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
「ダッダッダッダッダッ……ザ……」
爆破と狩人隊員達が正面入り口に辿り着く。
「セツナ!! 無事だったか!? セツ……!!!!」
爆破は抜刀を呼んだ。その姿が見えていたため――。しかし、そこに立っていたのは変わり果てた姿の抜刀だった。
「っく!!」
爆破は悔しさを隠せないでいた。抜刀はゾムビー化していたからだ。かつて抜刀だった者の周りには幾らかゾムビーまでいた。
「やむを得ん。現時刻を以て、抜刀セツナをゾムビー化した敵と見なし、攻撃対象とする……」
「……ラジャー」
重たい空気が爆破達を包む。しかし、
「ザンッ」
抜刀だった者の手から光る剣が出現した。
「ウソ……だろ……」
爆破は息を呑む。
「おい……ゾムビーが超能力を使えるのか?」
「存じ上げません……」
「ゾム……」
主人公の脳裏をよぎるのは敗北の二文字。
「うわああああああああああ!!」
それを払拭するべく、ゾムビーに向かって行くが、考えのない只の突進に終わる。
「ゾム……!!(くらえ!)」
殴打を繰り出すゾムビー。
「ゴッ……!!」
「かはっ!!」
主人公のみぞおちに入り、悶絶する主人公。
「ツトム君!!」
叫ぶ尾坦子。その表情は苦悩に歪んでいた。
(なんで……? どうして? さっきのは簡単に倒せたのに……)
「おい……」
「!」
声のする方を見るとそこには身体の姿があった。避難の補助をしていたが、たまたま通りかかったらしい。そして身体は叫ぶ。
「お前が護りたかった者は誰だ!? ツトム‼」
「!」
「民間人、そして身近に居る人間じゃなかったのか!?」
「!!」
「今、お前の傍に、真に守りたいものが居る! その者を助けよ! ツトム!!!!」
「はい!!」
「ザッ」
無心だった。
心を研ぎ澄ませて、何の理由もなく、主人公は左手の人差し指と中指の間に右手人差し指を置き、次いでそのほかの指を並べて置いていった。
「ハッ!!」
主人公の手のひらは虹色に輝いて、光り始めた。石のゾムビーは光を浴び、徐々に消滅していった。
「ゾオオオオオオオ!!!!(ぐああああああああ!!!!)」
「カラン!」
そこには例の石、宝石のみが残った。
「……やった」
「ツトム君!」
尾坦子も歓喜する。
「!」
主人公は何かに気付いた。それは、尾坦子の体の一部が元の人間の色、つまりは肌色になっていることだった。
「これは……」
何かを思い付いた身体が主人公に話し掛ける。
「ツトム、さっきと同じだ。さっきと同じ要領で、いや、気持ちでやってみるんだ……!」
「は……はい」
主人公は先程と同じ構えをし、心身を集中させた。そして尾坦子にその手のひらをやる。
「ハッ!!」
すると、
「ぱああああああ」
尾坦子の体はみるみるうちに人間の肌の色を取り戻していった。
「あっ、これって……」
尾坦子が言う。そして尾坦子は完全に人間の姿となった。
「尾坦子さん!」
主人公は歓喜のあまり涙ぐんだ。
「ひしっ」
尾坦子は急に主人公を抱きしめた。
「えへへ。ずっとこれがしたかったの」
「尾坦子さん……」
主人公は涙を拭いそれに応えた。
「やったな、ツトム」
身体も労いの言葉を漏らす。しかし、
「はいはい、いちゃつくのはいいけどよう」
心無い一言が周りから放たれた。
「お前らが居たからじゃないのか? ゾムビーが湧いて出たのは」
「!!」
主人公は怒りのあまり右手が震えた。
「え? そんなのって……」
流石の尾坦子もその言葉には堪えたらしい。数秒後、ずいっと身体が身を乗り出して言った。
「何を言っているんだ!! 貴様ら!!!! もしそうだったとしても、現に助けられているじゃないか!?」
周囲はどよめく。身体は言った。
「ツトム、行くぞ。こんな奴ら相手してても何にもならん」
「身体副隊長……」
主人公は動揺しながらも身体に従う事と決めた。
そして身体、主人公、尾坦子で小隊を結成、三人は団体行動をとるようにした。
――一方その頃……
「セツナァアア!! 私が分かるか!?」
「ザンッ」
「ボッ」
抜刀セツナだった者と爆破が戦っていた。
「おいっ! セツナ!!(物事は大抵が悪い方に転ぶものだ。ゾムビーの数だって統計開始以降最悪の数字だ。だが、ここまでの事は……)」
「隊長! 抜刀隊員は! いえ、奴は攻撃対象では!?」
「分かっている! だが……」
隊員と爆破は会話を交わす。
「ええい!」
隊員の内の一人が堪え切れずに発砲した。
「タタタタタタタタ!」
「!! !」
抜刀はその銃弾を全て切ってのけた。