回避とサイコとツトム外伝~ゾムビー~

Chapter 26 - 第二十六話 最期の一振り

いぶさん2021/03/13 13:01
Follow

十数体のゾムビーが現れ、抜刀を囲った。

「! ハハ! 本当に何体も出て来やがった(っと、余裕ぶっこいてる場合じゃねえか。全部石か? いや、ノーマルも含んでいる)」

抜刀は冷静だった。今回ここに現れた時に奪った石をかざしてみる。石に反応し、体が光ったのは7体のゾムビーだった。

「なん……だと……!」

一瞬、顔がこわばる抜刀。しかし、すぐにその顔はニヤリと笑みを浮かべる。

「フフ! はははははは!! コイツぁおもしれぇや!! 四面楚歌ってのはこの事を言うんだな。良いぜぇ、最近フラストレーションも溜まっていた頃だ。全員まとめて叩き切ってやる」

抜刀は光の剣を帯刀した構えをとる。

(くたびれてんなよ、俺)



「ゾムゥ(ころすぅ)」

「ゾゾ(てき)」

「ゾムバァ(にんげんゆるさない)」



ゾムビー達が抜刀に近付き始めた。



「行くぜ! 俺のホンキ! 神速の刃!!!!」



正にその刹那だった。



取り囲んできたゾムビー達を一太刀の抜刀で切り抜いた。





「スパッ…………バシャシャアア!!」





刃はゾムビー達を一気に切り裂く。更には体内にあった『石』は同時に刃で弾き飛ばした。

「カランカラン」

石は地面に落ちる。

「ブハッ! はぁ……! はぁ……! 今のは流石に堪えたぞ」

抜刀は体力をだいぶ消耗した様子で座り込んだ。

「抜刀隊員!!」

狩人隊員の一人が叫ぶ。

「あん?」

抜刀はその声を聞き、振り向いた。



「――――」



抜刀を絶望感が襲い、血の気が引いていくのが分かった。新手のゾムビーが姿を現してきたのだった。

「うっとおしいコト、この上無し! さて、やっちまうか」

気力を振り絞り抜刀は立つ。

(…………また吞みてぇな、この戦いが終わったら――。大阪ん時みてえに)

一縷の望みを持って抜刀は走り出す。





「ああああああああああああああああああああああ!!!!!!」





「ダッダッダッダッダッ……ザ……」



爆破と狩人隊員達が正面入り口に辿り着く。

「セツナ!! 無事だったか!? セツ……!!!!」

爆破は抜刀を呼んだ。その姿が見えていたため――。しかし、そこに立っていたのは変わり果てた姿の抜刀だった。

「っく!!」

爆破は悔しさを隠せないでいた。抜刀はゾムビー化していたからだ。かつて抜刀だった者の周りには幾らかゾムビーまでいた。

「やむを得ん。現時刻を以て、抜刀セツナをゾムビー化した敵と見なし、攻撃対象とする……」

「……ラジャー」

重たい空気が爆破達を包む。しかし、



「ザンッ」



抜刀だった者の手から光る剣が出現した。

「ウソ……だろ……」

爆破は息を呑む。

「おい……ゾムビーが超能力を使えるのか?」

「存じ上げません……」



「ゾム……」



主人公の脳裏をよぎるのは敗北の二文字。





「うわああああああああああ!!」





それを払拭するべく、ゾムビーに向かって行くが、考えのない只の突進に終わる。

「ゾム……!!(くらえ!)」

殴打を繰り出すゾムビー。

「ゴッ……!!」



「かはっ!!」



主人公のみぞおちに入り、悶絶する主人公。

「ツトム君!!」

叫ぶ尾坦子。その表情は苦悩に歪んでいた。

(なんで……? どうして? さっきのは簡単に倒せたのに……)



「おい……」



「!」

声のする方を見るとそこには身体の姿があった。避難の補助をしていたが、たまたま通りかかったらしい。そして身体は叫ぶ。

「お前が護りたかった者は誰だ!? ツトム‼」

「!」

「民間人、そして身近に居る人間じゃなかったのか!?」

「!!」

「今、お前の傍に、真に守りたいものが居る! その者を助けよ! ツトム!!!!」



「はい!!」



「ザッ」



無心だった。



心を研ぎ澄ませて、何の理由もなく、主人公は左手の人差し指と中指の間に右手人差し指を置き、次いでそのほかの指を並べて置いていった。



「ハッ!!」

主人公の手のひらは虹色に輝いて、光り始めた。石のゾムビーは光を浴び、徐々に消滅していった。





「ゾオオオオオオオ!!!!(ぐああああああああ!!!!)」





「カラン!」



そこには例の石、宝石のみが残った。

「……やった」

「ツトム君!」

尾坦子も歓喜する。

「!」

主人公は何かに気付いた。それは、尾坦子の体の一部が元の人間の色、つまりは肌色になっていることだった。

「これは……」

何かを思い付いた身体が主人公に話し掛ける。

「ツトム、さっきと同じだ。さっきと同じ要領で、いや、気持ちでやってみるんだ……!」

「は……はい」

主人公は先程と同じ構えをし、心身を集中させた。そして尾坦子にその手のひらをやる。

「ハッ!!」

すると、

「ぱああああああ」

尾坦子の体はみるみるうちに人間の肌の色を取り戻していった。

「あっ、これって……」

尾坦子が言う。そして尾坦子は完全に人間の姿となった。

「尾坦子さん!」

主人公は歓喜のあまり涙ぐんだ。

「ひしっ」

尾坦子は急に主人公を抱きしめた。

「えへへ。ずっとこれがしたかったの」

「尾坦子さん……」

主人公は涙を拭いそれに応えた。

「やったな、ツトム」

身体も労いの言葉を漏らす。しかし、

「はいはい、いちゃつくのはいいけどよう」

心無い一言が周りから放たれた。

「お前らが居たからじゃないのか? ゾムビーが湧いて出たのは」



「!!」



主人公は怒りのあまり右手が震えた。

「え? そんなのって……」

流石の尾坦子もその言葉には堪えたらしい。数秒後、ずいっと身体が身を乗り出して言った。

「何を言っているんだ!! 貴様ら!!!! もしそうだったとしても、現に助けられているじゃないか!?」

周囲はどよめく。身体は言った。

「ツトム、行くぞ。こんな奴ら相手してても何にもならん」

「身体副隊長……」

主人公は動揺しながらも身体に従う事と決めた。

そして身体、主人公、尾坦子で小隊を結成、三人は団体行動をとるようにした。



――一方その頃……

「セツナァアア!! 私が分かるか!?」

「ザンッ」

「ボッ」

抜刀セツナだった者と爆破が戦っていた。

「おいっ! セツナ!!(物事は大抵が悪い方に転ぶものだ。ゾムビーの数だって統計開始以降最悪の数字だ。だが、ここまでの事は……)」

「隊長! 抜刀隊員は! いえ、奴は攻撃対象では!?」

「分かっている! だが……」

隊員と爆破は会話を交わす。

「ええい!」

隊員の内の一人が堪え切れずに発砲した。

「タタタタタタタタ!」



「!! !」



抜刀はその銃弾を全て切ってのけた。