回避とサイコとツトム外伝~ゾムビー~

Chapter 24 - 第二十四話 手と手

いぶさん2021/03/11 13:03
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「ザッ」

主人公が狩人ラボに到着した。

(正面入り口のゾムビー、ものすごい数だった。迂回して東側入り口から入ったけど、判断、間違ってなかったよね。スマシさんに連絡しても通じなかった……)



「そうだ、尾坦子さん!」



主人公は尾坦子の居る部屋へ急ぐ。



――正面入り口前、隊員達が迫り来るゾムビー達に対して銃器で応戦している。



「タタタタタタタタ!!」



「ゾムッ!(あぁ!!)」

「ゾバッ!(ぐあっ!)」



銃器の前に倒れるゾムビー。しかし――



「……ゾム」

「ゾ……」



後から、次から次へとぞろぞろ現れるゾムビー達。

「くそっ! キリが無いぜ」

隊員の内の一人が溢す。

「文句を言うな。次だ」

「はいよ」



「タタタタタタタタ!」



「ドムゥン」



「!!」

一体のゾムビーが、銃弾を吸収するように被弾した。

「ゾ?」

そのゾムビーは何事も無かったように佇んでいた。

「あれは……石の……」



「ツカツカツカ!!」



「遅くなったな! 状況は!?」

爆破が正面入り口前に到着した。

「隊長! 応戦を続けていたところ! 石の、らしきゾムビーが」

「何? 分かった」

「スチャ」

隊員の言葉を聞き、何か取り出す爆破。例の紫色の宝石だった。

「カッ」

先程銃弾を吸収したゾムビーの胴体部分が光った。

「成程、間違いないな。石のゾムビーは私が……」





「抜刀、一閃」





「ズバッ」



一瞬の出来事だった。爆破が口を開き、次の言葉を言おうとした瞬間、光り輝く剣が、石のゾムビーを一刀両断した。



「ゾゾオ、ゾゾオ!」





「スッ……ピン!」





真っ二つになったゾムビーの体から、剣先は石を弾いて、石は宙に舞った。

「パシッ」

左手は宝石をキャッチする。

「よお、遅くなったな」



抜刀セツナ、見参。



「途中にぞろぞろとまあバケモンが居やがったから、相手してたら時間食っちまってよぉ」

ボリボリと頭を掻きながら言う抜刀。

「で、どうすりゃいいよ? 隊長?」

その時、狩人隊員が突如、正面入り口に辿り着き、言う。

「爆破隊長! 東側からも、正面よりは少ないのですがゾムビーの大群が現れています!」

「隊長!」

「…………」

考え込む爆破。遂には口を開く。

「セツナ……行けるか?」

輝く刀を肩に担ぐ抜刀。

「ハッ、とーぜん!」



東側のラボ入口へと足を速める爆破。

「隊長! 石のゾムビーでも、抜刀セツナ隊員なら対処できますね! 流石の判断です」

「…………」

「隊長?」

隊員が話し掛けても、爆破は暫く口を開かなかった。



「もし……」



「?」

「もし……あのペースでゾムビーが現れ続けて、石のゾムビーまで数を増やすと」

「ええ」



「セツナの体力では、確実にもたない」



「!?」





一方で主人公は、尾坦子の居る研究室前に辿り着いていた。扉が開き、慌しく研究員が部屋から出て来た。

「ウィ――ン」

「あ! 君。避難場所はここではないよ! 僕らみたいなのは早く邪魔にならない様に避難していないと……部屋の中はほぼ、避難が完了しているよ。あのゾムビー以外はね」

表情を曇らせて、研究員を睨み付ける主人公。

「ま、まぁそういう事だから!」

足早にその場を去る研究員。主人公は研究室に入る。部屋の奥のガラス張りの部屋には尾坦子が不安そうに佇んでいた。

「尾坦子さん……」

「タッタッタッ」

速足で尾坦子に近付く主人公。

「尾坦子さん!」

「あ……ツトム君……」

不安の表情を隠せない尾坦子。

「早く! ここから出よう!」



「ウィ――ン」



「!!」



研究室の扉が開いた。そこに立っていたのは、銃器を持った一体のゾムビーだった。

「タタタタタタタタ!!」

主人公達を見るや否や、ゾムビーは発砲してきた。銃弾は主人公達の足元から上に向かって着弾していった。

「パリィン!」

主人公の後ろの、ガラス張りが着弾して、一部が割れた。

「タタタ!」



「パチュン!!」



「きゃっ!!」

一発の銃弾がガラス張りを打ち抜き、尾坦子の肩付近へ当たる。

「くそぉ! リジェクト!!」



「ドガァアア!」



主人公の放った衝撃波は銃器に命中、ゾムビーの腕ごと粉砕し吹き飛ばした。

「はっ!!」

更に衝撃波を喰らわす。

「ゾゾォ!!」



「ドシャアアア」



ゾムビーは粉々になった。

「尾坦子さん!」

振り返る主人公。

「ケガは? ……!」

尾坦子の肩付近が欠けているのが見えた。

「はは、ちょっとケガしちゃった。見て。血も出ないのよ? ホントに私って化け物になっちゃったのね」

「…………」

尾坦子に対し、かける言葉が見つからない主人公。無理やりにでも口を開く。

「……そんなこと! ないよ。尾坦子さんは人間だから……それより、ここから移動しないと! ちょっと下がってて」

「?」

主人公に促されてガラス張りから離れる尾坦子。



「はっ!!」



「パリィイイン!!」

主人公はそこにリジェクトを放つ。

「パラ……パラ……」

ガラスの破片が周囲に舞い落ちる。

「さっ! 早く」

主人公はガラス張りの檻から尾坦子を助け出すべく、手を差し伸べる。対して尾坦子は取り乱したように言う。

「……どうして? 私は化け物で、実験台にしか役に立てないのよ。それなのに……」

「そんなことない。さあ」

主人公に迷いは無かった。

「どうして? 抱き合う事さえ、手と手を触れる事さえできないのに、何でそこまで構ってくれるの?」



「あなたのコトが大切だから」



「!」

尾坦子に対して、主人公が言い放った言葉は胸に深く突き刺さった。主人公は続ける。

「それに、こうすると……」

あの日つくった手袋を、主人公は手にはめていた。

「ほら、手をつなぐことができる」

二人の手と手は一切れの布越しではあるが、確かに触れ合った。

「! …………」

尾坦子の目に、涙が溢れた。しょうがないなと言わんばかりに、主人公は少し溜め息をついてから言う。

「さあ、行こう」

二人は歩き出した。

「ツトム君、手袋だって、いつか……溶けちゃうんじゃ?」

泣くのを必死でこらえながら尾坦子は言う。主人公は答える。

「なら、その時まで」



――暫く歩くと、人の声がしてきた。

「尾坦子さん!」

「うん」

避難所があるという期待を持って二人はもう少しだけ歩いた。そこは武器庫だった。二人が辿り着いた時、そこには十数名の研究員やオペレーターが居た。

「! なぜここにゾムビーが居るんだ!?」

尾坦子を見るや否や、研究員の一人が言う。

「何!?」

「何だって?」

その声に反応して、数名がざわつき始めた。

「…………」

尾坦子は下を向く。主人公は尾坦子をかばうように前へ出て言った。

「この人は、ゾムビーの調査の為、実験に参加している人です。僕達には危害を加えることは無いし、むしろ協力してくれている人です」

口調は少しムッとした様子だった。事情を知らないオペレーターや研究員達は言う。

「しかし、どうせ生体実験を行われるようなモルモットだろ」

「そうだ! そんな奴を保護して何になる!?」

「! ……ひどい。何てことを……」

彼らの心無い言葉に憤りを隠せない様子の主人公。



「いいの」



「!」

尾坦子が口を開いた。

「普通、そう言うわ。……あなた方に危害を加えませんし、迷惑もかけません。ここで避難させて下さい」

頭を下げる尾坦子。

「そんな……尾坦子さん」

主人公は胸が痛かった。

「そこまで言うなら……」

「フン……仕方ないな。ここでじっとしていろよ」

オペレーターや研究員は申し出を承諾したようだが、決まりが悪い様子だった。

「良かった。居ていいみたい」

主人公の方を向き、ペロりと舌を出した様子の尾坦子だったが、主人公の胸中は穏やかではなかった。

(こんな……当たり前のことなのに……尾坦子さんがゾムビー化したってだけのことで……クソ! あの日あんなことさえなければ)

「おい……あれを見ろ!」

誰かが何かを指差し、叫び声を上げる。一同、指差した方向を見る。

「ジュウウウウ」

溶け出す扉、そして……



「ゾ……」

「ゾムバァ」

「ゾム……」



扉を溶かして現れたのは、三体のゾムビーだった。