回避とサイコとツトム外伝~ゾムビー~

Chapter 18 - 第十八話 助太刀

いぶさん2021/03/05 12:54
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「何だ!?」

「ゾ……ゾ!!」



「ボコボコボコボコ」



ゾムビーの片足の欠けた部分から泡が吹き出るように細胞が現れ始めた。



「!?」



「ゾ……ゾ――!!」

「ボコボコボコボコ……シュ――」

増えだした細胞は、完全な足の形となって露わとなった。足からは煙が立ち込めている。

「う……うそ……でしょ……?」

呆然と立ち尽くす主人公。

「チィ! ……ツトム! まだダ!! 絶対に諦めるナ!!」

またしても果敢にゾムビーに立ち向っていく逃隠。

(無理だよ……サケル君……背中側への攻撃も正面への攻撃も効かない。足への攻撃は効いたけど……回復されてしまう……)

完全に希望を見失う主人公。

「ガッ! ガッ!」

攻撃の手を止めない逃隠。ゾムビーの拳を避け、地面に着地する。

「スタッ……ガク」

と、下半身の力が抜ける。

(!? しまっタ! もう体力ガ……)

跪く逃隠。

「ゾム……ゾム……」

ゾムビーが口一杯に体液を溜め込む。

(やばイ、体液カ!?)

「ゾゾゾ!!(くらえ!)」

口から体液を吐こうと、目一杯顔を上に上げるゾムビー。



「サケルくぅううううん!!!!」



ゾムビーの口から体液が吐き出される、正にその時、



「ビュン!」



何かがゾムビー目掛けて、猛スピードで飛んできた。それはゾムビーの口を裂き、背中を貫くように斜め下の地面へ突き刺さった。

「ザクッ」

「な、何だ!? あれは!」

主人公がゾムビーに突き刺さった何かを凝視する。それは、一振りの刀だった。

「か……刀?」

主人公は驚愕した。すると、聞き覚えのある男の声がどこからか聞こえてきた。

「……大丈夫か? サケル……」

「バッ」

主人公が振り向く。そこには、顔に左目の眉毛辺りから鼻を通り、右頬にかけてまでの大きな傷がある男、逃隠カイヒの姿があった。

「サケル君の……お父さん!」

主人公は声を上げる。

「今日は変な胸騒ぎがしてな、有休をとっておいて良かった。こんなところでこんな事になっていたとは……」

逃隠カイヒが言う。

「ジュウウウウ」

突き刺さり、ゾムビーの動きを止めることに成功していた刀だったが、ゾムビーの体液により、遂には溶け出してしまう。

「ゾ……(なん……だ?)」

ゾムビーは逃隠カイヒの方を向く。

「ふむ……やはり体液は強力だな。……先ずは……」

「ダダダッ」

逃隠カイヒは、ゾムビーの傍で蹲っている逃隠の元へ向かう。

「オ……親父……」

逃隠は逃隠カイヒを向いて言う。

「何も言うな……サケル……」

逃隠カイヒはそっと言い、逃隠を担いだ。

「暫く、あの子の近くに居ろ……」

逃隠カイヒは、逃隠を担いだまま、主人公の元へと向かった。

「よし……」

主人公の傍に、逃隠を降ろす。

「ツトム君、サケルをよろしく頼む……」

逃隠カイヒはそう言い残すと、今度はゾムビーの元へ向かった。

「あ……」

急な展開に、まともに返事する事ができない主人公。逃隠は疲弊しきっている。

「バッ」

ゾムビーに対峙する逃隠カイヒ。

「……行くぞ」



「ダッ」



ゾムビーの方へ間合いを詰めて行く逃隠カイヒ。

「体液で刀が溶けてしまうなら!」

「スパッ」

もう一つの刀で、ゾムビーの胴体を横一文字に切り抜く逃隠カイヒ。

「溶ける前に切り抜いてしまえばいいだけの事……」

「ピッ……ズズ」

ゾムビーの胴体は切れ目が入り、斜めにずれ落ち始めた。

(すごい! ……でも……)

感心しつつ不安に思う主人公。

「ゾ――――!(うおぉぉぉおおお!)」

ゾムビーは、唸り声を上げる。

「ボコボコボコ」

直後、ゾムビーの胴体の切れ目から細胞が吹き出始める。

「ボコボコ……」

ゾムビーの胴体は程なくして、元通りに完治した。

(やっぱり、だめだ!)

落胆する主人公。

「ほう……普通のヤツらとは、また一味違うという事か……」

一方で逃隠カイヒは動じない。

「(なかまに……なれ……!!)ゾムバァアア!」

ゾムビーが、逃隠カイヒ目掛けて体液を放つ。

「避け」

「サッ……バシャアア」

必要最低限の動作で、逃隠カイヒはそれを避ける。

「ゾッ!(はっ!)」

間合いを詰めていたゾムビーは逃隠カイヒの頭部目掛けて殴打を繰り出した。

「……首避け」

「サッ……ブン」

逃隠カイヒはそれを避け、ゾムビーの拳は空を切る。

「ゾゾゾッ!(くらえっ!)」

今度は、蹴りを繰り出すゾムビー。

「飛び避け!」

逃隠カイヒはそれを大きく横に飛び、避け切った。

「ゾッ!」

攻撃の手を緩めないゾムビー。

「なんの!」

それを体にかすらせもせずに避け切る逃隠カイヒ。



「逃げ続けるは、己と他の命を守る為! 避け続けるは、新たな好機を掴み取る為!」



逃隠カイヒは叫び、攻撃を回避し続ける。主人公は思う。

(そうだ。ゾムビーの攻撃は避け切らないといけない。避けなければ、命は無い! リジェクトは連続して打ち続けられない。避けて避けて避け続けて、力の回復を待たなければならない! ……回避は! サイキッカーにとって大事なんだ!)

二人の攻防は続く。と、逃隠カイヒが口を開く。

「サケル! もう体の方は大丈夫か!? 次、仕掛けるぞ!」

逃隠は答える。

「あア……親父……何とかしてやル……!」

「……よし!」

逃隠カイヒは一歩引いて、鞘に収めた刀の柄に手を掛ける。

「はっ!」

「スパッ」

鞘から刀を抜きつつ、またしてもゾムビーの胴体を切り抜く逃隠カイヒ。ゾムビーに切れ目が入る。

「そこっ!」

次いで逃隠カイヒはゾムビーの上半身を、履いていたゲタで蹴った。

「ドッ」

ゾムビーの体は横に真っ二つになっていたため、上半身は下半身を残し、飛ばされた。

「ドシャアアア」

「ゾ!(あ!)」

下半身は直立しているが、上半身は地面に横たわっている状態のゾムビー。と、ゾムビーの下半身の切れ目に何か輝くモノが。

「ん? あれは?」

逃隠カイヒはそれに気付いた。

「ゾ……ゾゾ!(か……からだ!)」

ゾムビーは腕だけで上半身を起こし、下半身へ向かいそのまま動き出した。

「サケル! ゾムビーの下半身に何か輝くモノがある! あれを奪うぞ!」

逃隠カイヒが叫ぶ。

「合点承知の助ぇえええエ!!」

逃隠はそう言い放ちながら走り出す。

「タンッ」

ある程度、ゾムビーに接近した時点で、飛ぶ逃隠。サッと輝く何かを奪い取る。

「クルン……スタッ」

そのまま宙で一回転した逃隠は地面に着地した。

「ツトムゥ! やつの心臓の様なモノを奪った。リジェクトをお見舞いしてやレ! 今なら効くかもしれねエ!!」

主人公に向かって叫ぶ。

「う、うん! やってみる!」

主人公は返した。

「(頼む……効いてくれ!)リジェクトォオオオ!!」

一抹の不安を抱きつつも、リジェクトを放つ主人公。

「ゾ?(な?)」

「バシャアア!!」

ゾムビーの上半身、下半身は共に吹き飛び、破裂した。



「や……やった……」

「へへ、やりィ」



安堵の表情を浮かべる主人公と逃隠。

「!」

と、逃隠がゾムビーから奪ったモノを見て何かに気付く。

「これハ……」