いぶさん2021/03/02 13:02
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K県の沼地――。

湿度が高く、蒸し暑い中、汗を額に浮かべながら爆破は進んで行く。すると、

「ゾォ……ゾォ……」

「ゾム……ゾム……」

前方二時の方向、十時の方向から、ゾムビー2体が不気味な呻き声を上げながら現れた。

(あの大木から真西の方向、私の分担だけでもう7体か……。こんなにも多いとは――な)

ゾムビー2体は左右からじりじりと距離を詰めて来る。



(はさみうちだ……)

(ほうむってやる……)



ゾムビーの体液の射程圏内に入った、その時――、



「バッ」



爆破は両手を左右に広げた! そして――、



「バースト……!!」



「ボッ!」

「ボッ!」



爆破は左右から来るゾムビーを同時に爆発させた。

「……ふう、流石に疲れてきたな……皆は、無事だろうか……?」



と――、

「ズボッ」

爆破の右足が、ぬかるみに足をとられた。

「ん!」

爆破は冷静に、もう片方の足を安全な場所へ移す。

その時――、

「ゾムバァアア!!(あのいしを……まもる……!)」

ゾムビーがまたしても発生した。

「くっ! こんな時に……!」

「ゾゾォ!!」

ゾムビーが拳を振りかざしてくる。

「!」

爆破は右足の自由を失った状態でそれを避ける。上着をかすめた。その時、爆破が所持していた、あるモノが上着からこぼれ落ちた。

「ふん!!」

爆破はぬかるみから右足を引き抜き、ゾムビーと交戦する。

「ゾゾォ!!」



再び拳が!



「! ここだ!!」

爆破は沼地のぬかるんでいない部分を見つけ、そこへ飛び移りながら拳を避ける。

「お返しだ! バースト!!」

「ゾ?」

「ボッ!」

ゾムビーは吹き飛んだ。

「ん?」

上着から落ちたモノに、爆破は気が付いた。



「あ……」



それはコンパスだった。持っていたハンカチで泥やゾムビーの体液を拭いて、手に取ってみる。コンパスの針はぐるぐると無尽に回っていた。

「壊れてしまったな……」



隊が3組に分かれてから3時間弱――。

南東組が北東組を探したが、結果北東組は全滅していた。南東組は更にゾムビーと応戦、逃隠の活躍により、ゾムビー全てを撃退した。と――、

「?」

主人公は何かに気が付く。ポケットに何かドロドロの物が入っていた。

「これは?」

「やあやあやあ、皆の衆。何か発見したか?」

木々の奥から爆破が現れた。

「隊長! ご無事で」

身体が話し掛ける。

「? ここは南東に位置するのか? いやぁ、コンパスが途中で壊れてしまったようでな」

あっけらかんと話す爆破。

「……いえ、北東方面です。北東組の連中は、残念ながらこの有り様です」

そう言って指をさす身体。指差した先には隊員の片手がぬかるみから浮かんでいる。

「……そうか、その他は無事だったか?」

真剣な表情になる爆破。

「はい、南東の隊は全員無事です。隊長の方は?」

質問に答え、逆に質問を返す身体。

「それは良かった。こちらも何ともない。ただ、こっちの方へ向かう途中、やけにゾムビーが発生していたな。8体ほどだったか? 全て駆除しておいた」

「……流石です」

返ってきた爆破からの言葉に、感心する身体。

「さて、戦果報告を聞こうか?」

「ハッ!」

爆破の申し出に答える身体。

「今回、遭遇したゾムビーは5体、犠牲者は北東に向かった隊員5名。地面のぬかるんだ地形に阻まれ、苦戦を強いられました。が、……」

チラッと逃隠に目をやる身体。逃隠と目が合う。

「逃隠サケル隊員の活躍もあり、窮地を脱することに成功しました」

(うおおぉおおあああああああア!!!!)

両手を握りしめ、顔を上に向ける逃隠。有頂天である。身体の報告は続く。

「5体のうち、3体は私とツトム、隊員がそれぞれ1体ずつ倒し、残りの2体のうち1体は私と隊員で、もう1体は私とサケルで倒しました。最初ここに辿り着いたときには……」

「あの……」

報告中に、主人公が割って入る。

「何だツトム? 戦果報告中だぞ?」

注意する爆破に、遠慮しがちに返す主人公。

「すみません。でも、どうしても気になるコトがあって……さっき、この場所で偶然拾ったのですが……」

何かをゴソゴソと差し出す主人公。

「! これは……?」





――狩人ラボ、会議室。爆破、身体の他に10名程の人物が居る。

「――以上が、この前の沼地調査の報告になりますが、もう一つ話しておきたいことが……」

報告の途中で、ある話を切り出そうとする爆破。

「?」

少しざわつく会議室。

「隊員の内の一人、主人公ツトム隊員が、沼地のぬかるみから、とあるモノを発見しまして……」

「ゴソ……」

懐から何か取り出す爆破。それは紫色の宝石様なモノだった。



「なんだなんだ?」

「宝石か……?」

「そんなものがなぜ沼地に?」



再びざわつく会議室。爆破が口を開く。

「ラボの研究員に調査を依頼したところ、過去に採取した、ゾムビーの肉片と同じ成分が検出されました。」



「なんだって!?」

「こんな宝石から?」



「……研究員はゾムビーの肉片を、凝縮させた様な物質と言っていました。ゾムビーの発生と、何かしらの関係性は無いか、今後とも調査を進めさせます」





宇宙――。

ゾムビーの親玉が球体と共に佇んでいる。

『今度ハ日本トイウ国デモアノ石ヲ奪ワレテシマッタ。我々ノ所有物ガ、コウシテ人間ニ奪ワレテイク……。ドコマデモ愚カナ人間達ヨ……。イズレノ日カ、コノ恨ミハ晴ラシテクレヨウゾ』



――狩人ラボの廊下。ツカツカと爆破が歩いている。

「スマシさん!」

爆破が顔を上げる。そこには、主人公と逃隠の姿が。

「報告、お疲れ様です。どんな様子でしたか?」

主人公が質問する。

「ああ、皆、あの宝石には驚いていたよ。ゾムビー撲滅への手掛かりとなってくれればいいが……」

爆破が答える。

「まァ、あの宝石を発見できたのモ、俺の活躍があったお陰だがナ!」

自信満々の逃隠。

「ハハ、そうだな。次もよろしく頼む」

「ラジャー!」

笑顔で言う爆破に、そう返事する逃隠。

(見つけたのは僕なのに…………まぁ、いっか。サケル君は前回、すごく頑張ってくれたもんな。しばらく、いい気分にさせてあげよう)

一瞬不満げだったが、気を改める主人公。

「今日はこの後、二人はどうするんだ?」

爆破が問う。

「僕はもう帰ります。(尾坦子さんにも会ったし……)」

主人公は答えた後、少しにやける。

「俺ハ、身体副隊長ト、今後の活動について熱く語り合いまス!」

逃隠は元気よく答えた。

「ハハハ、そうか。サケルは本当に副隊長の事が好きなんだな。私の方はだな、今日の勤務がこれで終わりなんで、趣味のソロツーリングにでも出掛けるよ。そこでゾムビーにでも出くわすかもな」

(……なんて効率の良さと実益を兼ね備えた趣味なんだ……!)

爆破の言葉に驚愕する主人公。

「じゃあな」

『ハイ!』

爆破に敬礼する二人。



――夕日が傾く河川敷。

「ブロォオオオオオオオオ!」

軽快な音を鳴らしながら、一台のバイクが走っている。バイクには黒のライダースーツ姿の女が乗っていた。爆破スマシである。

(……いいものだな。バイクで走るのは。日頃の疲れがスッと飛んでいくようだ……ん?)

ふと、河原に目が行った。そこには見慣れた姿の生物が。宿敵、ゾムビーである。思わずバイクを止める。

(まさか本当に出くわすとは……あれは!?)

爆破は何かに気付く。ゾムビーの目の前にやたら派手な姿をした男の姿があった。



「ゾ……ゾゾ――――!!」



ゾムビーが男に襲い掛かる。



「まずい! 逃げろ――!!」



爆破が叫ぶ。刹那、男がつぶやく。



「抜刀……一閃……!」