回避とサイコとツトム外伝~ゾムビー~

Chapter 10 - 第十話 狩人ラボ

いぶさん2021/02/25 13:03
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「タタタタ、ザッ」

遅れて、狩人の隊員も到着した。

「遅いぞ、お前ら!」

「ハイ! 申し訳ありません」

唖然とする友出。

「こいつらは一体?」

「政府公認部隊・狩人の人達だよ。ゾムビーを駆除してくれているんだ」

友出の疑問に答える主人公。

「フッフッフ。俺様が呼んだんだゼ、ケータイでナ」

どこからともなく現れる逃隠。

「サケル君! どこに居たんだよ、もう」

「フッフッフ。回避の術の一つ、隠れ蓑の術で身を隠していたのダ! この隠れ蓑の術とは――」



(まるで忍者だ)



呆気にとられる主人公。

「ほう……これは…………隊員達! ゾムビーの肉片を処理しろ!」

「ハッ」

ゾムビーの残骸を確認した後、隊員に命令を下す爆破。続けて主人公に話し掛ける。

「少年、君がやったのか?」

「ええ、一応……」

答える主人公。

「ふーむ」

腕を組む爆破。

「(見たところ、装備しているのは手袋のみ……か)少年、君の持つ超能力でゾムビーを撃退してくれたのかい?」

「いえ、超能力と言うか……両手がいきなり光り出して……ブワッてなって……僕、必死で」

あいまいに答える主人公。

「(自覚症状無し。そしてたった今発現したのか……面白い)少年、まだ名前を聞いていなかったな。名は何と言うのだ?」

問う爆破。答える主人公。

「ツトム、主人公ツトムです」

「うん、いい名前だ。ツトム、来てほしいところがあるんだ」

主人公は爆破に、夏休みになってからとある施設に来るよう頼まれる。

夏休みになり、主人公と逃隠は爆破からもらった地図に案内され、狩人ラボなる施設に辿り着く。

「ウィ――ン……ツカ……ツカ……ツカ」

中から足音を立てて爆破が現れる。

「待っていたぞ、ツトム」

爆破に案内され、中に入ると、外観と同じく、銀一色の内装で、時たま信号のような光が壁を伝っていた。

「うおぉぉおオ‼ シルバー! シルゥバァー‼」

はしゃぐ逃隠。

「はは、珍しいか? ここはゾムビーの体液では溶解出来ない、特殊な金属でできていてな、壁には様々な通信回路も備わっている」

「俺は感動したゼ――。生まれてきて良かっタ!」

「サケル君、静かにしようよ」

途中、忙しなしに資料や備品を運ぶ職員に出くわした。誰もが爆破にお勤めご苦労様です、と挨拶をするために足を止めていた。しばらく中を進むと、一つの扉の前で、爆破が歩きを止めた。

「さてツトム。君に会わせたい人というのがこの扉の向こうに居る」

そう言うと爆破は扉を開けるスイッチを押した。

「ウィ――ン、ガシャン」

扉が開くとそこは研究室のようなところだった。研究者たちがコンピュータや実験器具の前で作業を行っている。

「こっちだ」

そう言って爆破が指差したその先に、ガラス張りの部屋があった。そこには女性のようなナース服を着たゾムビーが椅子に座っていた。

「あれは……尾坦子さん!? 尾坦子さん!」

ガラス張りの壁に駆け寄る主人公。

「ん? ツトム君? ツトム君じゃないの! どうしてここへ?」

こちらに気付いた尾坦子が椅子から立ち上がり、近寄ってくる。

「ああ、尾坦子さん……」

壁に手を当てる主人公、涙ぐんでいる。

「無事……だったんだね。尾坦子さん」

「全っ然元気よ。ゾムビー化しちゃったけどね」

全身紫色をした尾坦子が話す。ここで対ゾムビーの研究の手伝いをしているコト。ゾムビー達を怯ませる電波だとか、ゾンビ―達をいち早く発見するための電波だとかを浴びて、その結果を調べられているというコト。淡々と話す尾坦子。

「しんどい時もあるけど、殺されるほどの電波を浴びるわけじゃないわ。私ね、誰かを助けたい、誰かの役に立ちたいってずっと思いながら生きてきて、それでナースになったの。だから今、ゾムビーを退治するための役に立ててとっても幸せなの」

主人公の居る中で、実験が再開される。主人公は研究員達によってガラス張りの部屋から引き離され、研究室を出る。

「あの、……本当に尾坦子さんは大丈夫なのでしょうか?」

主人公が問う。

「生命維持に支障は無い程度の電波だ。これくらいは、こちらとしても協力してもらわなければならない」

「そうですか……」

ラボの廊下を歩く3人。爆破が口を開く。

「会わせたい人がいると言って君を呼んだのだが、本題はそれではなかったんだ」

「どういうことですか?」

主人公が問う。

「あの女性をダシに使って悪かったのだが、ツトム、君に頼みたいことがあってな」

「?」

「一緒に、ゾムビー達と戦ってほしい」



「!」



「ゾムビー達は世界各地に出現し、人々を襲っている。このままでは人類の存亡に関わってくる。我々、狩人は強い。だが、特殊な訓練を耐え抜いてきた部隊だけあってその数は僅か、人手不足なのだ。この間の体育館裏の時も出動が遅くなってしまっただろう? それは随所に基地と隊員が少ないからなんだ。今、一人でも多くの強力な人材が欲しい」

「はぁ……」

「そこでだ。超能力が発現した君に、ぜひ協力してもらいたいのだ」

「そう言われても、僕、超能力を上手く使いこなせるかどうか……」

「心配しなくていい」

「ツカ……」

爆破が足を止める。そこには大きな扉が。

「君にはここで、1カ月間訓練を行ってもらう!」





「ガッ……ゴゴゴゴゴゴ……ガシャン」





大きな扉が開く。

「この、第2訓練場で超能力を! 完全にマスターしてもらう‼」

「!」

広い部屋になっていた。そこにはゾムビーをかたどった的のようなもの(サンドバックに似ている)が無数に有り、何かを測る7セグメントの大きな表示器のようなものも存在した。

「(何かしら、訓練をするには充分な設備だ……でも!)僕、まだ中学生ですし、学校生活とかに支障が出たら……。今、夏休みといっても宿題もあるし……」

最後は小声になったが、主人公が反論する。すると、声高に爆破は言う。

「はっはっは。なぁに、宿題、勉強なんてものは受験の年の夏休みからすればいい。君はまだ2年生だろ? それと、自分の友達や家族、恋人をゾムビー達に奪われてしまってもいいのかい?」

「友達、家族……恋人……」

友出、両親、尾坦子が頭に浮かぶ主人公。

「(もう、誰も尾坦子さんのようにはしたくない!)……分かりました。あまり……自信はありませんが、やってみます」

少しばかりではあるが決意を固めた主人公。

「よろしい」

爆破が頷く。ゾムビーをかたどったサンドバックが無数に現れる。表示記が灯り、0が表示される。

(やるぞ! コガレ君を、家族を、尾坦子さんを! 守るんだ!!)

爆破の指示のもと、特訓が始まった。