いぶさん2021/02/23 13:02
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「尾坦子さん、院内は走っちゃいけないって……」

「ツトム君、今はそれどころではないの!! ゾムビー達が西側入り口から侵入してきたの!! ここは一階だからすぐに奴らに襲われるわ!」

「ゾムビー!? あの、ニュースで有名の?」

驚く主人公。



「なんだなんだ?」

「ゾムビーが来てるってよ」



ざわつき始める患者Aと患者B。

「皆さん、ここにいては危険です! 早く南の出入り口へ行って非難……」



「ブシュウウゥゥウウ!!」



尾坦子がそう勧告するのもつかの間、デイケアルームの壁が溶け出す。

「を……」

そこには、8体のゾムビー達がぞろぞろと不気味に姿を現して来ていた。

「ゾム……(にんげん、ゆるさない)」

「ゾ……(にんげん、やっつける)」

「!? あれが……ゾムビー……」

初めてゾムビーを目の当たりにし、恐怖を感じる主人公。

「ぎゃあああああああ!!」

恐怖でパニックに陥る患者A。走り出し、廊下から逃げようとする。

――しかし、

廊下への扉はゾムビー達が溶かした壁とほんの2、3メートルしか離れていない。

「ガタッ!!」

「うわっ!」

「すてーん!!」

椅子に躓く患者A、こけてしまう。不気味なうめき声を上げながら患者Aに忍び寄るゾムビー達。

「ゾム……ゾム……(しとめてやる)!!」

「うわぁああ‼ 来るなぁああ‼‼」

手を振り回し、ゾムビーを追い払おうとする患者A。しかし、



「バシュッ」



ゾムビーの口から緑色の体液が患者A目掛けて飛び出す。



「避けて!!」



叫ぶ尾坦子。

「ベシャッ」

しかし緑色の体液は患者Aの頭頂部から顔の右半分を覆うほどに降りかかった。





「ぎゃあああああああ!!!!」





主人公は問う。

「尾坦子さん、あれは……?」

尾坦子が答える。

「ダメよ。……あの体液にかかったら最後。あの人はもう、助からない」

「ジュウゥゥウウウ」

患者Aの、体液がかかった部分がみるみるうちにゾムビー達と同じ色、つまりは紫色に変色していく。



「あああぁぁぁぁ!!!! …………ぅ……ぅ……む……ム。ゾム」



数秒も経たぬうちに患者Aはゾムビー達と同じ姿になってしまった。9体となったゾムビー。皆に呼びかける尾坦子

「廊下から逃げちゃダメ! 窓を開けてそこから逃げ……!!」



精神病棟の窓は、患者が脱走しないために風が通るすき間しか空いていないことが多い。



ほうきを手にする尾坦子。

「患者さんは、私が守る!! やぁああああ!!!!!!」

ほうきを振り下ろす尾坦子。ゾムビー1体の頭に当たり、怯むゾムビー。

「ゾゾォ……」

(イケる、時間を稼ぐくらいならできるかもしれない)

少しばかりの希望を見出す尾坦子。



「ゾム……ゾムバァアア!!」



「バシュッ」

殴られたゾムビーの後ろにいたゾムビーの口から体液が。

「サッ……タタン!!」

横に飛んで避ける尾坦子。恐れのあまり叫ぶ患者C。

「ひぃぃいい! 終わりじゃあ!! この世の終わりじゃぁああ!!!!」

「落ち着いて下さい! 体液は服に着いたくらいでは何ともありません! 体に当たりさえしなければ何とかなります! それに体液はある程度乾けば無害です!!」

ゾムビーを攻撃しつつそう叫ぶ尾坦子。一瞬の隙を突かれ――、



「ゾム……ゾム‼」



「バシュッ」

尾坦子に飛びかかる体液。

(だめ……避け切れない……)



「バッシャアアアアア」



尾坦子に降り掛かるゾムビー達の体液! 主人公は叫ぶ。

「ああ!!!!」

尾坦子の体がみるみる紫色に変色していく……。動かなくなる尾坦子。激しく動揺する患者達。

「うわあああああああああ!! ゾムビーに対抗できる人がいなくなった!! 逃げ場もない!!」

「そんな……尾坦子さんが……」

絶望する暇もなく、襲い掛かるゾムビー。そこで作っていた手袋を手にする主人公。

「スチャッ」

手を入れ、手を握って動かしてみる。

「ギュッ、ギュッ」

「よし、スキマもないし、しっかりフィットしてる。……行ける……かも……」

患者達を襲おうとするゾムビーの横から、

「ドッ!」

主人公の両手がゾムビーを突き飛ばした。



「パリィン!!」



飛んで行ったゾムビーの1体が廊下の窓に頭から突っ込み、ガラスを割った。ゾムビー達は動揺する。

「ゾ……ゾ……」

少し顔の汗を拭く主人公。安堵する主人公。その時!

「ゾ……ゾゾ……ゾムァアア(おまえも、なかまに)!!」

ゾムビーの口から主人公に向かって体液が吐き出される!

(! 危ない‼ やられる……!!!!)

咄嗟に両手で体液を防ごうとする主人公。しかし、面積が足りず、両手の間、淵から体液が主人公を襲う!!





(ダメだ……やられる……!!)





襲いかかる体液!!



(嫌だ……死にたく……ない!!)



瞬間、主人公の両手に微かな光が。

主人公はそれに気付いていない。そして襲いかかっていた体液はベクトルを変え、主人公の足元にこぼれ落ちた。

「ゾ!?」

驚愕するゾムビー。

「これは……いったい……?」

主人公もまた驚くしかなかった。引き下がる、体液を吐いたゾムビー。後ろにいたゾムビーが動き出す!

「ゾム!!」

主人公は身構える。

(やばい! また体液が……来る!)

その時、何者かが大声で叫ぶ。





「撃て!!!!」





「タタタタタタタタタタタタタタタ!!!!」



マシンガンのようなものから銃弾が撃ち込まれ、ゾムビー達に当たっていく。

「ゾォオオ!!(いたい!)ゾォオオオ!!(これはなに?)」

苦しむゾムビー達。銃弾はゾムビー達の足元から命中していき、ゾムビー達は足、臀部、背中、胸、頭の順に破壊されていく。

「……すごい」

息をのむ主人公。目を見張るものはその命中率であり、デイケアルームの患者達はもちろん、近くにいた排便や主人公にはかすり傷一つつけることなく当たらず、的確にゾムビーのみを狙撃していた。しばらくし、銃声が鳴りやむ。「た、助かった……」安堵の表情を浮かべる主人公。

「グイ……」

主人公は何者かに足を引っ張られていることに気付く。

「もう、なんだい? ……!!」

そこには下半身が無いゾムビーが居り、主人公のズボンの裾を引っ張っていた。



「!!!!、うわぁあああああああああああ!!」



叫ぶ主人公。





「ゾムゥウウ!!(こいつだけでもたおしてやる!!)」





瞬間、



「ボンッ!!」



ゾムビーが、主人公を掴んでいた手を起点に爆発した。



「!?」



驚き、何が起きたか分からない様子の主人公。

「危なかったなぁ、少年。」

「ツカ……ツカ……ツカ」

何者かが足音を立てながら近づいてくる。

「しかしもう安心だ。私は爆破スマシ。政府公認部隊・狩人の隊長だ!」



――、

「ゾムビー達に対抗できるのは、政府公認部隊の狩人か、超能力を使えるサイキッカーくらいだ。よっぽどのことが無い限り、あんなことをしちゃあダメだぞ、少年。まぁ、狩人が駆けつけるのが少し、遅かったかな?」

淡々と話す爆破。

「いいえ、助かりました。ありがとうございます。爆破……さん?」

そう返す主人公。

「スマシでいい」

「ありがとうございます。スマシさん」



「隊長!」



狩人の隊員が爆破を呼ぶ。

「なんだ?」

「看護服を着たゾムビーが1体、ほぼ無傷の状態で生き残っていたのですが……」

「ほう」

「全くこちらを襲う気配がありません」

(尾坦子さんだ!)

ハッとする主人公。

「そうだな、奴らを知るためのいい研究材料になるかもしれん。第2研究室へ搬送しろ!」

命令を下す爆破。



「あのっ!」



「? なんだ」

爆破に話しかける主人公。続けて言う。

「尾坦子さんは……あのゾムビーはどうなってしまうんでしょうか!?」

返す爆破。

「尾坦子と言うのか。彼女が人間だったころは、ここの看護師か何かだったのかな? 貴重なサンプルだ。我が部隊が丁重に研究所まで送る。研究所では……ゾムビーについて把握するための実験を行われるだろうな」

「そんな……実験体になるなんて……」

「まぁそう悲観的になるな。別に直ぐ殺されるわけではない」

そう軽く返す爆破に、不安を隠せない表情の主人公だった。