いぶさん2021/02/22 13:35
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(回想)

「もし、俺がゾムビー化したら」

「!」

「容赦なく殺してくれ」

「馬鹿者!! 何故そんな事を……」

爆破は怒鳴った。目にじんわりと涙を浮かべながら――。

「好きだから――、スマシちゃんに生きて欲しいからに決まってるだろ?」

「! ――」

(回想終了)



その、“もしも”の状況が、今まさに起きてしまった。爆破は悲しみ、悔いた。今ある状況を――。

「何で……どうして……?」

「ゾゾォ……」

感傷に浸る間も与えず、杉田をゾムビー化させたゾムビーが、爆破を襲ってきた。目をキッとさせる爆破。





「ボッガァアア!!」





爆破は廊下ごとゾムビーを爆破させた。

「キサマさえ居なければ……! クソッ!!」

不意に、ゾムビー化した杉田を見つめる爆破。

「好実……」



(回想)

「な……なら、私がゾムビー化しても、殺してくれ」

「無理だ」

きっぱりと断る杉田。

「な……何故だ! 道理に適ってないであろう!? 不平等だ!!」

「ハハッ、俺はバーストなんて、超能力なんて使えないんだぜ? しかも銃器を扱う軍人でもない。だから俺にゾムビーを殺す力は無い」

「成程、心情的に無理なのではなく、能力的に無理なのだな?」

「んー、その条件ならどっちも無理かな?」

「何故だ!? 能力的に殺せないなら百歩譲ってアリだが、心情的に無理というのは道理が通らんぞ!」

「好きだから――じゃあダメかな」

「! ――」

再び顔が赤くなる爆破。

「ひ……卑怯者!!」

「ハハッ、卑怯で結構。じゃあこうしよう。俺がゾムビー化したら、スマシちゃんが俺を殺す。スマシちゃんがゾムビー化したら、俺もゾムビーになろう」

「参った。分かったよ。お前を苦しめない為に、その条件を呑もう」

(回想終了)



「それでも! こんな事って……!」

杉田だったモノに手を指し伸ばす爆破。



(回想)

「そうか、前に好きだった相手には、先立たれてしまったのだったな」

爆破の頭をくしゃっと撫でながら杉田は言う。

「そーゆーコト!」

「わ……私は! その娘の様にはいかんぞ!」

「?」

「お前よりも、長生きしてやる! それで、お前を苦しる様な事はせん!!」

「ハハ、サンキュー」

杉田は笑った。満面の笑みで。



(回想終了)

「好実ぃ……」

「ゾ……」

杉田だったモノは口を開いた。

「ゾ……して……こ……」

「!」

「……殺して……くれ……」

「! 好実、意識が……!」

「……殺してくれ……もう、持たない……ゾム……ゾゾォ!!」

杉田だったモノは爆破を襲ってきた。



(回想)

「お前よりも、長生きしてやる! それで、お前を苦しる様な事はせん!!」

(回想終了)



(それが……お前の望みなんだな……)

「ゾゾォ!!」

「バースト……」

「ボッ!!」



杉田の命は、完全に断たれた。



数十分後――、

「タタタタタタタ!!」

『こちら第三棟、奴らの数が多い、至急応援を頼む。どうぞ』

『了解、今から向かう』

銃器で隊の一人がゾムビーと戦っていた。

すると――、





「ボッガァアア!!」





隊員の向こう側で、ゾムビーが教室丸々一つごと吹き飛んだ。

「な……? 何だ……?」

メラメラと第三棟の一部が燃える。そこには、左手を掲げた少女が居り、炎の所為か赤い涙を流しているように見えた。

「全員殺してやる……!」

赤い涙を流しているのは、爆破スマシだった。

数十分後――、

ゾムビーは一体たりとも発見されず、○○高校のゾムビー事件は終息を迎える。





さて、ゾムビー達は、元々宇宙に居た生物だ。

宇宙の成分はダークエネルギー、暗黒物質ダークマター、原子で構成されている。その比重は、ダークエネルギーが68.3%、暗黒物質が26.8%、原子が4.9%となっている。その成分の空間に慣れていた所為か、地上に降り立ったゾムビー達は、他の物質を取り込まなければ自らの形を保つことは出来なかった。その他の物質とは?

雑菌や食物などである。それらを求め、ゾムビー達は人間の前に現れたのである。

(にんげん、つよい……)

(いたいの、きらい……)

(たたかう、いやだ)

ゾムビー達は人間達による戦いに巻き込まれる事で傷付き、それ以降は人間達の前に姿を現すのを暫く止めた。ほとんどのゾムビー達は自らの形を保つよりも、自らが傷付くことを避けた。そんな中でも、爆破はちらほら現れるゾムビー達を駆除していった。時には自ら見つけたゾムビーを、また時にはスーツ姿の男が見つけたゾムビーを、連絡を受けてから、駆除しに行った。アメリカでも時折り現れるゾムビーの駆除を行う者が居た。それはMASAの隊員や、米軍の兵士から派生した人員達である。組織名はhunter。文字通り、ゾムビーを狩る組織だ。この組織にはfireやボディアーマー、サイコキネシスやワープも所属していた。

月日は経ち――、

2018年のある夏、中学二年生の抜刀セツナは生まれて初めてゾムビーと対峙する事となる。とある河川敷に一匹のゾムビーが発生していた。

「おいおい、何だこの化け物は……? まあいい、この力を思う存分使ってやる。普段は喧嘩で威嚇程度に使ってたが、今回はホンキで余すことなく使ってやらぁ!」

ダッシュでゾムビーに近付く抜刀。

「抜刀……一閃……!!」

抜刀は超能力で出した刀を上から一直線に振り下げた。

「ゾ?」



「ズバァ!!」



ゾムビーは縦に真っ二つになった。

「ズズズズ……バシャァ」

ゾムビーの残骸は切られた面から体液があふれ出した。

「へっ! てんで相手にならねぇ。まぁ、ストレス解消には丁度いいか? また見つけたら叩き切ってやる!」



(また、なかまやられた)

(にんげん、こわい)



ゾムビー達は互いにテレパシーの様なモノで情報を共有していた。その全ての情報や感情は、ゾムビーの親玉に伝わっていた。

『オオ、同胞達ヨ……。何トカシテ助ケテヤリタイガ、ココカラ離レラレナイ。助ケル法ガ思イ浮カバナイ……。ドウスレバ……ドウスレバイイ!?』

そして2020年、ある春の事――、

高校二年生の、身体スグルが河川敷をランニングしていた。ふと、何かの気配に気付く。川の方を見るとそこには紫色をした、得体の知れない生物がたたずんでいた。

「! 何だコイツは!?」

その生物はじりじりとこちらへ近寄ってくる。

「ゾム……ゾム……」

「くっ来るなぁ!!」

怯える身体。

「……バースト」



「ボボン!」



得体の知れない生物は爆発するかのように弾け飛んだ。声のした方へと身体が顔を向ける。

「危なかったな、青年。もう大丈夫だ」

そこにはたまたま散歩をしていた、爆破がいた。

「あ、貴女は?」

「ん? 私は爆破スマシ。ストレス解消と趣味で、さっきのような生物を駆除している者だ!」