一章:ねこねこカッパ恥じて鹿
場面は黒魔女と白魔女の抗争から物語は始まる。
クロからの情報で、
死神とその主達が次々に殺害されていると知った俺たちは、仲間と共に首謀者の正体を探るべく毎日のように動き続けている。
そして、ようやく首謀者に辿り着くための鍵である“アカシックレコードⅡ”の入手に成功した。
フロッピーディスク式の“アカシックレコードⅡ”を
旧型のデスクトップPCで読み込むと、
そこには、
“我々の目的は、
全ての契約の証を集め、主を殺害した後、
戦意喪失した死神達を手玉に取り、
著者に復讐することである”と、
露骨な内容が記述されていた。
「向こうから誘ってるって事だろ?」
「まぁ、そういう事になるな」
「で、これからどうすんだ?」
以前、黒幕の手がかりを追っている最中に、
俺の母親、“黒澤玲香”の目撃情報を入手した。
以前、祖母から受け取った実母の遺品、
紅色の創作ノートを開く。
一応、血縁関係のある人のものということもあり、今まで読む事に抵抗があったが、
意を決して確認することにした。
そこには、死神についての情報が事細かに書かれていた。
自分らが何者で、何者かによって、
自分らが操られていた事、
イデアの世界が存在し、それを何者かが消滅させようとしているのを理解した。
そして、その“何者”の正体を玲香だと確信する。
「黒澤玲香が首謀者か…まさか生きていたとはな」
「とりあえずヤツが黒魔女なのは確定か?」
自害する前に玲香が咲月に遺した紅色のノート
の最初の頁には、グリモワールと書かれている。
更に、最後の頁には、
「神というのは、人々が創り出した概念だ。
悪魔とは、己自身が持つ本能の事だ。
鏡に映るその姿こそ、睨むべき相手だ。
人生とは、己との戦いだ…」
と書かれている。
「生きとし生けるもの全てを無かった事にする」
「何もかも消し去ってしまいたい」
文章の所々に、そういった負の意思を感じる。
玲香を止めるべく、居場所を突き止めようと動き始めるが、再び黒魔女の刺客が現れる。
「お前ら、本当にそれでいいのか?」
「我々は、彼女の考えに賛同した上でここに居る」
「死にたきゃ勝手に死ねよ。
関係ない他人を巻き込むな」
「そうはいかない。
なぜなら、特にお前はこの物語の鍵だからだ」
「くだらない思想に囚われてんじゃねぇよ」
「くだらないかどうかは、お前自身の目で確かめてみろ。
全てを知りたければ、我々に着いてこい」
「断る」
「だろうな。ならば、力ずくで連れていく」
「やれるものならやってみろ」
…………………………………………
黒魔女との戦闘を終えた俺は、
負傷した右腕を庇いながら病院へ戻った。
俺の寝室に来ていた黒田に手当を受けながら、
再戦に備えて次の手を考える。
「咲月、どうしたの?」
「いや、なんでもない。
本当に些細なことだから気にすんな」
「もう、また嘘ついて〜」
「嘘ではないんだけどな」
「もしかして、死神の事?」
「まぁ、そんなところだ」
「何があったの?」
一応、黒田には話すことにした。
今の黒田は関係だし、
彼女が奴らに狙われる可能性も十分にある。
黒田も自己防衛の手段は持っておいた方がいいだろう。
普通は、こんな非現実的な事を言われたら、
異端者としか思わないだろうが、
黒田は真剣な顔で、俺の話に聞き入った。
「あのさ、私たちずっと一緒だからね。
だから、私の傍から居なくならないで…」
「急にどうしたんだ?」
「私、本当に心配なの!
このまま私から離れちゃう気がして不安なの!」
「礼子…」
俺は黒田を強く抱きしめる。
「ごめんな、礼子」
「謝らないでよ。貴方は何も悪くない」
「すまない」
「いいよ、今度は私の番」
これが所謂、死亡フラグというやつか。
だが、そんな事はどうだっていい。
必ず黒魔女を倒して、生きてみんなの元に帰る。
それが、俺と黒田が交わした約束だ。
…………………………………………
早朝、営業時間の前に一人の女性が訪ねてきた。
“宇田聖子”という、現在担当中の患者だ。
近頃、心身ともに調子がいいようで、
朝早くから来るようになった。
新しい彼氏との自慢話をする事が多くなり、
以前とは比べ物にならないくらい成長している。
「顔色、良くなってきましたね」
「はい、おかげさまで。
先生、今まで本当にありがとうございました。
私が変われたのは、先生のおかげです。
そうだ、何かお礼を…」
「いいえ、医師として当然ですから」
「どう、されました?」
「聖子さん、よく聞いてください」
「はい」
「俺から貴女への診察は今回が最後となります。
ですから、これからは別の医師に変わります。
ですが、決して貴女を裏切った訳ではなく、
私情により、この仕事を続けられなくなるかもしれないという事です」
「つまり、それはどういう事?
悩みがあるならいつでも私が相談に乗るわよ?」
「構いません。
貴女は貴女の幸せだけを考えればいい」
キツく言ってしまったせいか、
宇田さんは押し黙ってしまった。
辺りに気まずい空気が流れ、
二人ともしばらくの間沈黙する。
なんだか、申し訳ない気持ちになる。
「失礼します」
突然、診察室のドアがノックされる。
返事をする間もなく入ってきたのは、
長年俺の秘書を務めてきた“夏目由香里”だった。
「由香里か、今診察中だぞ」
「先程、黒澤玲香の居場所を特定しました」
「何!?」
「向かわれますか?」
「これが終わったらすぐに行く。
先に準備をしておいてくれ」
「承知しました」
目的地までの所要時間は、
四百CCのバイクでおよそ五時間。
それまでの準備も合わせると、七時間は掛かる。
診察を終えて早々に準備を済ませた俺は、
外装ボディーに“Kurosawa”というマークが刻印されている黒塗りの中型バイクに跨り、
黒澤玲香が居るとされる北東方面へと向かった。
二章:生きとし生けるもの
日付が変わる数分前、
俺は仮面の十人組に捉えられた。
この前の戦闘で疲弊していたのもあるが、
奴らの能力が幻覚を見せる類のもので、
一歩も抵抗できずに捕まってしまった。
そして、目を覚ますと牢の中にいた。
「クロ!?それに、フール!?どうしてここに!?」
「お前から無理矢理引き剥がされた」
「俺も何でここにいるのか分からん。
仮面の男を追っていたらここに居た」
状況を具体的に把握する余裕もないところで、
牢の中に置かれているモニターから、
黒い仮面を被った奴が現れる。
「おはよう、死神の諸君。
今から君たちには、黒魔女と白魔女に別れて、
ゲームで競ってもらう。
ゲームで負ければ即退場、というか死ぬからね。
私のところまで来れた者にはご褒美をあげよう。
もちろん、君たちが望んでいるものだ。
それじゃ、せいぜい頑張りたまえ」
武器になる物は全て没収されている。
ボイスを変えているせいで、
奴が男か女か分からない。
とりあえず、俺とクロは白魔女側となっているらしい。
フールも仲間でよかった。
傍に落ちていた鍵を拾い、俺たちは牢から出た。
第一の試練は謎解きだった。
暗号が書かれた六枚の紙。
それを解きながら、長方形の大理石に置かれた六角形のルービックキューブを揃えるというもの。
これはクロの力がなくても簡単にクリアした。
「咲月君!」
「礼子!?何でここに!?」
「お前は確か、エゴイストか?」
「そうだ、私も一応死神なのでな」
「エゴイストは分かるが、
何で人間の黒田までいるんだ?」
「知らない。気づいたらここにいて…」
二人とも白魔女側だと知り、少し安心した。
次のステージに行く途中、
黒田とエゴイストと合流する。
この五人で第二、第三ステージを難なく突破。
そして、第四ステージの試練は、
黒魔女と白魔女で殺し合いをし、
制限時間内に多く生き残った方が勝利するというものだった。
黒魔女側には、“夏川千夏”とイデアの姿があった。
おそらく、クローンか何かだとは思うが、
向こうも本気で殺しにくるはずだ。
仲間が次々と殺され、白魔女側が劣勢になる。
クロとフールが他の奴らの相手をしている間、
エゴイストの体(女体化)を借りた俺と黒田で千夏とイデアを倒す。
「礼子、お前が持ってる契約の証で俺に攻撃の指示をするんだ」
「えっと、これ?」
「ああ、その証に向かって強く願うんだ。
夏川千夏も同じやり方で来るはずだ」
「わかった、やってみるよ!」
「頼むぞ、相棒!」
俺と黒田は、気合いを入れ直して目の前の敵に一点集中する。
「“generate(ジェネレート)”」
俺は何も無い空間から、二丁の拳銃を生成する。
俺専用の武器、対死神用二丁拳銃“アカツキ ”だ。
イデアも異空間から聖騎士の剣を取り出して戦闘開始。
「そんな弦楽器を弾く棒で俺を倒せるとでも?
基本装備じゃなくて、お前専用の武器で戦えよ!
それと、楽器は大事に扱え!!」
俺の方から相手を煽りながら徐々に追い詰めていく。
こんな説教じみた事を言いつつ、
俺も相手と同じ武器で攻撃を必死に防いでいる。
だが、相手からの返答はない。
まるで傀儡兵のように、
ただ黙々と目の前の敵を排除しようという意思をイデアから感じる。
「咲月君、後ろ!!
そのまま交わして後ろから撃って!」
「了解!」
「剣に切り替えて防御!」
黒田の的確な指示に体が反応し、
俺はいつも以上に素早い動きを見せる。
このままいけば、早い段階でヤツの隙を突ける。
いや、それとも今か?
「咲月君、今よ!」
『“ホワイトレボリューション!!”』
撃つタイミングは同時だった。
互いに同じ技を放ち、周辺が閃光に包まれた。
千夏とイデアを倒した俺たちは、
再び開き始めた別の扉に近づく。
「いよいよ、ラスボスの登場だな」
扉を抜けると、“黒澤玲香”が、
実母の姿があった。
「よくここまで来れたね、よく頑張りました フフッ」
「何が目的だ!?」
「通称、デルタ計画。
この物語を終わらせるための過程さ」
「あんたが始めた物語だろ!?
何故こんな回りくどい事をする!?」
「咲月、アイツはもう何言ってもダメそうだ」
「クロも酷いな〜」
玲香の後ろには、
モノリスを置くための石版があり、
玲香は咲月にモノリスを投げ渡す。
どうやら、あの高さ百六十センチの正方形の石版にはめ込むようだ。
「これはね、
“モノリス”っていう、持ち主の願いを叶えてくれる凄い石なんだ。
私の後ろにある石版にはめこめば起動する。
これ、君にあげるよ。
ただし、ラスボスである私を倒さないと起動しないから、頑張って倒してね」
「ふざけやがって…望むところだ!」
今こそ、自分を捨てた母親に対しての憤りをぶつける時だ。
願いが叶うとかどうでもいい。
目の前の敵を倒し、今度こそ終わらせてやる。
こんな巫山戯た物語を…。
三章:perfect end
フェイカーの負けだ。
いつものように“ホワイトレボリューション”で俺の腹部に拳をぶつけようとしたフェイカーだったが、指をフェイカーのデコに添えた瞬間、
呆気なく、光になって消えてしまった。
「玲香ーー!!」
「ごめんな、フェイカー……」
フェイカーの存在が消滅した瞬間、
イデア世界の崩壊が始まった。
最後は、人も動植物も海も陸も、
みんな満たされたまま消えてゆく。
俺は、玲香の姿から元の男の姿に戻る。
「終わったかい?」
「終わったよ」
「こんな回りくどい方法じゃなくてもよかったのでは?」
「こうでもしないと、奴らも来てくれなかった」
「落ちるところまで落ちたね。
君も、あの世界も」
高校を卒業する頃には、俺の中では完結していた。
初めから、こうなる事は決まっていた。
「俺らは、何のために生まれてきたんだろうな?」
「それは、彼ら死神のセリフだよ
君は、何のために彼らを望んだんだ?」
「己の欲求を満たすため。
それ以外の理由が見当たらない。
けど、もう要らないかな…」
「また壊れちゃったね」
「あぁ…」
「それで、これから君はどうしたいの?」
「これ以上書いても仕方ないし、
ここで終わらせようかな」
「良いよ、終わろうか」
END