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Chapter 3 - 【10月31日 月曜日】

シノギカンナ2020/12/05 18:18
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1年3組の教室の後ろのドアを開けると、後ろからとつぜん声を掛けられた。

「トリックオアトリート!向井くん、はい、これ~」

小さいチョコレートを僕の手に押し付けた女子─確か、藤口だっけ─は、急ぎ足で他のクラスの方へ向かっていった。

あれ。この言い方だと、僕って菓子をもらう方ではなくないか?

 

「おやおやぁ?」

一番後ろの廊下側に席を持つ小林がこちらを向いた。

「ひなた、半分くれよ~!オレ、なぜか誰にもトリックオアトリートされないんだよ」

かわいそうな奴だな…と、貰ったチョコレートをそのまま小林に渡してやった。

別に僕はいらないし。欲しいやつにあげればいい。

「やった~~!!!ひなた愛してるぜ」

「気色悪いな…そういや小林、昨日は結局なんか用事とかあったん?既読付くの結構遅かったけど」

「あ………いや~、ゲーセンで永遠にメダルゲームしてたから気付かなかった!寂しがらせてごめんな~」

「寂しがってなんかねえし」

「またまた~」

一瞬、小林の顔が歪んで見えたのは気のせいだろう。こいつ、いつもヘラヘラしてるし。相変わらず、表情筋がぐにゃぐにゃな奴だ。

 

 

チャイムが鳴り響く。一時間目の授業が始まる合図だ。

有本先生の国語の授業は今週いっぱいでおしまい。

終わったら、もう会えることは無いだろう。

会えたとしても、あちらは僕の事なんか覚えてもいないかもしれない。でも、それはしょうがない。

たった数回、図書館で会って話をしただけだったんだから。

でも、僕にとっては…少しの間できたお姉さんみたいな人だった。


きっと、忘れないと思う。



 

スーツ姿の有本先生。


いつもは髪を後ろで縛っているのに、今日は髪を下ろしている。


図書館で会う時と同じ髪型だ。

僕は先生の私服も知ってるんだぞ、と自慢して回りたくなるような気分になる。

日直の気だるげな号令の声が、教室に響いた。