「世里凪(せりな)ーッ!」
夕暮れの瓦礫の街でブレザー制服、黒髮ロングの少女が疾風のごとく駆け、そして叫ぶ。
その右手には陸軍刀が握られている。
すぐさま追い越し、ショートボブ、白い半袖セーラー服姿の少女が前に出る。
「わかってるよ…怒鳴らなくてもいいだろ真矢…」
「つべこべ言わず早くしろ。このスカタン」
"真矢(マヤ)"は罵声を吐く。
『世里凪』は、旧日本陸軍の短機関銃に酷似したその武器のコッキングレバーを素早く引く。
ジャキン!
身を低く、そして構え…引き金を引く。
タタタタタ…!
8mm南部弾"もどき"が軽快な発射音を発して赤い線を描きながら遠くの"目標"へと吸い込まれていく。
弾頭が向かったその先の"四つの黒い人影"は蠢めきながら、そして素早く回避した一人をのぞき青い閃光を発し消滅する。
「撃ち漏らしたな?」
「ジャむったんだよ…」
世里凪はコッキングレバーを引きながら、空薬莢を引き抜き素早く捨てる。
のんびり持っていたら火傷してしまうのだ。
「そんな無駄なところまで"イメージ(再現)"しなくてもいいのよ馬鹿!全く、オタクなとっつあん娘が」
普段は無口な真矢であるが、こと世里凪に対しては、辛辣な罵声マシンガンと化す。
「それでなんで、"曳光弾"なわけ?こちらの位置が丸わかりじゃない!」
「うるさいな。その方が当てやすいんだよ」
真矢に向き直り、世里凪も言い返す。
もうホントに仲がいんだから♪
ほら、来るわよ!
お二人さん♪
14時の方向ーお!♪
朗らかな声で、"るおん"が言った。
「どこが!」二人はオクターブでハモりながら、左右に分かれて飛ぶ。
"黒球"が着弾する。
地面が一瞬赤黒くぼうっと光り、半径3メートルの大穴を地面に開けたやいなやすぐに元の地面に戻る。
「もうまどろっこしい!援護しろ!のろま! 」
真矢が駆け出し消える。
「うるさい 言われなくても!」
世里凪も百式短機関銃を連射しながら突進する。
先が細まったボトルネック状の真鍮製の空薬莢が、アスファルトの瓦礫の地面にチンチン…といくつも撒き散らされていく。
危ない!
"上空の声"が危険を報せる。
黒球が迫る。
「!」世里凪は、右に跳躍しそれを避ける。
『もう一人いる?…いた!』
跳躍した世里凪は上半身を右によじり、片手で百式を三連射させる。
なにも無いはずの景色が人型をにじませながらそれは倒れこみ、シューーーーと音を立てて消えた。
「光学迷彩?攻殻機動隊かよ」
世里凪は着地し、また駆け出す。
『真矢、聞こえるか?こいつら妙なワザ使うぞ』
世里凪はテレパスで、真矢に呼びかける。
『うるさいー今、それどこじゃない!このグズ!早く援護に来い!!!』
返ってきたのは予想通り可愛げのない真矢の怒鳴り声だった。
「はいはい…今行きますよ…」
世里凪がぼやくように言い。真矢の元を急ぐ…。
「まったく…どこまで行ったんだ?お姫様は…」世里凪は、瓦礫の群を右や左へと跳躍し避けながら進む。
あ いたいた…。
300メートルほどあるだろうか?真矢が姿の見えない"敵"に向かい軍刀を振り下ろしているのが見える。一体?いや三体いる。
「連中も色々やってくれる…。」
世里凪は、百式を右脇に構える。
タン! タン! タン!
真矢の背後に移動した敵を小刻みにトリガーを引き狙い撃ちする。
どうやら、一発は外れたようだ。
「やっぱり、こういう時は小銃の方がいいのか?」
打ち終えた弾倉を銃から抜き、左手に意識を集中し『弾倉』と念じる。
緑の光が左手を包み、バナナ状の黒い弾倉が現れる。そしてそれを再び銃にガチャりと挿入する。
世里凪ちゃん!
右!
るおんが叫ぶ。気がついた時は既に遅く、世里凪の右横から、空間の裂け目ができ黒いスーツの左手が、にゅーうっと伸びる。
世里凪の細い首を掴んで締め出す…。
『しまった!』
空間の裂け目から上半身を出したサングラスをした黒服がもう片方の腕を世里凪の首を掴み締めあげる。世里凪がそのまま持ち上げ荒れる。凄い力だ。
「うぐうっ…。」
宙に浮いた両足をバタバタさせながら、苦しみに歪んだ世里凪に不敵な笑いを見せる黒服男…。
百式がガチャり地面に落ちる…。
世里凪は、必死に両手で腕を取り払おうとするがその腕は外れない…。
世里凪は黒服を睨みながら、意識が遠のいてきたのを感じた…。
斬 ざん!
金属音が混ざったその音は、黒服を真っ二つにし、空間の裂け目ごと黒服男は消え、代わりに見下ろすような眼で軍刀をチャキっと握り直す、そんな真矢がいた。
世里凪は咳き込み、ペタンと地面に座り込む。
「怪我はない? のろま」
はあはあと背中で息をする世里凪に悪態をつく余裕はなかった…。
お疲れ様ー♪
お二人さん…
今"元"に戻すわね
パチン☆
指が鳴らされる音とともに、地面がめくれ上がるように緑色のマトリクスを纏いながら、夕暮れの瓦礫の街を消して行く。
ぽっぽー ぽっぽー ぽっぽー
信号機の電子の鳥の声が、鳴り響く…。
「おい!立て!」
怪訝そうに通り過ぎて行く通行人の目も気にせず、真矢が世里凪の右腕を自分の首に回し
肩をゆずり立ち上がらせる。
朦朧とした意識の中、世里凪が空を見上げる。
初夏の日差しが眼球に飛び込む。
「眩しい…」
「寝ぼけたこと言ってないで行くぞ」
「真矢?」
「うん?」
「ありがとう…」
「ふ、フン!」
「真矢?」
「あんだよっ!」
「スタバのアイスコーヒーが飲みたい…」
「あーわかった、わかったよ、ったく…」
通行人の群れを避けながら、二人の少女は、札幌駅へと歩いて行った。
…ナオヤがこの世界に秋山世里凪として転生してきて、(早二ヶ月ほど)が経っていた。
といっても、何度も "巻き戻したり、早送り"されるので、この時間感覚も怪しいものだが…。
まさか自分がこんな戦争ごっこのような真似をするとは思ってもいなかった。
ウンザリだが、仕方のない事だ…朦朧としながら、世里凪が真矢の肩に自分の顔をコテりと寄せる。
「ちょ!ちょっと!あんまりひっつくな!」
「きめーんだよ!」
真矢が頰を赤らめ怒鳴る。