Chapter 1 - 第一話
人生というものには刺激というものが必要である。
刺激がなく毎回同じことの繰り返しでは色々と飽きてしまうから。
人間、飽きると何もやらなくなるし何より飽きによる現状への慣れが恐ろしいのだ。慣れというのは心の緩み、現状維持は相対的な衰退と変わらない。実に面倒くさく厄介な事柄である。
しかし時として刺激ですらも命取りにもなりかねないということも忘れずに肝に銘じておくべき。
刺激を求めるが故に望まない方向へ進んでしまっては本末転倒というものだ。
一見なんともないような小さな刺激によって歯車はズレて狂うということ。それ単品ではなんともなくてもそれだけでは収まらない、どんどんと周りを巻き込みズレは歪みへと変わり歪みは破滅へと向かう。
つまるところ大したことは無いと思っていた小さな刺激だけでもそれは大きな歪みとなるということ。行くところまで行くと取り返しがつかなくなるということ。
結局何が言いたいのかっていうのは今を大切にしないといけないということ。それがきっと一番大切なこと。そこに気がつけるか気がつけないか。
でも、刺激がありすぎるのも問題があるんだよね。
空を見上げるとそんな私の悩みなんかはつゆ知らず、相変わらず清々しいほどに澄み渡っている。燦々《さんさん》と降り注ぐ太陽の光は優しく暖かい。
***
「……ふぅ~」
それにしてもすごい量の花びらである。
たった一夜放置していただけなのにここまで参道をピンク色に埋め尽くすとは驚きが隠せない。とても綺麗なのだけれども、掃除の大変さというものは格段に上がってしまうのが大きな難点である。
そして何より時折吹く風が集めた花びらを撒き散らすことが非常に耐え難い。おかげで掃除はいつもよりもさらに時間が掛かる。いつまでたっても終わらないような錯覚に軽いため息をついたその時。
「どうだい花撫《かなで》、調子の方は」
唐突に後ろから声がかかった。
「いつも通り何の問題もありませんよ」
「ふむ、そうかそうか……なら良かった」
彼は何か言いたげに口を開いたが結局それだけを言い残して箒《ほうき》を担ぎ口笛を吹きながら拝殿の方へと歩いていく。
茶色がかった短い髪(本人曰く地毛らしい)と確かな力を感じるけれどもやる気のなさそうな黒い眼、あとはあの少々面倒くさがりのあの精神さえどうにかすればもっとまともになるのだろうけれどあれがここの神主。
あり得ないって思うかもしれない。でも紛れもない事実、変わらない真実。
そして彼がいなければ今の私もないのだということ、やはり人生というものは分からないものであるということを再認識する。次々と別の方向へ向かって転がっていく。
「きっと私が思っているよりも……」
案外、何もないような日々が一番刺激にあふれていたりする。
何より何事も気が付こうとしなければ気が付けない……のかもしれない。