
一章
目が覚めるとそこは見知らぬベッドの上だった。とは言っても、いつものことだから慣れっこだ。
ベッドから降りると自由に体が動かせた。ラッキー、と呟きながら近くのテーブルの上を見ると一通の手紙が置いてある。
《お疲れ様です。昨日より聞いてるかとは思いますが、本日はホラーゲームにお入りいただきます。基本はプレイヤーのコントロールに従ってください。初めてだと思うので地図も同封しておきます、一通り回っておいてください。普段は19時ごろからスタートが多いです。》
手紙を読み、その下にもう一枚紙が置いてあるのを確認する。それを開きながら時間も確認しておく。
9時。
10時間近くもあればよほど広いマップでなければ全て周り切れるだろう。
俺はとりあえず、携帯と財布だけ持って部屋を出る。
外は村のようになっていて、自宅の他にも何軒か家はある。しかしどう見てもボロい、というより半壊はしており、きっとゲーム起動時は部屋を出たら崩れ落ちそうだな、など考えていると不意に声をかけられる。
「あのー、すみません。主人公さんですか?」
「ええ、あなたは?」
「あ、私はこの村に住む化け物です。とりあえず外に出たら私と友人が襲いかかるという感じです。」
目の前に佇む緑色のスライム状のやつは淡々と話を進める。
「君が最初の敵、ということになるのか。よろしく。」
「おそらく1番顔を合わせることになると思います。」
その言葉に思わず苦笑いを浮かべる。
「主人公さんはここのダンジョン初めてですよね?」
「ええ、ホラーRPG自体もほとんど経験ないんです。」
「それなら下見は必要ですね。一通り私がご案内します。」
スライム状のやつはそう言うと街の中を案内してくれた。
「主人公さんの家を出て正面に林、というより森があります。まあ、踏み入れることができないのであるだけ、なんですけどね。」
「ホラーってやっぱボロボロなんだな。」
「まあ、そうですね、近年は綺麗なものもありますけどRPG要素があるものはだいたいこんな感じですよ、私も何度か出向したことありますけどこんなもんです。」
その後はスライムにホラーゲームで起こりうることをいくつか聞き、ポイント毎に出会うモンスターと軽い挨拶を交わした。
「主人公さん、今回のゲームの目的はなんだと思います?」
「んー、ホラーだとやっぱ脱出とか、逃げてアイテム手に入れる、みたいな」
「なんとなくはわかってるんですね、このゲームもご多分に漏れず脱出系です。一通り案内してきたところは一つの村とその近隣で、この周辺地域自体が立ち入り禁止になっている設定なんです。今正面に見えてる太い木がありますよね、あそこを抜けたら終わりです。」
スライムの視線の先には高さは他と変わらないが2周りほど幹が太い木があった。
「それでは、そろそろ戻りましょうか。案内回っているときにも言いましたけど、ホラーRPGは謎解き要素が多いんで、あんまりイライラしないようにしてくださいね。」
「あの、ボスみたいなのっていないんですか?」
「ボス、と言うよりはトップは統括部長のようなものですね」
「その人ってどこにいるんですか?」
「それはわからないんです。ゲーム開始時に難易度選択があるのですがその難易度の通告しかしてこないんです。」
スライムは半ば呆れたような口調で話す。
「それでは、そろそろお別れですね。」
家の近くに戻ってくるとスライムは他の空き家に入っていった。
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