オオカミか幼なじみか選べない……。

Chapter 36 - フロール 恐ろしい作戦

本多 狼2020/10/18 02:03
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「一緒に湖に来てくれ」

 翌朝、メルたちが朝食を終えると、先に済ませていたバズが険しい表情でやって来た。

「仕事を頼まれた。みんなの力を借りたい」

 

 季節はもう夏だというのに、数日前から、この辺りの川が凍っているらしい。

 涼しそうに思えるが、舟が行き来できないため、商売を中心に支障が出始めている。

 そして、このコルリスの南にあるラーゴ湖に、なぜかサメが現れるようになった。

 誰彼構わず襲いかかるので、湖に近付けない、漁に出られない、といった苦情が多数。

 しかも、そのサメのそばには、怪しい男がいたというのである。

 

「まつろわぬ民は、絆の民以外は襲わない。そう思ってたんだが、今回は違う……」

「ワシらを集めるために、わざとやっているのかもしれんのぉ」

「ヴィオが思うに、これはきっと、罠に違いありません」

「フムフム、そのとおりだフム」

「アウラは、どう思う?」

 メルが尋ねる。

「アタシは行くわ。ベスタに近付けるのなら、どこへだって」

「じゃあ、決まりね」

 フロールがみんなを見て、力強くうなずいた。

 

     *

 

「フムフム、問題はどうやって戦うかだフム」

 湖に向かいながら、フムスが疑問を口にする。

「そうなんだ。引き受けたはいいが、水の中じゃどう考えても俺たちには不利だからな」

 バズも悩んでいる。

 依頼を受けた本人だからこそ、責任を強く感じているようだ。

「ヴィオも……分からないです」

「ワシも、水中だけは……思いつかんのじゃ」

「でも、なんとかしよう。これ以上被害が出ないように」

 メルがみんなを励まそうとする。

 そのとき、メルたちの目の前にボールのようなものが飛んできた。

 

 カラフルなそれは、ぼよんぼよんと弾み、不規則に動く。

 気になったアウラが反射的に前足を伸ばす。

「だめーっ!」

 子どもの声だ――。

 

 しかし、時すでに遅く、アウラの爪によって、それは水を飛び散らせながら無残に割れてしまった。

「うわ~ん、ぼくの水風船だったのに~」

 男の子が泣き叫ぶ。その横で、姉と思われる女の子が優しくなだめている。

 その様子を見て、顔に水のかかったアウラがすまなそうな顔をしている。

 

「ごめんね。代わりのものを買いに行こう」

 メルはそう言って、男の子の手を取り、水風船の露店へ連れて行った。

 

 新しいものを手に入れた男の子は、すっかり機嫌を直して、

「お兄ちゃん、ばいばーい」

と手を振って帰って行く。

 そのあとを追うように、女の子が丁寧にメルたちへお辞儀をして、小走りに去って行った。

 

 この一連の出来事を無言で見ていたフロール。

 彼女は、子どもたちにやきもちをやいていた……のではない。

 ひとつ、戦いに使えそうな恐ろしい作戦を思いついていたのであった――。