オオカミか幼なじみか選べない……。

Chapter 19 - 付いてってあげてもいいわよ

本多 狼2020/09/13 01:05
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 街道を吹き渡って行く五月の風を感じながら、二人は西へと向かった。

 追い風が、うっすら汗ばんだ肌に心地よかった。

 

 村から一時間ほど歩いたころ、アウラが異変に気付いた。

 辺りの匂いを入念に嗅ぎ始めたアウラは、やがて街道沿いのとある木立に辿り着く。

 そして、アウラの鼻先に押されながら、木々の間から姿を現したのは……。

 

「フロール!」

 メルは驚きのあまり、大声でその名を叫んだ。

「あ、あはははは……き、奇遇ねぇ、こんな所で会うなんて……」

 彼女は普段とは違い、大きな荷物を肩に掛けて、すっかり旅人のような姿になっている。

 さすがのメルでも、この不自然さに気付かないわけがない。

「フロール、もしかして……」

「メ、メルは私がいないとダメなんだから。つ、付いてってあげてもいいわよ」

 メルは無表情でフロールを見つめる。

 しばしの沈黙……。

 

「いいんじゃない――あなたとお母さんが倒れたとき、フロールはずっと看病してくれたわ。アタシもそばで見ていたけど、彼女の薬の知識は、きっと旅の役に立つはずよ」

 フロールの言葉は分からないものの、二人のやりとりからすべてを察したアウラ。

「そして何より……あなたと離れたくないって顔をしてるわよ?」

 ゆっくりと戻ってきたアウラが、からかうようにメルを見上げる。

 メルは、赤くなった顔を隠すように、服の胸元をバタバタさせる。

「……分かったよ」

 

 その言葉を聞いて、フロールは満面の笑みで駆け寄ってきた。

「私がいないと、メル、死にそうだからさ。回復は、お姉さんにドンと任せなさい!」

「だから~、一歳しか違わないってー」

 

 アウラは、二人のやりとりを引き続き興味深そうに聞いていた。

 だが、フロールの言葉は分からないままだ。

 

 ふと思い出したように、アウラはメルを呼ぶ。

「ねぇ、メル。お母さんから渡されたペンダントなんだけど」

「これのことかい?」

 メルは、アウラに見えるように、首元からペンダントを取り出す。

「それを、フロールに触らせてみて」

 不思議そうな顔をしながら、メルは言うとおりにフロールに声を掛ける。

「フロール、このペンダントを触ってみて? アウラが、そう言ってるんだ」

「分かったわ。どれどれ……きれいなペンダントね」

 フロールが触れると、ペンダントは青く輝き出した。

 

「フロール、聞こえる?」

「えっ?」

「アタシよ。こっちこっち、アウラよ」

 

 アウラを見たフロールが、今まで誰も聞いたことのないような叫び声を上げた。

「*#※?$%!」

 

 それからのフロールは、アウラに質問攻めだった。

 どこから来たの、どうして話せるの、どうやってメルとバインドしたの、などなど。

「すごい……動物と話せるなんて!」

 フロールはあれからずっとしゃべっている。

 ペンダントにそんな力があったなんて、メルもそれには驚いた。

 

「フロールのように、絆の民と親しい間柄の人なら可能だって、思い出したの。このペンダントがある限り、絆の民とのバインドを終えた動物たちと話ができるはずよ。もちろん、信頼できないような人や、動物と話せるなんて信じない人には無理だけどね」

「そっか……母さんやジンクにも教えたかったなぁ」

「そうね。いつか村に帰ったら、かな」

「そういえば、フロールは黙って出て来たの?」

 メルは、フロールに尋ねてみた。

「えーっと……パパには言ってきたわよ。パパは私の言うことに反対しないから!」

「だから村を出るとき、ジンクはあんなモゴモゴした話し方だったんだな」

「そ、そうだったの?」

「今ごろ、奥さんにこっぴどく叱られてるわね」

 アウラの一言で、メルもフロールも黙ってしまった。妻圧勝の夫婦喧嘩が頭をよぎる。

 

「……ははは。さーて、日が暮れる前に次の町へ行かなくちゃね。ほらほら……」

 引きつった顔でフロールが言葉を絞り出す。

「ジンク、大丈夫かしら……」

「……ダメかもしれない」