波間に小さく息をする

Chapter 3 - 今後の進退について、その1

水谷なっぱ2020/08/28 13:45
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 今回のことで景がわかったことは"恵は景と結婚する気はない"ということだ。景も恵も28歳。恵はさておき女性である景が次を考えるならそろそろリミットである。これ以上、将来について考えられない相手と一緒にいるのはいかがなものか。いつまでもふらふらできないのである。しかしだからといって簡単に次の相手が見つかるとも思えない。なんといっても28歳なのだ。それに一応、恵になんの情もないかと言われればそんなことはない。5年の付き合いは決して上辺だけのものではなかったから。

 けど。

 これ以上は。

 駄目なのだ。

 恵について少し調べてみようと景は思う。本当に本当に結婚する気がないのか。この期に及んでまだそんな期待を持ってしまう自分が恨めしいけれど、なにもせずに別れるというのは味気がない。

 どうやって調べようか。恵のスマートフォンのパスワードはわかる。共通の友達もいる。それで十分ではないだろうか。

 あまり深入りしすぎても泥沼にハマる気がしたし、実は惠に結婚する気があったのだとしても、今まで通りの付き合いを続けられる気はしなかった。

 とりあえず、と景は共通の友達に連絡を取る。たまには惠抜きでごはんでも、と誘うと相手はすんなり乗ってくれた。

 それから恵に謝っているようなそうでもないようなメッセージを送ってやり取りをする。その日の内に恵の家に行ってご飯を作り、お酒を飲ませると彼はあっさり眠ってしまった。

 単純なものだなと景は落胆したような気持ちになる。これ以上落胆することなどないはずなのに、わずかに心が沈むのは何故だろう。もはや引くところのない思いで景は恵のスマートフォンに手を伸ばした。



 数日後の友達との食事もあっさり終わった。友達が恵について知っていたことは、景が得た情報とだいたい一致していた。多少美化されていたことくらいだろうか。

 友達は景にも恵にも親切ではあったが、恵の気持ちもわかってやれよと言われた時点で景の心は氷点下まで冷え込んだ。