Chapter 2 - 船の国テイラム
初めての旅は驚くほど順調に進んでいる。
マバの国は小さく、あっという間に隣国の「テイラム国」へと入国した僕は宿探しも終え、テイラムを観光していた。
テイラムの国は船を使った漁など水産業が盛んで、他国との貿易も頻繁に行っているためマバの国とは比べものにならないほどの都会的な雰囲気が僕を魅了した。
隣同士なのにここまで違うんだなぁ。
まぁ、それも当たり前でマバの国とテイラムの国境には大きな山々が広がっているため、港も無く水産業に疎いマバとテイラムでは輸出入が行われることはほとんどない。
「そこのお兄さん!旅のお人かい?よかったらうちで休んで行きなよ。酒も女もうちはどれも逸品しか扱ってないよ!」
声をかけられた方へ振り返ると、酔いが回り赤い顔をした男とほぼ裸の、というかむしろ裸の方がましな格好をした女性たちがこちらを見て手招きをしている。
「だ、大丈夫!僕は疲れてないので……宿にそろそろ戻らなきゃ!」
「なんでぇ?宿なんて閉まらにゃしねーよ。こっち来て飲もうぜ」
げっ、近づいてくるなよ。
「門限があるんだ!それを条件で安く泊まらせてもらってる。だから戻らなきゃ!」
嘘である。
「あ〜ん?…………なら仕方がねぇな」
酔いでうまく思考が回らないのか、男はそう言うと客引きの持ち場へ戻っていった。
まったく、仕事中に酒なんて飲むなよな。
よく見てみればあたりはそういう店ばかりだ。いつのまにか娼婦街に来てたのか…
回れ右をして歩き出す。
陽は落ち、辺りはもう街灯なしでは真っ暗だ。ここの街灯はマバよりも明るいな。きっと優秀なランプライターがいるんだろう。
ランプライターは魔術を使えないものが多い田舎国にとって重要な職業の1つで、彼らの魔力量や技量によって明るさや光の色が異なる。
マバにいたランプライターの光は時々チカチカとして消えるんじゃないかと心配になる日もあったけど、ここの街灯はしっかりと輝き、優しい光を放っていた。
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サパーを終え、ベットに横になると不意に忘れていた疲れがどっと押し寄せる。
知らない街で1人の孤独感、不慣れな旅での疲労感、緊張感。そして少しの焦燥感。
ロウソクにマッチでつけた頼りない明かりはゆらゆらと揺れて、風が吹けばすぐにでも消えてしまいそうだ。明かりが消えてしまうのが怖くて窓を開けれないから部屋が酷く蒸し暑い。
寝るときには窓を開けよう…
母から受け取った剣を手に取り、鞘から抜いてみる。
両刃の剣先は鋭く、触れれば指を切ってしまいそうだ。母さんはなんでこんな物騒なものを僕に持たせたんだ?
そういえば、港にいた人たちはみんな剣や鎧を身につけていたな…
戦でもあるのだろうか?それにしては武装していた人数は少ないよな…
まー考えても仕方ないか…
今日はもう寝よう。明日には貨物船に乗せてもらってアテガンナの国境にある「ヨーシュパ国」への船旅が始まる。
8日間も陸から離れるんだ。嵐が来なければいいけど…
あ……窓…開けてないし…
まぁ、眠いし………いっか