魔技者2020/09/15 14:04
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「長いー、ロウ・ガイ話がめっちゃ長いー

2行でまとめなさい」

アリサが文句を言う。



「無理じゃ、しかしアリサの怒った顔も可愛いのうw

男ロウ.ガイ62歳。本気で心奪われそうじゃわい

わし真剣です、付き合って下さい。なんてのw」

51歳離れた男からの唐突の愛の告白。



「やだよ、私には心に決めた人がいる」

心からの拒絶の一言。



「0,1秒で振られてしもうたわ、ふぉっふぉっふぉっ

ほほう興味あるのう。心に決めた人とは一体誰じゃ? 

まさかそこの若いのか」



「残念だけど外れよ。彼女もいるしね。

でも彼、彼女がいるのに

私にカラオケ行こうって誘ってきたけどね」

実際は誘われてまんざらでもなかった癖に

被害者ぶる謎のアリサ。



「何じゃと? なんという破廉恥な男じゃ! 

人気投票で最下位確定じゃな」



「うん」

と、その時。



「ぐっす、うわおんおーん」

八郎が泣いていた。

まるで遊園地で迷子になった子供の様に

人気投票で最下位と言われ泣いているのか? 

まあそれも仕方のない事

私がもし最下位であったとしたら

恐らく発狂し、自らの髪を半分以上毟むしり取り

語り専用マイクを床に叩き付けるであろう。

でももし♡ 上位ランクイン出来たなら

仕事も増える事を想定し

のど飴を舐めたりハーブティを飲んだりして

喉を労わるであろうな。



ぬ? お前は登場人物ではないから

その対象ではないであるだと?

ヌ・ヌオオオオオオオォ

……話が脱線した……すまぬ。

いや、違う様だ

恐らくロウ・ガイの長話を聞かされて

大の大人でも泣いてしまったのであろう。



「いい友達が居たんですね。

ぐっす、うわおんおーん感動しました!」

ほほう、そっちだったか……



「え?」



八郎は、話の長さで泣いていたのでは無く

話の内容をしっかり聞いた上で感動して泣いていた。

今時珍しい若者である。

「ふぉっふぉっふぉっ、心の清らかな若者じゃの。

じゃがの、お主の言葉には幾つも間違いがあるぞ」



「え?」



「団長はまだ生きとるよ。そして

いい友達が、居たと言ってしもうたが、まだ友達じゃ。

妙技団から、このホテルに引き抜かれる時も涙を流し



「またいつでもうちの料理人に戻ってくれていいんだよ」



と言ってくれたしの。勝手に死なせないでほしいのう」



「あ、そうなんですか? 引き抜かれる? 

ガイさんはこのホテルに居たんですか?」



「うむ。じゃが、この前の食中毒の件の責任を

全て擦り付けられ首になったのじゃ……

その時のオーナーの怒った顔の憎たらしさときたら

今でも忘れられんぞい。

まるで、怒った巻き○その様じゃった」

髭を弄りながら話すガイ。



「腕を見込まれ引き抜かれたのに少しのミスで

捨てられたんですか……勝手ですね。

すいません、嫌な事を思い出させてしまいました。

そして、なんか勝手に死んだ友達から

受け継いだ最後の秘技の話をされていたと

勘違いしてしまいましたし」

涙を手でぬぐいつつ謝る八郎。



「わしもこんな所に来るんじゃなかったと

後悔しとるよ。確か30年くらい前じゃったの。

このホテルの前のオーナーが中国妙技団のファンでの

わしが一度だけ舞台に出た時にも見に来てくれてのう。

その時、厨房まで入ってきて話をしている内に

意気投合しての。

一度きりの出演で、本職は料理人です

と話したら、是非私のホテルで料理をして欲しいと

頼んで来たのじゃ。じゃから

雇ってくれた人とクビにした奴は別じゃ

妙技団の方も良い料理人はわしが沢山育てたし

わしが抜けてもやっていけると判断し

移籍を飲んだのじゃ。

 そして、もう一つの理由があったんじゃ

それが近い内にそのホテルに林総理が

泊まりに来るから

是非貴方の最高の料理を作って欲しいと頼まれた。

それがダメ押しとなり、移籍する事になったのじゃ。

わしの料理があの総理の口に入ると思うと

妙技団にも未練があったがそれを上回ってしもうてのう。

今思えば、メイリンには済まぬ事をしたと思うとる。

それと、わしも勘違いする様な事を

言ってしまったかも知れんのじゃ。お互い様じゃの」



「そんな事があったのですか……」

神妙な面持ちで聞き入る八郎。



「しかしアリサよ、お主はどこかで・・

いや気のせいかのう? 

あやつに目元がそっくりじゃ、だが待てよ? 

髪の色が・・やはり気のせいか?・・」

ぶつぶつ何か言うロウ・ガイ。





第4章 アリサの力



アリサ、ロウ・ガイ、八郎の3人の元に

部屋の隅でポーカーをしてたオーナーが

悪臭を放ちやってきた。愛犬の橋本もついて来ている。

犬は人間より遥か優れた嗅覚の筈だが大丈夫だろうか? 

それとももう既に悪臭で鼻をやられ機能しないから

平気なのだろうか? 橋本本人に聞かないと分からない。



ズササッ



アリサはそれに気づき、ロウ・ガイの後ろに隠れる。



「やあ、あなた、ダーツ上、手ですね。しか。し

どこかで見た事があ。ります。

前にお会いした、事はあ、りますか?」

相変わらず変な所で息継ぎをするオーナー。

癖なのだろうか?



「これはダーツと言うのか。

成程、褒められると嬉しいもんじゃ。

だが、お主とは初対面じゃ、何か用かの?」

ロウ・ガイは嘘を突いた。

当然初対面では無く自分を首にした張本人。

だが、付け髭の変装の効果もあり

オーナーはその事に全く気付いていない。



「わが、イーグルスノーホテルの。

遊、戯。室においでな、さった者共に、は

直、接感想を、聞きた、いのです

私がお作りなさったこ、の遊戯室を

楽し。んで♪いますか? よしよ。しいい子。だ、ぞ」



橋本を撫でつつ笑顔で聞いてくるオーナー。

笑顔なのだが、3人はその笑顔には返さず

俯いて聞いている。やはり、彼の話し方は

区切る所や敬語の使い方がおかしい。



 そして、言葉遣いこそ丁寧だが、所々に

人をイラつかせる表現が見え隠れしている。

変な所で区切るのは、恐らく頭の回転が遅いので

一言喋る度に脳みそと相談し次の言葉を導き出す為

時間が掛かってしまうのだろうか?



「ふむ、まだ来てダーツを一回やっただけじゃ。

色々回ってからにしてはくれんか?」



「成程。そうでし、たか、そうですよね

色。々回ってからですよねそれは失礼しまし。た

そ。この髪の薄。い若い男にも聞いて、みようかな?」

オーナーは失礼な事を言いつつ八郎に体を向ける。

すると八郎は、ちょっと顔をしかめつつそらす。



「ぐがっ、こっここここ、この雰囲気は好きですね。

センスを感じると思いますよ」



鼻に直接あの臭いが入ってしまったのか苦しそうな八郎。

何故かお世辞を言っている。

早くどこかへ行って欲しいという感じが見て取れる。

そう、批判を受けると誤解を解きたいと言う考えから

反論が来て、長くなってしまうのだ。だから、褒めて

これ以上相手に何かを言わせない様にする。

それが嫌な人との上手い付き合い方なのだ。

まあ、あの体臭だし

いつまでも近くにいて欲しくないというのは

人類共通の認識であるから仕方が無い。



「ほほ、うそ、うですか?、。嬉し。いです。ね

作った甲、斐があり。ますね。では、

後ろのお嬢ちゃ。んこ。この感想はど。うですか?」



 アリサがロウ・ガイの陰に隠れた事は

しっかりとオーナーにばれていた。

殴られてもすぐには痛がらずに5秒後に痛がる様な

視界も狭く、愚鈍で重鈍で鈍感な男なのだが

素早く隠れるアリサをしっかりと目で追えていたのだ。

そして、メインディッシュは最後にと言わんばかりに

ニタニタと笑い黄色い歯を見せながら

こちらに向いて歩いて来ている。



「うげげえ……話しかけられた……やだなああいつ……」

本気で嫌がるアリサ。

この声は小声でオーナーには聞こえなかった。

そして嫌々答える。



「とっても楽しいわ、(臭ッ歯ぐらい磨けこのタコ)

それにしても凄い指輪ね、その左手の……くっ」



……Warning warning!

Abnormal condition occurred……

Alisa became the deadly poison for the breath of the owner.



ちょっと引っかかると、何でも聞いてしまうアリサ。 

八郎の様に素直に褒めて会話を終わらせればいいのに

気になると何でも聞いてしまうのだ。

それが例え嫌いな人でも、その癖は変わらない。



 お? 警告が……どうやらアリサはこの瞬間に

オーナーの息で猛毒を喰らってしまった。

大丈夫なのであろうか?

しかし、オーナーはそんな事には一切気付かず

待ってましたと言わんばかりの顔をする。



「ふ。ふ、ふ、これかい? 綺麗でし。ょう? 

この指。輪は特注。品で私の指にしか入らないんだ」

と言って太い指を見せる。

これは特注でないと入らないだろう。

親指も牛の鼻輪位あるのだ。



「私は子、供の頃から戦隊モノ。のファンで

赤レ、ンジャーとか全部で5人でしょ。?

赤青、黄緑桃ってね。私の指も親指から、

ルビー サファイア ト。パーズ エメラルド

そ、して小指にはピン、クダイアの指輪をして

5レンジ。ャーごっこを毎日してるんだよ

例えばこん、な風にね」



 オーナーは突然両腕を45度に上げた後

左腕を右腕と前に交差する様なポーズを取り始めた。



「宝石戦。隊 ジュエ、レ。ンジャー!! ハ。ッ。

リ。ーダー ルビーレッ、ド シ、ャキ。ーン」



「え?」

呆然とするアリサ。そんな事気にも留めず続ける。

そして、ルビーの指輪を嵌めた

常人とは思えない程太い親指を立てながら。



「俺は、ルビーレ、ッ。ド。俺のこの真っ、赤に

燃える真紅の輝きで、君た。ちを焼き払う!」



そして、次にサファイアの指輪を嵌めた

太すぎる人差し指を立てる。



「私は、サファ。イアブルー。

海よ、りも深い青の輝きで、仲、間の傷を癒すわ!!」  



そして、トパーズを嵌めた中指を立てつつ。



「あたいは、トパーズイ。エロー。

カレーの事な、ら何。でも知っている。 

あなた好み。の最適カ、レーを振舞うわ」



「なんか中指立てながら決めてるトパーズ

めっちゃ失礼な奴だなあ」

何故かオーナーの邪魔にならぬ様小声で話すアリサ。



そして、エメラルドを嵌めた薬指以下同文



「うちは、エメラルドグリーン。

ちょっぴりビビリでシ、ャイな森ガールやで。

関西。弁なのは他。の子と被らん、ようにする為や。

どんな敵でも森のマイナ。スイオンで癒、したるでぇ!」



「ボクは、ピンクダイアピンク。

ピ。ンク以外の色、な。んか大っ嫌。い!

こ。のピンク色のスプレ、ーで、

まずは五人の。色をピン、クに統一した後に 

世界中をピン、ク色に染め、上げてみせ。る!」  



「5、人合わ。せて ジュエ、レ、ン、ジャ。ー!!」



「♪世。界、平和、はージ。ューエル、の、輝。きー♪」

続けて主題歌であろう何かを歌い始める。



「もういい。やめて!」

アリサが耐えかねてオーナーを止める。



「そ。うか? サビがい。いのに。まあい。いか

は。ぁはぁ決まっ。たよ、これ、さあ

いつも決ま、っちゃうんだよ。

どうだい? かっ、こいいだろ?」



苦痛の3分が終わった。

しかし、アリサも指輪の事を聞いた結果

こんな茶番を見せられるとは

夢にも思わなかったであろう。とんだ薮蛇である。

そしてそれを彼はかっこいいと思っている様だ。

そして、橋本はそれを見て尻尾を振っている。



「ご主人様のいつもの奴だ♪ 嬉しいハシッ」



とでも言っているのであろうか?



「かっこいいも何も 

小太りのおっさんが毒でも受けて

もがき苦しんでる様にしか見えなかったわよ。汚い。

こんな物を見せて……慰謝料を請求するわよ!

それにこの戦隊、男女の配分がおかしくない? 

赤以外女子じゃない? 子供向けではないわね。

ハーレム物っぽいじゃない。

大きいお友達向けなのかしら?

ピンクもボクって言っているけど

色から考えてどうせボクっ娘でしょ? 

しかも、まともに戦えそうなのが、赤と青だけで

攻撃技は赤の火属性のみでしょ? 

火属性吸収のレッドドラゴンとかが

敵で居たら詰みじゃないかしら?

後の三人は戦いには連れて行けない

しょぼい能力しか持っていないし

それと、ピンクダイアピンクって? 

バイク川島バイクじゃあるまいし名前が変よ

何とかならなかったの? 後、ピンクの思想

かなり危ないわ。設定をもう少しひねりなさい」



 的確に、オーナーの考え出した

これから世に出る訳でもない

架空の戦隊ジュエレンジャーに律儀にも

弱点と改善点を挙げるアリサ。



「そ、そうかお嬢さんに、は

この良さが。伝わ。らないか

まあ趣味は人それぞ、れだし仕方ないと思っているよ。

じ。ゃあ話を戻すけどこの小指にあ。るピンクダイア。

これは、と。て。も、珍しい、物ら。しく

この大きさのピンク、ダイアは世界でこれ1つらしいよ。

今でこ、そこの私。の小指に輝いてはいる、が

将。来私の妻にな、る女性に奉げるつもりなのです」



自慢と下らない趣味を聞かされ、迂闊に質問した事を

死ぬほど後悔しているアリサ。

しかし、聞き慣れない宝石ピンクダイア。世界で1つ?

そんな物を持っているという事は

相当金持ちだという事が分かる。しかし

オーナーの小指は普通の成人女性の薬指3本分なので

指輪としては使えそうに無い。

しかもオーナーの悪臭が染み付いているので余程

消臭、殺菌、消毒、表面研磨をしないと使えそうに無い。



「へえ、ホテルも所持していて

お金持ちっぽいのにまだ結婚していないんだ。

結婚しない主義なの? それとも 

余計な事にお金を使いたくないから結婚しないの?

お金持ちはどんどんお金を使ってくれなきゃ

経済が停滞しっぱなしよ?」

小学生が心配する話ではないと思うが。



「ま、さ、か! 今すぐに、でも欲し。い位、だよ。

でも私は、第一印象でどうし。てもオッケー

くれ、る人が居なくてね。

そう。だ、お嬢ちゃん、私のお、嫁に来るかい?」

第一印象もそうであるが

人類全てに致命効果のある悪臭を所持している男なので

見つかるのは稀ではないだろうか? 

そんな彼が、半分冗談だろうがアリサに求婚してくる。

アリサも女性ではあるが、まだまだ子供

この男、見境がない気がしてならない。



「嬉しいお誘いだけど、年が離れすぎているわ。

他を当たって!!」

(冗談じゃない。あんなもんと結婚する位なら

死んだほうがましよ!!

こんな臭い男と誰か結婚するのかしら)

私のお、嫁、の辺りで、食い気味で断るアリサ。



「そ。んな急、いで断らなくても……

丁度君で千、人目のお断りを食らったよ。

はぁ~一生独身かもし、れないね。

女性恐、怖症になりそうだ。折角お、金持ちになれても、

結婚出来ないって言うの。は辛いよ。

外見ば、かりでなく、少し。は、

私の内面も見。て欲しいもんだよ」

オーナーから哀愁が漂う。

千人に断られても未だに気づけないのだろうか?

しかし、折角お金持ちになれたという言葉が

何となく引っかかったがアリサはここでは気に留めず。



「ところで、ホテルの名前。イーグルスノーって

珍しい名前ね。一体何の意味があるの?」

瞬速で断った負い目もあり

アリサがもう一つ気になっていた質問をする。



「実は私の、本名が、斉藤隆之さいとうたかゆきとおっし。ゃいまして。

ホテルの名前は色々、考えなさ、りましたが

自分の名前、を英語になさろうとなさ。ったんです。

ところが隆之、を1文字ず。つ英語しなさっ、ても

お分かりにくかったので

当て字で、鳥の鷹と、冬に降る雪で鷹雪。

それを英語に、なさり。イーグルスノーです。

雪の日に鷹が、この、ホテルの陰に隠れ、

雪が通り過、ぎるまで羽を休め。る。

そんなホテルに。なさりたい、と言うイメージで

こ、の名前になさりました。お嬢、さんも

その美。しいイメ。ー。ジを、を描けた事でしょう」

陳腐なイメージを押し付けてくる隆之。

少年の様な純粋な心を持ってるアピールが半端なかった。



 そのアピールに気付いたアリサ。

隆之に対する嫌悪感が更に高まる!

そして同時に、隆之の幾つかの間違いにも気づいた。

アリサは一瞬でそれら事柄を効率よく組み立てる。

隆之が最も嫌がる様に考え抜かれた組み合わせを……

まるで、バラバラになったパズルのピースを

頭の中で完成させるかの如く。脳内で高速処理を行う。

そして、キュルルル……最大限まで脳みそを回転させ

可能な限り早口モードに変化する為、呪文を唱える! 



「ありんこあかいなあいうえお

いなえおでめてぎすちくやはんゃちばおのいさくゃぎ」

すうーー、はあーー。

先程のロウ・ガイもやっていた呪文の様な物を

見様見真似で唱えるアリサ。

その後に、深呼吸をする。そして反論が始まる……!



--------------------------------Battle start--------------------------------

Alisa VS Takayuki Saitou