Ss侍2020/08/18 07:50
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「と、いうわけで現役冒険者のお姉ちゃん。僕の魔法の特訓に付き合ってほしいんだけど」

「よしきた! お姉ちゃんにまっかせっなさーーい!」

 お姉ちゃんは自慢げかつ嬉しそうにそう言った。前々から「魔法使い系になったら試験前はお姉ちゃんが面倒みてあげる!」ってしつこく言ってたから、頼ってみることにする。

 実際、お姉ちゃんは『大魔法使い』。

 魔法使い系の職業の中で最上級の『賢者』の一つ下、『魔法使い』の二つ上、そして『大魔導師』と同格にあたる。

 『魔法使い』と『魔導師』の違いは主に扱える魔法にある。魔法使いは攻撃魔法が多く、魔導師が回復や補助の魔法が多い。また、能力による補正もその特徴に即したものが多くなる。

 本来なら同格でありほぼ違いがないものの、回復や補助が得意な魔導師の方が一枚上手という評価をする人が多い。

 まあ、お姉ちゃんは『大魔法使い』なのでそんなのもはや関係がない。様々な面でかなり優遇されている。

 お姉ちゃんは僕と同じように儀式前から優秀と判断され、事前にスカウトを受けていた。

 そして十四歳でこの国で二番目に盛えているギルドへ行き、若手としてかなりの活躍をしていた。

 けど……一年でホームシックになってうちに帰ってきてしまった。

 今では所属ギルドもこの町のものに移し、そこで活動している。

「お姉ちゃんも補助魔法は二種類使えるからね、その感覚をおしえたげる! ところでギィくん。昨日寝る前に言ってた、早速手に入れたスキルのこと詳しくわかった?」

「ああ、あれね」

 学び舎を出てから自分に新しい能力がもう付与されていることに気がついた。

 【ネバーギブアップ】。

 図鑑によると『魔法を使って魔力が枯渇したとしても、一日一度だけ微量回復する』という効果を持っているらしい。魔力切れで苦しみにくくなる分、なかなかいい能力だと言える。

「かなり便利だね。お姉ちゃんもほしいなぁ……」

「でも、ほら、僕は能力が手に入りやすいから」

「そうだよね。さすがはギィくん! ……じゃあ私、気合入れるために仕事着に着替えてくるから、ちょっと待っててね」

「うん」

 お姉ちゃんはこの庭を出て屋内に入っておそらく自室へと向かい、八分ほどして戻ってきた。お姉ちゃんの冒険者としての装備品を身につけてる姿は初めてみる。ただ……。

「じゃじゃーん! どう?」

「……魔物倒したりするのにそんなに胸、開ける必要あるの?」

 不必要な露出だと正直思う。

 他人だったら別にどうも思わないけれど、家族だったら注意したくなるような格好だ。

「おっ、おおっ!? お姉ちゃんのでも気になる? 思春期だね、男の子だね? そっかぁ、まさかクールなギィくんが私をみて……」

「違うよ、大切な家族だから心配してるの。実姉に変な男が寄り付くのは心の底から嫌だもの」

「ぎ、ギィくんっ……! だったら私も真面目な話をするね。これでも露出はかなり少ない方なんだ。若い女子向けの防具って肌を出したものしかないんだよね。パパも同じように嫌がってたけど、性能を見てこれで妥協したの。ちなみに若い女の子の魔力の流れが滞りにくくするためらしいよ?」

 そういう理由があるのなら仕方がない。あんまり府に落ちないけど。どうにも防具を作ってる人たちの趣味が込められてるような気がしてならない。

「大丈夫、冒険者になればこんな格好の子ばかりだけど、一ヶ月もすれば慣れるから! 前のギルドの同期だった男の子も女の子慣れしてないのか最初はどぎまぎしてたんだけど、一週間で普通に過ごせるようになってたもん。……にしてお姉ちゃん、心配してもらって嬉しいなぁ。ギィくん大好きだよ!」

「はいはい、僕もだよ」

 お姉ちゃんが抱きしめてきた。流石にまだ慣れてない僕に対してその格好での抱擁はやめていただきたい。

 突然、末っ子のベティの部屋の窓が開かれると、本人がひょっこりと顔を出してきた。

「おねーちゃん、わたしはーーーー?」

「もちろんティちゃんもだぁああい好きだよおおおお!」

「にへへー、わたしもー! ……おにーちゃんは?」

「もちろん僕もだよぉーー」

「にへへー! わたしも!」

 妹は満足したのか顔を引っ込めて窓を閉めた。

「ああ、私、こんなに可愛い弟と妹を持って幸せっ……!」

「ありがとう。じゃあそろそろ始めてほしいな」

「そだね。まず自分の使える魔法、どれだけあるか確認してみよっか」

「うん」

 確認してみたところ、僕の今使える魔法は『スピアップ』と『スピダウン』の二つだけ。そもそも速度に関する魔法の一種類しか使えないんだから当然だ。

 『スピアップ』は自分含めかけた相手のスピードを上げられる。『スピダウン』は逆に遅くする。

 物理攻撃の手段も、魔法攻撃の手段ももたない僕にとってはこれだけではまるで不十分。相手にダメージを与えることはできないし、仮に味方がいたとしても大した補助にはならない。

 そもそも一般的には補助魔法に魔法は大まかに二つしかない。

 単体の性能を大きく上げるか、集団の性能を一気にあげるかの二択。あとは普通の魔法図鑑には載っていないような魔法を探すか、自力で編み出すしかない。

 自力で編み出す。これに頼ることになりそうだ。

 幸運にも能力のおかげでその点は楽かもしれないけど、もちろん、自分自身でも頭を働かせて考えなくちゃ。

「ギィくんは補助魔法だけ練習すればいいから……うん、最初に私からギィくんに初級の『アタアップ』と『アタダウン』をかけるよ。魔法が発動する感覚と、補助魔法をかけられたときの感覚を覚えてね。わからなかったら何度でも繰り返してあげるから」

「ありがとう」

「それじゃ……アタアップ!」

 お姉ちゃんが僕に手のひらを向け魔力を送り込んでくる。魔法陣が頭の上から下を通り抜け終えた瞬間、身体に力がみなぎってきた。

 ひ弱な僕でも片手でリンゴを握りつぶすことができそうな気がする。

「よし、じゃあアタダウン!」

「うっ……」

 さっきまでの満ち満ちた力はどこいったのか、補助魔法同士が打ち消しあって元の僕に戻ってしまった。

 もしもう一度『アタダウン』をかけられたら力が抜けて立つことも難しくなりそうだ。

「感覚は掴んだかな? 普通一回じゃ無理だけど、前々からしっかり本で勉強してたギィくんならいけるはず」

「うん、たしかになんとなくわかったよ。効果の程も読んだ通りだったし」

「そっかそっか! じゃあ今度は私に『スピアップ』と『スピダウン』をかけてみよー! 発動方法はわかるよね? 知らなくても儀式を受けた時点でなんとなく出せるようになってるはずだし、ギィくんならやっぱり前もって把握してるもんね」

「……いくよ。スピアップ!」

 お姉ちゃんに手のひらを向け、人生初めての魔法を唱えた。ガラスのような透明感を持った、紫がかった水色の魔法陣がお姉ちゃんの頭から足へ突き抜けていく。

「お、おお! 大魔導師だけあって初級なのになかなかいい感じだよ! じゃ、すぐに『スピダウン』も放ってみて」

「わかった、スピダウン!」

 嬉しそうにいつもより早いスピードで身体を左右に振っているお姉ちゃんから、スピダウンの魔法陣が通り抜けた。

 お姉ちゃんの謎ダンスのスピードがいつも通りになった。

「よしよし、いい感じ! 初めてなのに今まで何回も魔法を唱えたことがあったみたいだったよ! さすがはギィくん! ……あれ、どったの?」

「いや……なんか、頭に違和感が……」

 かなりモヤモヤする。

 そのモヤモヤは強くなっていき、頭の中に勝手に文字として浮かび上がった。

<【特技強化・極】の効果が発動。

  魔法進化:『ビー・スピアップ』>

<【特技強化・極】の効果が発動。

  魔法進化:『ビー・スピダウン』>

<【特技強化・極】の効果が発動。

  魔法獲得:『スピアプワイド』>

<【特技強化・極】の効果が発動。

  魔法獲得:『スピダウワイド』>

「お、おーい、ギィくん……?」

「……お姉ちゃん、魔法がもう一段階進化したんだけど……」

 そう告げると、お姉ちゃんは目をパチクリさせた。

「ほんと? ほ、補助魔法だから、『ビー』ってついた?」

「うん。しかも広範囲の『ワイド』まで手に入れた」

「たった一回ずつ唱えただけで四回の取得!? 凄まじいんだね、『極』ってついたスキルって」

 本当にそう思う。いくら僕自身に事前知識があったとはいえたった一回でこんなことになるなんて。

 昨日いきなり便利な能力を手に入れてしまったのも頷ける。どんな経緯であれを手に入れたかは忘れたけど。

「せっかくだし広範囲系もさっそく唱えてみるよ!」

「よーし私を実験台に、さぁ、こい!」

「スピアプワイド!」

 色味は似ているけれど、先程とは大きさが全然違った魔法陣がお姉ちゃんの身長の二倍半くらいの高さからゆっくりめに降りてきた。この庭の半分くらいの面積は埋められそうだ。

 魔法陣がお姉ちゃんを通過すると、先程と同じようにお姉ちゃんの動く速さが少し早くなった。流石に効果は単体が対象の時より少ないみたいだけど。

 

 そしてすぐに『スピダウワイド』も唱える。『スピアプワイド』と全く同じような手順で効果が発揮された。

 ……そして恐ろしいことに、再び、僕の頭の中にはモヤモヤが現れる。

<【特技強化・極】の効果が発動。

  魔法進化:『ビー・スピアプワイド』>

<【特技強化・極】の効果が発動。

  魔法進化:『ビー・スピダウワイド』>

==========

(あとがき)

「魔法について」

 魔法は基本的に、儀式を終えた時点で判明している種類の魔法の初期のものを扱うことができるようになっています。

 よって主人公は最初2つしか使えませんでしたが、他のキャラは扱える種類に応じていくつも使えます。例えば15種ともなると、最初から20以上の魔法を扱えるでしょう。

 また、魔法にも職や能力と同じように段階が存在します。(一部存在しないものもあり)

 基本的に全部で4段階です。以下のような段階を踏みます。

「○○(無印」→「ビー・○○」→「シィ・○○」

 →「ザ・○○・デイ」

 能力と同じように鍛えることで進化させることができます。もちろん、段階が上がるたびに消費魔力・範囲・威力・影響力などなど様々なものが強力になっていき、習得も困難になります。

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