Chapter 9 - 8
一年D組、帰りの会の時間……
「一宝《いっぽう》中学校、三年C組の男子生徒が行方不明になりました。ここ数年、この町ではそういった事件が多発していますね。残念な事に、うちの学校でもついに、一人目の被害者が出てしまいました。ですので、寄り道せず、気をつけて帰りなさい」
顔面ニキビだらけの男子教師が真剣な顔をして、僕達にそう警告した。何かが腐った様な異臭を教室へ放つ教師は、このクラスの担任の加藤葉《かとうよう》。
身近な人間が被害に遭う事で、事件がより身近なものに感じる。
浮かない顔をし、自分の席に座っている飛華流と同じく、ここに居る全ての人間が……
これは、他人ごとではないと思った。
「えっ ? その人、俺の部活の先輩なんだけど……」
「まじか……誰かに誘拐されたのか ?」
「いや、殺人事件かもよ ?」
「遺体が、どこかに隠されてたりして……怖すぎるー」
葉《よう》の言葉に、生徒達がざわざわと騒ぎ出す。
そんな中、透き通ったブラウンの瞳を持つ、華やかな顔立ちの美少女が口を開いた。彼女は、花崎凛《はなざきりん》。クラスのマドンナだ。
「神隠しなんじゃないかな……」
凛《りん》が声を上げると、しばらく教室は静まった。
一宝《いっぽう》町の住人が、次々と姿を消すこの怪事件。行方不明になり、発見された者はいない。それに、死体も何も見つからない。全て、あっさりと消えてしまうのだ。
だから、神隠しと信じる人もいるらしい。
閉じている様な細い目で、飛華流を睨みつけている男子生徒が居た。
「あーあ、飛華流が消えれば良いのになー」
口に食べかすの様なほくろの付いた、この小柄な少年は佐鳥黒羽《さとりくろは》。学級委員でありながら、飛華流をいじめている根性が悪い男だ。
不運な事に、飛華流はそんないじめっ子と隣の席にされてしまっていた。
(黒羽《くろは》が、消えちゃえば良いのに……)
心の中で、飛華流がそう呟くと……
葉が、いきなり笑い声を上げる。
「アッハハハハハ……こらこら、笑うなよかまいたちー」
すると、それにつられてクラス中が笑い出す。
心無い黒羽の発言を注意するフリをし、葉は生徒達と共に飛華流の事を馬鹿にしたのだ。彼は教師でありながら、か弱い生徒をターゲットにして楽しむ様な腐った人間である。
(くっそ……今日もこれかよ。もう、僕の心が持たない)
(面白いと思って、お前達をかまいたちだなんて言ってるんだろうけど……何回聞いても、そのギャグつまらないんだよ)
瞳を潤ませながら、飛華流は葉の取った行動に怒りを感じていた。
(そうだ皆、僕が存在する事を許さない。確かに、生きていても何の役にも立たない僕は、消えるべきだよな)
(僕も、神隠しか何か事件に巻き込まれて消えてしまえばいいのに)
悲しくて苦しくて、飛華流は今にも泣いてしまいそうだった。けれど、こんな所で泣いてたまるかと、彼は必死に涙を堪え、じっと耐えた。