Chapter 1 - 第一章 タバコの煙
雨が、降っている。
男は駅ビルのポケットパークの椅子に座りながら、ボンヤリ眺めていた。
交差点から溢れ出す人波の中に、電話で聞いた目印を捜している。
時折、自分の頭を神経質そうに撫で上げている。
冬枯れを待つ秋の樹木のように、いじらしくも耐えていた髪の毛が一本一本、男から別れを告げていき、それでも男はその存在を確かめる行為を、やめる事は出来なかった。
(何をやっているんだろう・・・俺は。)
男はポケットからタバコを取り出すと、火をつけた。
浅く吸い込んだ煙を力無く吐くと、又、交差点に目を向けた。
(どうせ・・・来るわけがない・・・。)
タバコの煙が真っ直ぐに昇って白いラインを作りながら、グレーの街を切り取っている。
風が無いのだろう。
今日は少し、蒸し暑い気がする。