入見 潤2022/01/18 04:27
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「あ!ママーーーーー!!!」


幸(ゆき)の声がした。園庭で遊んでいたようだ。


先生にきちんとご挨拶をしている娘を見ると、成長したなと実感する。

この前までおっぱい飲んでよちよち歩いてたのに、子供の成長は本当に早い。なんてぼ~っと物思いにふけっていたら、先生がこっちに近づいてきた。


慌てて頭を下げ、

「すみません。お迎えが遅くなっちゃって。」


「いえいえ、幸ちゃん、楽しそうにうんていで遊んでましたよ。うんてい、お上手ですね。お手手にまめがいっぱい出来ちゃって。お風呂の時、痛いかもしれない。」


「あぁ、大丈夫です。ありがとうございます。」

そう言って、いそいそと園を出た。


「ママ、今日綺麗な恰好してる~。仕事?」


ギクリ。子供は意外と親を見ている。


「うん。仕事!その後いったん家帰って着替えたのよ。」よし、私も嘘が上手い。


「そっかー。」

疑いもなく、返事をする幸。


しめしめ、5歳児をだますのはちょろいちょろい。


結局、幸を保育園へ迎えに行ってから、家に帰りついたのは16時半。長男は塾で、もうそろそろ帰ってくる頃だ。


~良かった。太雅が帰ってくる時間には間に合った。~


手を洗い、うがいを済ませてエプロンを着けた。

晩御飯は、朝の内に仕込んでおいたから、後は温めるだけ。

「うん!私って要領いい~♪」


フルで働いていた頃には到底出来なかった事。仕事がある日の朝はいつもバタバタで、幸の「髪結んで。」に答えられない日もあった。今は専業主婦だから、子供の事にも十分に時間を注いであげられる。自分自身にも余裕が生まれた。

『お金がある=幸せ』な人も世の中には大勢いるだろうが、今の私にとっては『子供に手をかけてあげられる時間、学校から帰って来た時にお迎えしてあげられる事=幸せ』だ。


すると、長男、太雅(たいが)が帰って来たのか、


“ピンポーン”

とチャイムが鳴った。


モニターを見ると、頭がちょこんと映っている。太雅だ。

鍵を持たせてあるが、なぜかチャイムを鳴らす。不思議に思い、一度聞いたら、「なんとなく」と言うあいまいな返事だった。


ランドセルをおろして鍵を出すのが面倒なのか。私が家にいるのが分かっているからなのか。私がフルで働いていた頃はしてやれなかった、学校から帰って来たときのお出迎え。

そして”おかえり”と言う言葉。これを今はしてあげられてる。太雅もそれが分かってて、わざとチャイムを押しているのかもしれない。お母さんが家で待っていてくれる。その事が、太雅にとってはすごく嬉しい事なのかもしれない。


モニターには出らずに、玄関へ向かい、鍵を開ける。


幸と二人で

「おっかえり~!」と言ってドアを開けると


太雅はニコニコしながら

「ただいまぁ」


そして、お決まりのぎゅ~っとハグ。


~あぁこの上ない幸せだ。このまま大きくなってくれたら最高だな。

・・いや、待てよ。太雅は今、小3。3か月もしたら、もう小4。そろそろ“お母さん大好き!”発言も卒業?たまにほっぺにチューしてきてくれるのも卒業??きゃぁ~~~!いやぁぁぁぁあああああああ~

(心の叫び)


頭を抱えながら、自分に問いかける。


~いや、現実を受け入れろ。反抗期が来るのは当たり前。(私の反抗期なんて小学5年から高校まであったのだから、とても言えた口じゃない)私の子だから、反抗期が来るのは覚悟しよう。私の母にもそれで随分辛い思いさせたのだ。(結婚式の時、ちゃんと両親には謝ったから、この事に関してはチャラだと思っている。)


「?どうしたのお母さん。なんか顔色悪いよ?」


「え?そう?気のせいよ。気のせい!そういや今日、給食なんだったの?」話をすり替える。


「えっとね~コッペパンと、シチューとフルーツが入ったサラダみたいなやつ」


「わ!美味しそう~。でも、今夜のわが家の夕飯も負けてないぞお。」


幸「何~?なんて食べ物?」

太雅「何何??肉?魚?俺が好きなやつ?」


「ふふふ。お風呂あがってからのお楽しみ~♪♪」


幸「え~ママ教えて~ヒントは~??」


「ヒントねぇ、、”お肉”を使った料理かな。」

もったいぶった私の言葉にワクワクさせられたのか、太雅は『お肉♪お肉♪』と言いながら、自分の部屋に入り、早速宿題に取り掛かっていた。