水谷なっぱ

テキスト

絵月と目玉焼き

その日の朝食の場には緊張が走っていた。 登場人物は二人、絵月と絵月の大学時代のゼミ友達である三波。場所は絵月が独り暮らしをしているマンションの一室。 二人は二枚の皿を中心に向かい合って無言で互いを睨んでいた。 皿の上にはそれぞれ目玉焼きが乗っている。 そう、この目玉焼きこそが二人の論争の原因であった。 「絵月ちゃん、それはおかしいと思う」 「三波こそ変だよ。これは目玉焼きなんだよ?」 「だからこそじゃん。これは目玉焼きなんだ」 「三波の言うことが理解できないんだけど」 「私には絵月ちゃんの言うことの方が全然わからないんだけど」 二人の論争に着地点はない。なぜならこれは二人を培ってきた食生活を代表する諍いであり、そこに妥協点などあるはずもない。それまでの人生、生き方、自分を形作ってきたもの。そういった諸々の哲学的問題が今まで数多くの紛争と諍いを生んできた。そう簡単に決着がつくはずもないのである。 「あのね絵月ちゃん。目玉焼きにはソースでしょ?」 「違うよ三波。塩コショウだよ」 「なんで? 目玉焼きみたいに淡白な味付けのものには甘辛くてこってりしたソースが合うじゃない」 「逆だよ。確かに白

絵月と目玉焼き