ローマでお買い物!(第七部)

第1話 - 第二十五章 きらめき

進藤 進2022/02/14 21:06
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水しぶきを上げて、たくましい男の腕がプール・エンドにタッチした。


男はプールをはい上がり、水をしたたらせてデッキチェアーの所に近づいてくる。


さゆりはイエローのビキニから長い手足をスラリと伸ばして、デッキチェアーに横たわっていた。


中央に寄せられた水着から、バストの谷間が見え隠れしている。


男に微笑みながら起き上がると、テーブルに置いてあるジュースを手渡しながら言った。


「上手なのね、泳ぎ・・・・。あとで、私にも教えてね。」


男は女の水着姿を眩しそうに眺めながら、ジュースをうまそうに飲んだ。


今日はどこにも出かけず、ホテルでゆっくり過ごす事にした。


ジムで汗を流し、スカッシュをしたあとプールに来ている。


やはり身体を動かすと気持ちがいいと、男は思った。


「そういえば高田さん達、どうしているかしら。まったく不思議なオジさんよね。ただのスケベかと思ったら、あんなに泳ぎはうまいし。イタリア語だってペラペラなんだもの。」


ストローをもてあそびながら、さゆりが言った。


「でも考えてみたら、卓也さんも最初はひどかったもんね、ふふっ。」


さゆりは何やら思い出して、一人クスクス笑っている。


男は顔を赤らめると、倒れるようにしてデッキチェアーに横たわった。


女は男を見ながら、まだ楽しそうに笑っている。


男は手を頭に組み、感慨深げに言った。


「そーだなあ、もし高田さんや広子さんがいなかったら、こうして二人でプールサイドにいるなんて事、なかったろうな・・・。」


「そうよー・・・・。私だってあんなサングラスかけてオールバックのヤクザみたいな男の人なんてごめんだったわ・・・。しかも、あのスーツの色・・・。」


さゆりは又、声をあげて笑い出した。


目から涙がにじんでくる。


男は顔を赤くしながらも、女を愛しそうに見つめている。


本当にそうだ。


よく、この天使の心を手に入れられたものだと思っている。


高田に、広子に、イタリアの神様に、感謝したいと思った。


今度、教会に寄ってゆっくりお祈りしようと思った。


そして、この二人の旅が終わるまで、自分をまだ元気にしていてくれと願う。


卓也の真剣な眼差しに気づいて、さゆりは笑うのをやめて見つめ返していた。


プールの中の嬌声が館内にこだましている。


午後の日差しが強く照らし、水面に白いループを幾つも作っている。


ローマ、三日目の午後はプールサイドで過ごしている。


室内プールの暖房が二人を暖かく包み込んでいた。


二人は手をとったまま立ち上がるとプールに向かって歩いていき、ゆっくりと身体を沈め泳ぎ出した。


水面のループが小さな光に散乱しキラキラと輝かせている。


女の黄色い水着が水の色を通して、薄いグリーンに変わる。


無数の空気の粒が女の身体にまとわり付いている。


男はゴーグル越しに女を見つめながら、後ろを泳いでいく。


あとわずかに残された時間を惜しむように、卓也は生きていく。


たとえ死んでもこうしていつも、さゆりを追いかけていきたいと思った。


明日はどこへ行こうか。


そう思うと、男はフッと水の中で微笑みを泡にした。


どこへ行こうと、女と共にいるのだ。


どこでも良い。


こうして女の後ろをついて行ければ。


女は水の中で立ち上がり、ゴーグルを取って白い歯をこぼした。


横からの日差しが女と水を照らし、キラキラ輝かせている。


水に濡れた短い髪が女の頬にまとわりついている。


男はゴーグルを外さずに女を見つめていた。


自分のうろたえた瞳を見せたくはなかった。


今さらながら女の美しさに震えている自分を。


今度は男が水に潜り逃げていった。


女は頬を膨らませると、ゴーグルをつけ男を追いかけた。


ローマ、三日目の午後が楽しく過ぎていく。