魔法のシロップ屋さん

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宇波2022/03/13 07:51
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『盗賊装備 アレシア』。


 そう大きく描かれた看板を掲げるその店の店頭には、とてもきわどい衣装の数々が並べられている。

いわゆる、ビキニアーマー。

布面積の広さも様々で、アクティビティタイプの水着のような、短いパンツとセットになっているアーマーもあれば、マイクロビキニと呼ばれる、最早隠す場所など何もないタイプのアーマーもある。

一階にいた店員さんの言う通りなら、この下に全身タイツを着るのだろうけれど。


「ほぼ全裸と変わりないじゃんね」

「むしろ、こんなに面積小さいの、女の人が好んで着るのかな?」

「いくら全身タイツを着るって言っても、ウチは絶対着ないかな」


 そんなことを言い合いながら店の中に入ると、案外普通の洋服店。

店頭に出ていた衣装が目立っていただけで、折り畳まれて陳列されている衣装は、Tシャツやジーンズなんかの、普段目にすることの多い洋服が多数揃えられている。


「すいません」

「はーい。何か御用でしょうか?」


 レジの中で作業をしていた女性の店員さん。なぜか頭に工事用のヘルメットを被っている。

彼女に声をかけると、愛想のいい返事をした後、傍に来てくれた。


「あの、ここにアドバイスをよくくれる店員さんがいると……」

「ああ! 河野こうのさんですね! 今、裏にいるから、呼んできますね!」


 河野さーん。と呼びながら裏へ向かうその店員さん。

ヘルメットをなぜか被っているから、ヘルメットさんでいいかな。

彼女が裏に行ってしばらく、入れ替わるようにもう一人、女の人が出てきた。


「はいはーい、初心者チュートリアル店員さんこと河野っすー。というか、あたしのこと知っている人ってそういないはずなんすけど、お嬢さん方、どちらから聞きました?」


 店員さんと言うよりも研究者。

店員の言葉遣いには聞こえない砕けた話し方の彼女は、無遠慮に大きな欠伸をひとつする。


「あー、と。ネアって、言ってました」

「ネア?!」


 眠そうに目を擦っていた店員さんこと河野さん。

彼女は、ネアと言う名前が出た途端、覚醒したように目を見開き、食いついてきた。


「ネア、ネア! アイツが紹介ってことは、あんたが恵美か!」

「へ、はい?! 私が恵美ですが、うわぁっ!」


 彼女のその力は一体どこから出ているのかと問い詰めたくなるほどの馬鹿力で、私のことを持ち上げる。

びっくりしているうちに、まるで子供と遊ぶように、彼女はその場でくるくる回り始めた。


「いやぁ、会いたかったよぉ! カナタがいっつも自慢していたから、どんな子なんだろってずっと気になっていたんだよ!」

「カナ、え? あの、ネアって、ちょっと待って降ろしてえぇぇ!」

「メグ―!!」


 陽夏が実力行使で止めに入って、ようやく下ろしてもらえた。

あまりの勢いの良さに、地面に下ろしてもらった後もしばらく世界が回っていた。


「いやぁ、ごめんごめん! 会えた嬉しさでつい、周りが見えなくなっててね。あたしは河野こうの 柚子ゆず! ここでデザイナー兼販売員をしてるんだ」


 尤も、販売の方は苦手だから、いつもは別の人に任せっきりだけどねぇ!

あっけらかんと笑い声を上げる彼女に、でしょうね。以外の感想は出なかった。


「で、今日は何を探しに? それとも、あたしになにか聞きたい?」

「装備を探しに来たんですけど、あの、おねえちゃんとはどんな……?」

「カナタはあたしの高校時代の後輩さー。後輩だけど、敬語なんてない気楽な関係で、ま、言っちゃえば仲のいい友達だったよ」


 姉の高校時代だと、私はまだ小学生か、中学生になったばかりの頃のはず。

私の全く知らない姉の世界の一端を覗ける気がして、わくわくしてきた。


「カナタ、いっつもいっつも妹のことばっか話しててねぇ。やれ、妹が可愛いだの、妹がテストで百点取ってきて賢いだの。もー、もしかしたら、実の親より詳しくなってるんじゃない? ってレベルで話をよく聞かされたものだよー」


 いやー、なっつかしいなぁ。

河野さんは昔のことに思いを馳せているようで、その横顔は夢を見ている少女のようになっていた。


「もう、おねえちゃんってば……。恥ずかしいなぁ」

「そんだけ愛されてるってことじゃないか」


 いいじゃないか。家族愛。

そんなことを言う河野さんに照れると同時に、「そういえば」。と私はもうひとつの質問を思い出す。


「ネアって言葉に反応してたみたいですが」

「うん。ネアもあたしの後輩さね。って言っても、よく話していたのはカナタの方だったよ」

「おねえちゃんが、ネアと知り合い?」

「カナタのいつメングループに入ってたから、友達かもねー。多分、カナタの方からよく聞いていたと思うよ。もしかしたら、あたしよりもさ」


 話に聞いて、姉が写真くらいは見せていたのかもしれない。

それだったら、姉のよしみで助けてくれたのだろうと納得はする。

だって、私の記憶を探しても、ネアの姿は存在しなかったのだから。