魔法のシロップ屋さん

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宇波2022/03/01 14:19
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「お願いします」

「はい、よろしく。三組の十八番、斎藤恵美さん」

「はい」

「それじゃあ、この石板に手を当てて」


 担当になった検査官は、生真面目そうな眼鏡の女性。

 逆三角形のメガネが不思議とよく似合う彼女に、言われるがままに石板に手を当てる。

すると、近くのコンピューターが何かしらのデータを打ち出していく。

何が書かれているのか全く分からない。


「あの、この石板って何ですか? 貴重なものなんですか?」

「いいえ、中身はコンピューターやセンサーが入っているわ。石板は雰囲気作りのための張りぼてね」

「雰囲気作り」


 私の質問に、嫌な顔をすることもなく、彼女は淡々と答えてくれる。

見た目は石だけど中身は機械だから、増産することができるのだとか。


「……はい、読み込みが終わったわ。結果を印刷するから少し待ってね」


 結果は印刷して配られるらしい。

出てきた人たちが手に持っていたのは、ジョブの書かれたプリントだったのか。

文句を言うわけではないけれど、そこはかとなくがっかり感が漂う。


「効率が大事ってことよ。手書きじゃ時間がかかるし、口で伝えても家に帰る頃にはあらかた忘れているわ。……はい、これがあなたの適正職業ジョブよ。特徴や問い合わせ機関も書かれているから、何かあればその電話番号に電話してね」

「は、はい」

「それから、この紙は適正職業ジョブ証明書とも言うわ。探索者証明書なんかを発行するまでの間の身分証になるから、絶対に無くさないでね」

「わ、了解です」

「これで適正職業ジョブ検査はおしまいよ。頑張ってね」


 生真面目そうな彼女から発された激励の言葉に、私はプリントを握りしめる。


「ありがとうございました」



 教室に戻り、真っ先に私を出迎えたのは陽夏。

彼女は二つ折りにされたプリントを手に、私の席まで歩いてくる。


「陽夏、さっきは大丈夫だった?」

「大丈夫って、何がー?」

「なんか顔色優れなかったから」

「んー、うーん……。ウチのジョブを見てくれ。んで、関係機関を見てくれれば分かると思うぜぃ」


 陽夏は続けて、私のジョブは教えても大丈夫なやつか? と確認を入れてくる。


「実はまだ見てないんだ」

「マジ? じゃあ、ここで見てもよき?」

「よきー」

「んじゃ、せーので見せ合お」


 せーの。

合わせた声と同時に、お互いがプリントを開く。


「お、メグの職業盗賊シーフじゃん。採集とか、罠張るのとか得意だってさ」

「本当だ。陽夏のは……魔法使い。適性は水属性かぁ。分かる気がする。陽夏水泳教室通ってるもんね」

「そこじゃなくって、関係機関見てくれよー」

「関係機関……。あぁー、なるほどねぇ」


 私は関係機関に書かれた、『魔法使い協会』の文字を見て納得する。

 魔法使い協会の現会長、名前は大原健斗だったか。

陽夏の実の父親であり、陽夏の母を妊娠させた挙句、結局籍を入れずにとんずらをかました男だと聞いている。

 幸いにも、陽夏の母はとんずらをかましたその男の従兄から熱烈なプロポーズを受け、これを快諾し結婚。

陽夏を生んで、三人家族で暮らしている。


「最悪だよ。何が悲しくてウチらを捨てた男の言うことをホイホイ聞かなきゃなんないのさ」

「協会は切っても切り離せないもんね……。各ジョブ向けの依頼を受けるのも、協会を通すこともあるらしいし……」


 陽夏の顔色が優れない理由が、よく分かった。

話に聞いているだけだけど、私もその男はクズだと思う。

陽夏なんて、顔も合わせたくないだろう。


「……戦闘職になるにしても、このジョブだけは絶対にイヤだって、思ったのがいけなかったのかもね」

「陽夏……」


 複雑そうな顔で、寂しそうに零す陽夏に、私は何も言えなかった。

だから、代わりに陽夏を手を包んで顔を向けさせる。


「陽夏、今日はめいいっぱいお買い物しよ。あんな男が気にならないくらい、素敵な装備を探そうよ」


 私の精一杯の励ましに、しばらく呆けたようにきょとんとしている陽夏だったが、やがて理解が追いついてきたのか、彼女は笑い出した。


「よっしゃ、今日は財布が空になるまで一杯買ってやるぜぃ」

「うんうん!」

「ついでにメグをロリータコーデで飾り付けてやろっと」

「うんう……なんで?!」


 普段通りの、軽口を叩き合える陽夏に戻ったところで、お昼のチャイムが鳴る。


「腹が減っては戦はできぬ、だっけ?」

「そうだよ。午後のお買い物に向けて、しっかり食べよ」

「っしゃー。今日のお弁当はなんだろなー、っと」


 弁当を取り出し、包みを開ける。

冷凍食品を詰めただけのいつものお弁当も、この後に買い物を控えているからか、いつもよりもおいしく感じた。