文学の狙撃者


北川 聖2022/02/25 13:17
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文学の狙撃者

文学の狙撃者

「チッまた落としやがったな」

 彼は激しい怒りと共にはらわたが煮えくり帰った。雷が落ちた。

 今回が最後と思っていた。それならば冷静に粛々と計画を実行するまでだ。猟銃に拳銃、弾数百発。磨き上げられた日本刀。

 彼はある出版社の前に車を停めた。中に入っていく。受付が止める。

「すみません、御用は何ですか」

「用はね、こういうことだよ」

 彼は日本刀で受付の首を刎ねた。夥しい血液が噴き上がる。

 彼は構わず社長室に行った。警備員が止める。彼は至近距離で拳銃で胸を射抜いた。ロビーは大混乱である。調べておいた社長室に入る。社長の顔も知っている。猟銃を出して社長の額に銃口を当てた。

「おい、誰一人逃げるんじゃない。動いたら撃つぞ」

 彼は拳銃を一発放った。

「今回の三木文学賞の選考委員と編集長を連れてこい」と言って女子社員を一人出させた。

「さもないと社長の頭は吹き飛ぶ」

 警察が何台ものパトカーでやってきた。

 女子社員は警察官にその言葉を伝えた。

 警察の方針は既に決まっていた。誰一人中へ入らせないことだ。もちろん一人も犠牲者を出すわけにはいかない。

 編集長と選考委員の二人が駆け寄ってきた。ドア越しの会話となった。

「君、編集長と選考委員がやってきたぞ。何が望みだ」

「入ってこい、さもないと社長の頭が飛ぶぞ」

 社長室はいわば密室だった。ドアが一つしかない。

「入れさせるわけにはいかない、ここで話をしよう」

 彼は、あっそうと言って男子社員の頭を撃ち抜いた。

 警察はドリルのようなもので壁に穴を開けている。

「おい、ドリルで穴を開けるのをやめろ」

 やめないので社長の膝を砕いた。ドリルが止まった。

「いいか、俺の気に食わないことをしたら中の人間の命はない。それを頭に刻み込むんだ」

 警察に編集長が「私が入ります」と言った。彼の意志は固かった。隊長が「ぜひ気をつけるように」と言った。

「お前入るようだな、だが何らかの武器を持っていては困る。全部脱げ」

 えっと驚いて隊長の方を見た。彼は「従うように」と言った

 素っ裸になった編集長が罰の悪そうな様子で中に入っていった。彼は男が人間を盾にしていることを知った。彼は男の前に跪いた。

「おい、今回の三木文学賞でなぜ俺を落とした。理由を言え。俺は3次まで行ったはずだ」

「君の作品は評価できた。だがそれ以上の人がいたということです」

「嘘ぬかせ! 俺は3次まで残った三十人の作品を全部読んだ。ファンです。読ませてください。というとみんな嬉々として読ませてくれたよ。だがどれ一つ俺の作品以上のものはなかった。お前ら、不正をしているんだろう。女子大生の作文を芥川賞にしたりして狂っているぞ。三木賞は俺の作品だったとテレビで誤りを入れ、俺の作品が三木賞だったと訂正しろ」

「それはできない、良心に誓ってできない」

 彼は腹を拳銃で撃った。

「お前らに良心があるか、十億積めば文学賞は買えるのだろう」

「そんなことは、うっうっあ、ありません」

「それなら俺の作品のどこが悪かった。言ってみろ」

「あのお名前も存じ上げないので」

「前田龍平だ。覚えておけ」

 3次を通った作品が集められた。

 編集長は虫の息だった。

「私が読みます」という威勢のいい声がドアの外でした。

「副編集長の田中です」

「ようし、お前もすっぽんぽんになって入れ、女は隠すところが多いから入り口で広げろ」

 田中副編集長はたじろいだ。そこまでこの男のために。

「さあ、入ってこい、俺の作品が一番だということを証明しろ」

 彼女は隠れるようにして脱ぎ、部屋に入った。

「前田さんの作品には人間の細やかな感情がないのよ。話の展開だって起伏がないから」

「どやっ、他の作品も読ませてもらったがみんなガラクタだぞ。あんな平凡で眠くなる小説のどこがいいのだ。全部説明しろ」

 彼女は一作ずつ読み始めた。非常に時間がかかった。

「おい、食事を持ってこい」彼の要求は大胆さを増した。

 警察は突入すべきかどうか考えあぐねた。これ以上犠牲を出すか否か、最後は突入だが、その機会を狙っていた。

 彼女は相当な時間をかけて全部読んだ。

「3次の作品だからみんなある程度いいわ。でもね突き抜けているものがないのよ。受賞作は構成がいいし言葉が精緻だわ。描写も的確だし」

 彼は猟銃の柄で殴り倒した。

「俺の作品以上のものはないんだよ。まだ分からないのか」

 彼は恥部を撃った。

「突入しましょう。疲れは限界に達しているはずです」

 だが隊長の花田は犠牲を出さない方法を考えていた。

「中に十人以上いる。突入したらあいつは打ちまくるに違いない。相当な死者も出る」

「だから突入した瞬間にスナイパーに一発で仕留めてもらうんですよ。そうすれば必要最小限の被害ですみます」

「だが人間を盾にしているからなぁ」

「やるしかありません」

「うむ。必要なスナイパー集めよ」

 3名のスナイパーが入った瞬間に色々な角度から撃つ。もうある程度の犠牲はやむを得ない。

「分かっているぞ。突入しようと思っているんだな」

「おい、副編集長、俺の小説が一番だったと言え」

 彼女は下半身からの出血が止まらない。

「それは言えません、次の回を狙ったらいいじゃないですか」

「俺は今度のに賭けておったんじゃ、もう書くのはごめんじゃ」

「そんな事では長続きしませんよ」

「馬鹿野郎、現況を見ろ。俺は生きるか死ぬかなんじゃ。どっちにしろ今度ので終わりじゃ。社長! 俺のが日本一じゃな」

 頭を銃先で小突かれた社長は

「君のは受賞作じゃない」と言った。

 彼は社長の目の前で銃を放った。顔が炎で焼け爛れた。

「あんたら、ここで主催する小説講座で俺が腹を立てて怒鳴り散らし『こんなものやめや』と言ったから目の敵にしてどうしても俺を排除しようとしているんだな。ケツの穴が小さいな」

「それは君の誤解だ。私たちは厳正な審査をして受賞作を決めたのだ」

「おい、副編集長」彼女は下半身が血に染まっていた。

「俺のと受賞作はどこがどのように違っていたんだ」

「だから、さっきも言ったように」

「嘘吐かせ! 俺のは傑作なんじゃ、認めんと殺すぞ」

 副編集長はさすがに命の危険を感じた。

「二人であの作品を三木賞が取れるように直しましょう」

「糞、直すところなんかあるかい。あれが完璧なんじゃ」

 副編集長は言葉を失った。

 着々と突入の準備がされていた。静けさに危機を感じた男は自分の周りに人を集め囲んだ。彼の趣味はクレー射撃だった。腕前はクラブの中でも指折りだった。だが大量の射撃手が襲い掛かったら一溜りもあるまい。

「テレビカメラを入れろ」と怒鳴った。

「生中継するんじゃ、しないとまた一人死ぬぞ」

「それはできない」と隊長が言った。

「バーン」という音がして女が頭を射抜かれた。

 隊長は焦り、中の様子が分かるとしてテレビカメラを入れるように指示した。暫くして国営放送がチームを組んでやって来た。

「カメラがきたぞ、どうするんだ」

「まず全部脱いでカメラを背負って中の様子を映すんじゃ」

 部屋の中は凄惨だった。

「おい、社長、テレビカメラの前で三木賞は俺だったと土下座して言うんだ」

「それはできない」

 男は社長の太ももを射抜いた。社長は跪く格好になった。

「さあ、言え」だが社長は首を振った。

 男は最初に考えていた通り遂に計画を実行した。

 彼はもちろん死ぬ覚悟だったのだ。社長の頭を吹き飛ばすと

 部屋の中にいる十五人ほどの全員に発砲した。

 それと少し遅れて発砲隊が突入して男を蜂の巣にした。その様が全国放送で流れた。彼は目的を果たしたのだ。

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