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山羊文学

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無言の罪

二十三時を回って、不穏な音が聞こえてきた。肌と肌、骨と骨がぶつかる音。夜勤室を出て隣の居室のドアを開ける。寝たと思っていた利用者のCがうずくまって自らの顔を拳で叩いていた。軽く舌打ちをする。Cはこうなるとなかなか寝ない。不眠時薬を入れたいところだが、Cは効きの良い方ではない。傍らで自傷を止め続けるしかない。 自傷の形にも色々あるが、Cの自傷はタチの悪い方だった。顔、それも眼球の近くを殴り続ける為に目立つ青痣ができる。痣はすぐさま虐待を疑われる。Cは日中、事業所に通っているから、事業所のスタッフに虐待通報を入れられたこともある。事情を知る家族すらいい顔をしない。だから幹部連中も、Cの自傷については細心の注意を払えと言ってくる。だからこそCの居室は夜勤室の隣なのだし、不審な音がすればすぐに向かわなくてはならない。 Cは他傷をしない。本来なら、他の入所者を傷つけるよりは、おとなしく自傷をしてもらう方が施設側としてはありがたい。しかしCの自傷は度を過ぎていた。それに加えてCは、不意に居室を飛び出して壁やドアに頭突きをして音を立てることがあった。それに反応して他の入所者が起きると厄介だ。夜勤の時

無言の罪