本棚記録帳

第10話 - あの夏、夢の終わりで恋をした。/冬野夜空

季月 ハイネ2020/11/30 10:19
フォロー

【もしも、過去の選択を変えられるとしたらどうしますか?(中略)

 これがあなたの望んだ世界です。

 これが貴女の望んだ夢です。

 意味もなく、必要もない、それでも望まれた偽物の世界。

 この限りある夢で、あなたは夢を見ますか?】(本文より)


 妹を亡くした透が、長い長い夢を通して選択した「今」を生きていくひと夏の物語。


 高校最後の夏。一目ぼれした女の子と過ごす夏の長期休み。受験に就職、進路に忙しい中、何か青春時代と呼びたくなるような事件が起きて欲しいと、誰もが一度は考えたことがあるのではないだろうか。

 遠回りした帰り道、騒がしくないカフェの中、めくったのは普段買わない恋愛小説。

 物語に没頭する透の耳に流れてきたのは、ピアノの旋律だった。

 咲葵との出会い。カフェでピアノを弾くなんて、もうドラマだ。切り取られたワンシーンが、もはや映画のようである。レストランやバーなどで見かける生演奏をされるピアノ奏者の方は格好いいと思う。コンクールや発表会とはまた違う緊張感の中、弾き上げるのだから。

 幕間の話は、咲葵だろうか、透だろうか、いやいや意表をついて『if』のストーリーだろうかと、正体が判明するまで追い続けてしまった。幕間のタイトルにつけられたクラシックの曲名を眺めながら、これはピアノに関連するのだろうかとそちらも考えてしまった。

 甘酸っぱいひと夏の思い出。夢のような物語。その中で、彼女は言うのだ。もしも、過去の選択を変えられるならどうするか、と。都合のいい世界。泡沫の世界が終わるとき、彼は答えを出す。

 現実の世界で後悔する人がいて、もしもの世界で苦しむ人がいて。全ての人が平等に幸せになれる世界はないのかもしれない。後悔するときは誰にだってやってくる。だからせめて、結果ではなく、選択したことに後悔しないように生きていきたい。