本棚記録帳

第6話 - 下町ロケット2 ガウディ計画/池井戸潤

季月 ハイネ2020/11/30 10:08
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「(前略)命の尊さを、会社の大小で測ることができるでしょうか。私はできないと思う。どんな会社であろうと、人の命を守るために、ひたむきに誠実に、そして強い意志を持って作ったものであれば、会社の規模などという尺度でなく、その製品が本当に優れているかどうかという、少なくとも本質的な議論で測られるべきです」(本文より)



 モノづくりに携わる人たちが立ち向かう現実と、熱意と成長の物語。


 ただハッピーエンドだけでは終わらない物語。どうしようもならない現実があって、その現実とそれぞれの立場で戦う会社員たちの話だ。

 佃製作所の経緯は、正直順調とはほど遠い。いくつもの壁が立ちはだかり、自らの手で突破することもあれば、他方面からのほころびで切り開けることもあった。それが決して他力本願ではなく、また切り崩されるのを待っていただけに見えなかったのは、佃製作所の彼らがモノづくりに対して誠実だったからだ。ただひたすらに良いモノを。目的を見失いそうなときには自らの足と目と耳で確かめる。そうして目標を明確にし、決意を新たにする。長く途方もない道のりを歩ききるには、気持ちの再装填が必要なのだと、彼らから教わった。

 佃製作所からサヤマ製作所へ移った人物がいる。作中で変化した人物は他にもいるが、彼の変化はとても清々しいものだった。

 利益と承認を求めた彼は一度出た佃製作所に戻ることはなく、自分の責任を全うする道を選んだのだ。彼にとって、これから困難な道が待ち受けてているであろうことは想像に難くない。しかし、彼は逃げなかった。逃げずに、現実と立ち向かおうとしているのだ。彼もまた、佃製作所の意思を継いだ一人だと言えよう。