本棚記録帳

第5話 - いつかここにいた貴方のために/ずっとそこにいる貴方のために/西塔鼎

季月 ハイネ2020/11/30 10:05
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 そう告げた彼の言葉に、レンカは思わず失笑する。

 地獄。そんなのは今までと何ら変わらない──いや、むしろ。

 今のこの気持ちを思うならばきっと、どんな地獄も今より・・・はマシなはずだと。

 …そう思わずには、いられなかった。(本文より)



 少年兵と兵器である少女の、互いを想った悲劇の戦争譚。


 強大な力にはそれに見合うほどの代償が必要である。費やしてきた時間だったり、人の命だったり、危険だったり。どんな戦場でも生き延びて帰ってくる【不死者】と呼ばれる少年兵が出会ったのは、『氷棺の聖女』と呼ばれる少女だった。

 不利な戦況を一変させてしまうほどの秘蹟を持った少女がその身に抱えた代償は、身体の異変と発作だった。強大すぎる力は長時間使えない。その制約のもとに、少女は兵器として生きている。

 未だ見ぬ桜を願い、終わらない雪の季節を生きているような、そんな物語だった。少女は桜を見られず、少年は少女を救えなかった。物語の結末と、作中に出てきた舞台の話がシンクロしているような、そんな錯覚を味わった。

 幸せな結末で終わった虚構の物語と、その裏に隠された本当の物語と。

 物語はいつもハッピーエンドで終わるとは限らない。救いようのない話よりは、希望が残る結末を。殺伐とした世界で誰もが見たいのは、また望まれるのは、そんなお話なのだろう。話の中だけでも幸せをと、望むのだろう。現実の全てが幸せで締めくくられるわけではないのだから。

 幸せな結末を望んだ少年と少女が現実の中で伸ばし続けた手に、意味はあったのだと思いたい。