本棚記録帳

第2話 - 読書嫌いのための図書室案内/青谷真未

季月 ハイネ2020/11/30 09:56
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 数多ある物語を、いつか来るかもしれない未来のカタログばかりとしておかないで、明日動き出すための参考書にしてもいいじゃないか。

 伝わるだろうか。伝わってほしい。緊張して手が汗ばむ。(本文より)



 活字嫌いの主人公が新聞づくりを通して、読書する人たちの考えに触れていく物語。


 活字が苦手な人にこそ騙されたと思って読んで欲しい(書店員さんの感想)、と書かれた帯に惹かれ、つい手に取ってしまった一冊。

 私自身は残念ながら比較的活字に近い位置で過ごしてきたが、今まで知っていながらも言葉に出来ず、新たな発見をしたような気持ちになった。


 図書委員となった主人公の荒坂が、ひょんなことから図書新聞の編集長に命じられ、同じクラスの図書委員、藤生とともに図書新聞を作っていく。

 荒坂が感じる色への感覚と表現が、とても繊細に描かれている。その繊細さから活字嫌いになった荒坂と、活字好きの藤生との会話は、お互いに新しい世界を知るようだ。ほとんど藤生がまくし立てている、といった方が正しいが。ただ、荒坂にも藤生にも、途方もなく広がる世界があるということは、共通して言えよう。

 色とは切り離せない生活にあった荒坂に羨ましくもあり、また同時に彼の繊細さを案じてしまう。無意識化に捉えてしまう感覚は、彼に気を休ませることをさせないでのはないかと。彼が安堵を覚えるのは、無色で無音の世界だったのかもしれない。けれど、藤生との出会いが、彼にその世界に留まらせることをよしとしなかった。自らの中に溜まった色を吐き出し、そこからさらに進むことを望んだのだ。

 進むことを藤生にも願い、ただし急かすことはせず、背中を押しもせず、「見ている」とだけ伝えて。急かしては慌てさせてしまうかもしれないから。背中を押しては転んでしまうかもしれないから。それは、彼なりの優しさだ。ただ見てくれている。見守ってくれている。それがどれだけ心強いだろうか。

 読後、ただただ「いいな」と思った。