本棚記録帳

第12話 - TAS 特別師弟捜査員/中山七里

季月 ハイネ2021/03/18 16:42
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 時間は永遠で、やろうと思えばやれないことは一つもないと漠然と考えていた。頑張りさえすればサッカー選手にもアイドルにもなれると信じていた。だけど、それがただの勘違いだと知るのに、大した時間はかからなかった。(本文より)



 演劇部員が二人続けて亡くなった。事件か事故か、警察官の従兄からの要請で探りを入れる男子高校生の話。


 学校内のアイドル的存在だった、同じクラスの楓。主人公である慎也が、彼女の飛び降りる瞬間を目撃するという衝撃な場面から、この物語は始まる。

 行われた事情聴取。従兄である公彦に、協力してくれと頼まれた慎也。協力するためだけに入部した演劇部。いつしか捜査協力よりも部活動を重んじていく流れ、新たな死者、後輩からの口約束。目まぐるしく進んでいく物語の終焉。

 もしこの物語が学生時代に存在していたなら、後味悪い思いを残して終わっていたかもしれない。公彦の思いや考えがわからず、読後以上に慎也に共感していたかもしれない。登場人物の誰に共感を抱くかで、受ける印象も変わってくる物語だ。かくいう私も大半を主人公の慎也に共感して読んでいくたのだが、完全に同意するのではなく、時折現れる公彦にも賛成してしまうような、そんな思いだった。彼が、他作品で出てくるとある人の恋人だという背景を知っているからかもしれないが。

 そして作品にこっそり入れられていた、人気漫画の台詞ネタでにやりとしてしまった。わかる人にはわかるであろう。是非同じようににやりとしてほしい。

 最後の場面、あれはある意味で作中で行われてきた術であり、等価交換だったのかもしれない。