俺が後輩を好きになった理由

第1話 - 不思議な後輩の入部

如月 イツキ2021/03/13 19:56
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「……文芸部があると聞いて、入部届け持ってきました」


桜舞う暖かな風が窓から吹き込んでくる教室で、俺が彼女から言われた初めての言葉だった。



***



俺の名前は赤坂あかさか雪斗ゆきと

入ヶ丘高校に通う二年生だ。

趣味はゲームと読書。

特に最近は電子書籍なんかが増えてきたおかげか、飽きることの無い日々を送っていた。


今日は四月十日、入学式だ。

一年生からすれば新生活を送る場である学校に正式に所属する日であり、それに伴い上級生である我々が一年生を引っ張ろうと意識を高める日でもある。

現に、いつもなら学校が終わるなり直ぐに「帰りにカラオケ寄ってこうぜ!!」などと騒いでいる運動部のクラスメイトが校門前で部活動の勧誘をするという、なかなかお目にかかれない光景が映し出されていた。


しかし、そんな中俺は……教室でただ一人、ぽつんと本を読んでいた。

俺が所属しているのは文芸部。

まぁ、部とは名ばかりで部員は俺一人、顧問は部室にすら滅多に来ないときた。

僕が入部した時には三年の先輩が居たが、全員卒業してしまった為、俺一人での部活となっている。


「ふぅ……」


本に栞を挟んで首を回す。

約一時間ほど集中して読み耽っていたので、若干首が痛かった。

スマホで時間を確認すると、現在時刻は午後二時半。

そろそろ良い時間帯なので俺は帰路に着こうと席を立った瞬間——


ガララと教室のドアが開けられ、一人の女子生徒が入室してきた。

その女子は俺の姿を見つけると、無言で近づいてきて、スっと一枚の紙を手渡してきた。


「えっ、なに……?」


渡された紙を見てみると、そこには入部届けの文字。

必要事項を記入する欄は全て埋められてあり、あとは部活の顧問と部長のサインがあれば入部できる状態となっていた。


俺が紙に目を通したあと、女子生徒を見ると、なんとその女子生徒は立ったまま眠っていた。

意味が分からず、後ずさってしまったのは俺は悪くないと思う。

だっていきなり知らない女子から入部届け渡されたと思ったら目の前で立ったまま寝てるんだぞ?

ビビるなって方が無理があるだろ。


「おーい……あのぉ、もしもし〜?」


声をかけてみても手を叩いて音を出しても一向に目を覚ます気配がない。

意を決して、立ち上がると俺は女子生徒の肩を揺すった。


「そろそろ起きて貰えます? あの、おーい!」


そこまですると、やっと女子生徒は目をゆっくりと開いた。

ボーッと俺の事を見上げ、それから俺が手に持った入部届けを見た。


「……文芸部があると聞いて、入部届け持ってきました」


なんだか安心する声色だ、とか、眠そうな声は解釈一致だな、なんてそんなことを考えて……そうじゃないと思い直した。


「えと、文芸部に入部したいってことでいい?」

「……はい」

「そっ……か。了解。じゃあ入部届けはしっかり預かったから俺と顧問のサインが終わり次第入部ってことで」


まさか部活勧誘なんてものもしてなかったのに入部希望者が現れるなんて……と思いながらも、一応新入生? の前だったから無理やり笑顔を作って——


「ようこそ、文芸部へ」


と、言った。