第3話 - 【10月31日 月曜日】
1年3組の教室の後ろのドアを開けると、後ろからとつぜん声を掛けられた。
「トリックオアトリート!向井くん、はい、これ~」
小さいチョコレートを僕の手に押し付けた女子─確か、藤口だっけ─は、急ぎ足で他のクラスの方へ向かっていった。
あれ。この言い方だと、僕って菓子をもらう方ではなくないか?
「おやおやぁ?」
一番後ろの廊下側に席を持つ小林がこちらを向いた。
「ひなた、半分くれよ~!オレ、なぜか誰にもトリックオアトリートされないんだよ」
かわいそうな奴だな…と、貰ったチョコレートをそのまま小林に渡してやった。
別に僕はいらないし。欲しいやつにあげればいい。
「やった~~!!!ひなた愛してるぜ」
「気色悪いな…そういや小林、昨日は結局なんか用事とかあったん?既読付くの結構遅かったけど」
「あ………いや~、ゲーセンで永遠にメダルゲームしてたから気付かなかった!寂しがらせてごめんな~」
「寂しがってなんかねえし」
「またまた~」
一瞬、小林の顔が歪んで見えたのは気のせいだろう。こいつ、いつもヘラヘラしてるし。相変わらず、表情筋がぐにゃぐにゃな奴だ。
チャイムが鳴り響く。一時間目の授業が始まる合図だ。
有本先生の国語の授業は今週いっぱいでおしまい。
終わったら、もう会えることは無いだろう。
会えたとしても、あちらは僕の事なんか覚えてもいないかもしれない。でも、それはしょうがない。
たった数回、図書館で会って話をしただけだったんだから。
でも、僕にとっては…少しの間できたお姉さんみたいな人だった。
きっと、忘れないと思う。
スーツ姿の有本先生。
いつもは髪を後ろで縛っているのに、今日は髪を下ろしている。
図書館で会う時と同じ髪型だ。
僕は先生の私服も知ってるんだぞ、と自慢して回りたくなるような気分になる。
日直の気だるげな号令の声が、教室に響いた。