今夜、私を殺してよ

第2話 - 芽生えた殺意 2

櫻井音衣2020/10/15 19:02
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いつも通りの朝。

テーブルの上にはバターを塗った厚切りのトーストと、固めに焼いた目玉焼き、野菜ジュースと温かいカフェ・オ・レ。

私たちはダイニングキッチンで向かい合って席に着き、いつものように朝食を取る。

あなたはトーストを一口かじって私の方を見た。


「またソファーで寝ちゃったのか?」


眠っていてもわかるくらいに、私の体は冷えきっていたんだろう。


「うん。なかなか寝付けなくてね。ベッドで横になってたら余計に目が冴えて来たからしばらくソファーに座ってたんだけど、いつの間にか眠っちゃって。明け方寒くて目が覚めたの」

「もう冬になるんだからそりゃ寒いよ。気を付けないと風邪引くぞ」


看病でもさせられたら面倒だと思っているのか、風邪をうつされたら大変だと自分の心配をしているのか。

どちらが本心なのか、あるいは両方とも本心なのかも知れないけれど、あなたの声や言葉は私の体を本気で心配してくれているんじゃないかと勘違いするほど優しい。


「そうだね。気を付ける」


熱を出して寝込んだりすると、あなたを殺せないからね。



付き合い始めて2年。

一緒に暮らし始めて今日でちょうど1年。

世間のカップルのように記念日を祝う予定もない。


彼に別居中の妻がいることを知ったのは、私たちが付き合い始めて半年が過ぎた頃だった。

結婚して2年ほど経った頃からいさかいが増えて夫婦関係がうまくいかなくなり、少し距離を置いて冷静になればまたうまくいくかも知れないと、何度も話し合った末に別居に至ったそうだ。

距離を置くことで修復を図ろうとしたはずなのに、逆にお互いの心は冷めきって、もう修復の出来ない状態になってしまったと彼は言った。


何も知らなかったとは言え、どんな事情があったとしても、家庭のある人との恋愛なんて許されないと私は思ったから、何度も彼と別れようとした。

だけどその度に『妻とは必ず離婚するからもう少し待ってくれ』と引き留められ、彼が好きだからどうしても離れることができなかった。