第3話 - 芽生えた殺意 3
妻との離婚話が進むこともないまま、付き合って1年近くが経った頃、私が少しでも安心できるように一緒に暮らそうと言い出したのは彼だった。
一緒に暮らすということは、もうじき妻との離婚が成立して、彼との関係を親や友人に堂々と明かせるのだと私は思った。
しかし彼に私という恋人がいると知った妻は『絶対に離婚はしない』と言って、離婚話には応じなかったのだそうだ。
妻が怒るのも無理はない。
別居中とは言え、彼と妻はまだ夫婦なのだから。
今にして思えば、好きだからこそもっと早く別れていれば良かった。
そうすれば彼が私だけのものにはならないことを虚しく思うことも、妻への後ろめたさに押し潰されそうになることも、彼を想って苦しむこともなかったんだ。
どんなに愛し合っていても、どれだけ一緒にいても、このままでは一緒になることは愚か、彼の存在を誰に明かすことも出来ない。
私は彼を好きになるほど罪が重くなっていくような気がしたから、一緒に暮らして1年経っても状況が何も変わらなければ、潔く別れようと決めた。
状況は何も変わらないまま月日は過ぎた。
そして1か月ほど前から彼の帰りが異様に遅い日が増え、ようやく帰ってきたと思ったら、ろくに会話もせずに眠ってしまうことが続いた。
そんな日は決まって、スーツから私の知らない女物の香水の残り香がした。
妻との決着がつかないまま私と付き合いだした時と同じように、今度は私も捨てられるのかな。
因果応報って言葉もあるし、妻が受けた屈辱を次に味わうのは私ってこと?
私も同じことをしたのだから、それは自業自得だと言って誰も私を哀れんではくれないだろう。
誰も哀れんでくれなくても構わないけれど、妻を裏切ってまで待たせていた私を捨てて、また別の人を同じ目にあわせるなんて許せない。
だから私は、優しいふりをして悪魔のように罪深きこの男を私の手で殺してしまうことにした。
本当は彼の手で死ねたら一番いいのだけれど、彼が息を引き取るのを見届けたら、私は彼の腕の中で自分の命を絶つつもりでいる。
そうすれば彼は永遠に私のものだ。
それなのに私はもう何日も、彼の命を奪うことを躊躇している。
今日こそは彼を殺して一緒に逝こう。
そう心に決めて、彼の唇に最後の『行ってらっしゃい』のキスをした。