第42話 - 指輪
歯が立たなかった。
完敗だった。
ベスタに触れることさえできなかった。
連れ去られるフロールを追いかけることもできなかった。
誰も言葉が出なかった。
勝つ方法など、あるのだろうか?
長い沈黙を破ったのは、バズだった。
「次こそは、必ず――あいつを倒すために、俺たちはここまで来たんだ」
「ワシも……そう思うのじゃ」
フロール特製の回復薬や痛み止めをみんなに使いながら、ヴィオが言う。
「そういえば……ディウブは、一言もしゃべらなかったです。あれは、操られているってことかもしれません。ヴィオが思うに、もしかしたら、本当は嫌なのかも……」
「フムフム――次に会ったときに、同じオオカミのアウラが、話しかけてみれば分かるフム」
「確かに……アタシも戦ってみて、違和感があったかもしれない――」
アウラは思う。
ベスタに「殺せ」と言われたのに、ディウブは牙も爪も一切使わなかった。
あのとき、アタシの息の根を止めることは、簡単にできたはずなのに。
仲間たちの会話を聞きながら、フロールが連れ去られた辺りをぼんやりと見つめるメル。
何かが落ちていることに気付き、あちこち痛む体を引きずるようにしながらそこへと向かう。
見覚えがある――。
紐が切れてしまっているが、あれは袋だ。
フロールにプレゼントした指輪が入っている、あの袋だ。
倒れ込みながらそれを両手で拾い、メルは腰のかばんの中に、そっとしまった。
フロールが大切に持っていてくれたこの指輪を、また渡さなくては。
メルは、覚悟を決めた。
「歩きながら、みんなで倒す方法を考えよう。日が沈む前に、絶対にフロールを助ける」
メルは立ち上がり、ゆっくりと歩き出した。
みんながそれに続いた。