本多 狼2020/11/01 03:48
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 歯が立たなかった。

 完敗だった。

 ベスタに触れることさえできなかった。

 連れ去られるフロールを追いかけることもできなかった。

 

 誰も言葉が出なかった。

 

 勝つ方法など、あるのだろうか?

 

 長い沈黙を破ったのは、バズだった。

 

「次こそは、必ず――あいつを倒すために、俺たちはここまで来たんだ」

「ワシも……そう思うのじゃ」

 

 フロール特製の回復薬や痛み止めをみんなに使いながら、ヴィオが言う。

「そういえば……ディウブは、一言もしゃべらなかったです。あれは、操られているってことかもしれません。ヴィオが思うに、もしかしたら、本当は嫌なのかも……」

「フムフム――次に会ったときに、同じオオカミのアウラが、話しかけてみれば分かるフム」

「確かに……アタシも戦ってみて、違和感があったかもしれない――」

 

 アウラは思う。

 ベスタに「殺せ」と言われたのに、ディウブは牙も爪も一切使わなかった。

 あのとき、アタシの息の根を止めることは、簡単にできたはずなのに。

 

 仲間たちの会話を聞きながら、フロールが連れ去られた辺りをぼんやりと見つめるメル。

 何かが落ちていることに気付き、あちこち痛む体を引きずるようにしながらそこへと向かう。

 見覚えがある――。

 紐が切れてしまっているが、あれは袋だ。

 フロールにプレゼントした指輪が入っている、あの袋だ。

 

 倒れ込みながらそれを両手で拾い、メルは腰のかばんの中に、そっとしまった。

 フロールが大切に持っていてくれたこの指輪を、また渡さなくては。

 メルは、覚悟を決めた。

 

「歩きながら、みんなで倒す方法を考えよう。日が沈む前に、絶対にフロールを助ける」

 メルは立ち上がり、ゆっくりと歩き出した。

 みんながそれに続いた。